密度勾配遠心法
高い分離能で生体分子を高純度精製
密度勾配遠心法とは?
密度勾配遠心法(DGC)は、 生物学的粒子を沈降係数(s値)または浮遊密度に基づいて分離するための、高度な手法です。この手法は、遠心力下において、粒子は「周囲の媒体の密度が自らの密度と等しくなる位置」まで移動するという原理に基づいています。この平衡位置によって、s値や密度の差がごくわずかな粒子間でも、精密な分離が可能になります。
この手法は、ウイルス、細菌、タンパク質、細胞外小胞、細胞小器官など生物由来因子の精製に広く適用されており、基礎研究と臨床診断の両方において、特にゲノミクス、ウイルス学、プロテオミクス等の分野で有用です。ライフサイエンス以外にでは分析化学分野にも応用されており、コロイドやエマルションの分離、密度分布やサイズ分布に基づくポリマーやナノマテリアルの特性評価にも利用されています。高い汎用性と精密さを備えた密度勾配遠心法は、科学・産業の幅広い分野において、欠かせないツールとなっています。
従来の密度勾配遠心法を拡張した密度勾配超遠心法(DGUC)は、サンプル固有の浮遊密度を利用して高い分離効率を実現し、小器官や多タンパク質アセンブリの高純度精製を可能にします。密度勾配超遠心法は、ナノバイオテクノロジーや分子生物学、ならびに不均一混合物の精密分画において、広く利用されています。さらに、この手法ではインタクトで機能的に活性な生体分子を容易に回収できるため、本来の配座や相互作用が保持されます。これは、プロテオミクス解析、構造特性評価、機能アッセイなどのアプリケーションに特に有利な特性です3,6。
密度勾配超遠心法のアプリケーション
密度勾配超遠心法は、複雑な生体マトリックスからナノサイズの生物由来因子を分離精製するのに欠かせない手法であることが実証されています。細胞小器官、ウイルス、高分子、リポタンパク質の単離における高い分離性能は、細胞の構造や機能に対する理解を大きく進展させました。細胞内構造の解明や、膜の区画化、リポタンパク質代謝などの重要な生物学的プロセスの解明に、密度勾配超遠心法は中心的な役割を果たしてきました8。

Figure 1: 密度勾配超遠心法による精製は、高純度と収率の両方が求められる困難な分離に選択されます。
近年、その適用範囲は、mRNAワクチン等の治療デリバリーシステムに不可欠な脂質ナノ粒子(LNP)の解析にも拡がっています。密度勾配超遠心法では不均一なLNPポピュレーションの分画が可能なため、その生物物理学的特性や機能的特性の詳細な特性評価を容易に実行でき、製剤の品質と治療効果を向上させます。
密度勾配超遠心法は、LNPのみならず、診断および治療への応用可能性が高く評価されている細胞外小胞(EV)の精製においても、改めて注目を集めています。従来のEV単離法では、純度と収率の両立が難しい場合が多いですが、密度勾配超遠心法は、下流の機能・構造解析に適した高品質のEV調製物が得られる、堅牢なソリューションを提供します5,8。 また、塩化セシウムを用いた密度勾配超遠心法は、遺伝子治療に広く用いられる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の精製において、重要な役割を果たしてきました。代替となる精製手法も出てきていますが、完全体キャプシドと中空キャプシドを分離できる密度勾配超遠心法では高い純度が確保されることから、現在でも、臨床グレードrAAVを製造するための標準法とされています。このような多様なアプリケーションは、基礎研究およびバイオ医薬品開発の両分野において、密度勾配超遠心法が汎用性に優れ、現在も重要な手法であることを裏付けるものです6,7。
密度勾配遠心法の種類
密度勾配に基づく分離手法は、様々な特性を利用して高い分離能を実現します。効率と品質を最大限に高めるためには、最適な方法を選択することが重要です。
- 速度ゾーン遠心法は、 主にサイズと質量に基づいて粒子を分離する手法であり、一般にs値で示されます。この手法では、粒子が平衡状態に達するか完全に沈降する前に、所望の分離レベルに達した時点で遠心が停止されます。この手法は、タンパク質複合体を他のタンパク質から分離する(アッセンブリ状態の異なるリボソームなど)場合に適しています。一般にスクロースまたはイオジキサノールを用いてあらかじめ作製しておいた密度勾配と、粒子が異なる速度で沈降可能な長い沈降経路長が必要です。
- 平衡密度勾配遠心法は、 粒子をサイズではなく密度に基づいて分離します。勾配は密度の異なるセグメントまたは層として段階的に形成されるため、密度差が大きいサンプルの場合、分離に要する遠心時間を短縮できます。この手法は遊離タンパク質や破損したキャプシドからインタクトなウイルスベクターを1ステップで精製するのに特に有用です。スクロースまたはイオジキサノールであらかじめ形成しておいた密度勾配を用いるため、必要な沈降経路長は速度ゾーン法よりも短くなります。
- 等密度遠心法は、平衡密度勾配遠心法の特殊な形で、粒子密度に基づいて最高の分離能で分離します。アデノ随伴ウイルス(AAV)などの完全体ウイルス粒子を、中空キャプシドや半中空キャプシドから分離するのに特に効果的です。他の手法とは異なり、等密度遠心法では、自己形成型の密度勾配、イオジキサノールまたは塩化セシウムを用いてあらかじめ作製しておいた密度勾配のどちらでも使用できます。この手法は均一分散サンプルや濃縮サンプルのどちらにも対応します2。
| 密度勾配 | ||||
| ペレッティング |
速度ゾーン遠心法 |
等密度遠心法 |
平衡密度勾配遠心法 | |
|---|---|---|---|---|
| 分離原理 | 溶液中で物質の沈降係数(サイズや質量を勘案した値)を指標として分離 | あらかじめ形成した連続的な密度勾配中で物質の沈降係数(サイズや質量を勘案した値)を指標として分離 | 試薬で自動形成した連続密度勾配で物質を浮遊密度に基づき分離 | 予め形成した不連続な密度勾配中で物質の浮遊密度によって分離 |
| 一般的な勾配 | 密度勾配を使用しない | 連続勾配(例:スクロース連続勾配) | 連続勾配(例:CsCl 勾配) | 不連続(ステップ)密度勾配 |
| 一般的に使用される勾配作製材料 | N/A | スクロース、イオジキサノール | CsCl、イオジキサノール | 分子の浮遊密度に応じた個別の層に分離 |
| 利点 | s値が大きく異なる物質を迅速かつ簡単に分離 | 近い沈降係数の分子を沈降速度に基づき、高い分離能で分離 | 密度による最も高い分離能での分離が可能 |
密度差を利用した精製と濃縮がワンステップで可能 |
|
![]() |
|
||
Table 1: 分離目的に応じた、各種密度勾配の一覧。
密度勾配作製材料の種類
生物由来成分の分離には、その浮遊密度、粘度、密度範囲、浸透圧活性などの特性に基づいてするために様々な密度勾配材料が使用されます。
- スクロースやグリセロールなどの多水性アルコールは汎用性が高く、細胞、小器官、エクソソーム、ウイルス、核酸、タンパク質の分離に使用できます。
- Ficoll®などの多糖類は、細胞や小器官の分離に適しています。
- コロイド状シリカ(Percoll®など)は、細胞と小器官の分離ができ、エクソソームやウイルスについても、ある程度の分離が可能です。
- イオジキサノールやNycodenz®などのヨウ素化化合物は、あらゆるカテゴリーにおいて幅広く有用です。
塩化セシウム(CsCl)や臭化カリウム(KBr)などの無機塩は、エクソソーム、ウイルス、核酸、タンパク質などの小粒子の単離に特に有効です2。
- 多価アルコールであるスクロースは、非毒性で連続勾配を作製できるため、速度ゾーン遠心法に広く用いられます。穏やかな条件下で、小器官、タンパク質複合体、核酸の分画に有効です10。
- イオジキサノールは、イソ浸透圧で非イオン性のヨウ素化媒体で、様々な細胞種とウイルス粒子に広く利用できます。不連続勾配と連続勾配のどちらにも対応可能であり、特に、AAVベクターの精製において高い価値を有します。AAV精製では、15–60%(w/v)のイオジキサノール不連続勾配が標準的に用いられており、中空キャプシドと完全体キャプシドを高い分離忠実性で分離することが可能です12。
- CsClは自己形成型の勾配形成物質で、高分離能の等密度遠心に用いられます。CsClは吸湿性で非常に安定な勾配を形成し、プラスミドDNA、ミトコンドリアDNA、RNAの単離や、ウイルス粒子の完全体と中空粒子の分離に適しています9。 CsClは、分離能が高い一方で浸透圧が高いために生物活性に悪影響を及ぼす可能性があることから、下流の脱塩や緩衝液交換を慎重に行う必要があります。
密度勾配作成を自動化
密度勾配超遠心法は、広範な手動操作や長時間の遠心運転、さらに数ヶ月に及ぶの操作トレーニングを必要とする労働集約的な性質であることから、適用には制約があり、ハイスループットなワークフローには適していません。密度勾配超遠心の自動化は、手動操作の削減、一貫性向上、操作時間の大幅短縮により、このような課題に対処するものです。
密度勾配自動作製装置 OptiMATE Gradient Maker
ラボの効率性と安全性の向上
密度勾配自動作製装置 OptiMATE Gradient Makerは、勾配作製プロセス、精密分注、チューブシーリングなど、ほぼすべての遠心前処理を自動化することで、密度勾配超遠心プロセスに革新をもたらしました。この先進システムによって、従来の労働集約型の密度勾配超遠心ワークフローは簡素化され、純度や収率を下げることなく、精度と一貫性を確保し、遠心時間が大幅に短縮されます。連続勾配、不連続勾配のどちらも作製できるよう設計されています。直感的に使用できるユーザーフレンドリーなインターフェイスを搭載しており、経験の浅いオペレータでも、導入初期から密度勾配超遠心プロトコルを習得できます。その結果、長期間のトレーニングが不要となり、運用開始までの時間が短縮されます。
密度勾配自動作製装置OptiMATE Gradient Makerは、生産性の向上とワークフローの合理化を目的に設計された、現代のラボに不可欠なツールです。
- 大幅な時間短縮: 密度勾配自動作製装置OptiMATE Gradient Maker は、分注とシーリングのために人の操作を必要とする時間を短縮。
- 手間のかからない勾配作製: 高精度な不連続密度勾配を簡単に作製、従来必要とされていた膨大な手作業を最小限に抑制。
- 安全性の向上: 密度勾配自動作製装置OptiMATE Gradient Makerの使用により、チューブシーリング工程における熱傷リスクを排除、ラボ作業者の安全な作業環境を確保。
- ユーザーフレンドリーな自動化: 本装置が提供する直感的なインターフェースと自動化プロセスにより、トレーニング時間を大幅短縮、研究者の貴重な時間を節約。
- 高い精度: プログラムどおりの均一で正確な勾配分注により、手動操作に起因するばらつきを最小化。
密度勾配溶液 OptiMATE CsCl/IDX
シンプルな密度勾配作製で、より高品質な結果を実現
密度勾配超遠心法は特有の難しさを伴い、正確な層形成や試薬製剤など、精微な密度勾配作製が求められます。これらの工程は、正確で一貫性があり、高い分離能での分離を実現するために重要です。ベックマン・コールターは、こうした要求に、様々な分離方法に対応するよう設計された革新的な密度勾配溶液OptiMATE CsCl/IDXで応えます。
密度勾配溶液OptiMATE CsCl/IDXを用いた密度勾配作製では、
- クリーンで整理された作業環境:煩雑さを抑えて、スムーズなワークフローを実現。
- クリーンアップが簡単:使用後のメンテナンスが楽。
- 手間がかからない:複雑な計算が不要。
- すぐに使用可能:時間のかかるストック溶液の調製が不要。
密度勾配バンド回収ツールOptiXTRACT

密度勾配バンド回収ツールOptiXTRACTは、明確な視認と制御に基づいた密度勾配サンプルの回収を実現します。
ガイド付きニードルピアッシングにより、安全なバンド回収と精度・再現性の向上を実現します。
- ガイドレール制御によるピアッシング: 安全なガイド付きニードルピアッシングで正確なバンド回収を実現。
- 安定性の高いチューブホルダー: チューブをしっかり固定し、バンドの乱れを抑え、液漏れを防止。
- LED照明: 細部まで明確に視認でき、再現性の高い分画回収を実現。
- 精密目盛り: 読み取りやすい目盛りで、信頼性と予測性の高い回収が可能。
- 1本のチューブから最大5バンドを抽出
参考文献
- Haiqing Yu, Joann J. Lu,Wei Rao, and Shaorong Liu. Capitalizing Resolving Power of Density Gradient Ultracentrifugation by Freezing and Precisely Slicing Centrifuged Solution: Enabling Identification of Complex Proteins from Mitochondria by Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometry. Journal of Analytical Methods in Chemistry. 2016, Article ID 8183656. http://dx.doi.org/10.1155/2016/8183656.
- Pengsong Li, Anuj Kumar, Jun Ma, Yun Kuang, Liang Luo, Xiaoming Sun. Density gradient ultracentrifugation for colloidal nanostructures separation and investigation. Science Bulletin 63 (2018) 645–662. https://doi.org/10.1016/j.scib.2018.04.014.
- Janine Stam, Sabine Bartel, Rainer Bischoff, Justina C. Wolters. Isolation of extracellular vesicles with combined enrichment methods. Journal of Chromatography B 1169 (2021) 122604. https://doi.org/10.1016/j.jchromb.2021.122604
- Zhe Yu, Siyun Zhou, Ningguang Luo, Ching Yi Ho. Min Chen and Haifeng Chen. TPP Combined with DGUC as an Economic and Universal Process for Large-Scale Purification of AAV Vectors. Molecular Therapy: Methods & Clinical Development Vol. 17 June 2020. https://doi.org/10.1016/j.omtm.2019.11.009.
- Kiichi Hirohata, Shinichiro Kino, Takuya Yamane, Karin Bandoh, Takeshi Bamba, Shawn M. Sternisha, Tetsuo Torisu, Mitsuko Fukuhara. Yuki Yamaguchi, Susumu Uchiyama. Use of cesium chloride density gradient ultracentrifugation for the purification and characterization of recombinant adeno‑associated virus. European Biophysics Journal. 2025. https://doi.org/10.1007/s00249-025-01751-1.
- Duong P, Chung A, Bouchareychas L, Raffai RL (2019) Cushioned-Density Gradient Ultracentrifugation (C-DGUC) improves the isolation efficiency of extracellular vesicles. PLoS ONE 14(4): e0215324. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0215324.
- Shawn Sternisha. Achieve significantly increased adenovirus yield with density gradient ultracentrifugation: a comparative study.Cell & Gene Therapy Insights 2022; 8(8), 1257–1266. DOI: 10.18609/cgti.2022.184.
- Sascha Raschke , Jun Guan, George Iliakis. Application of alkaline sucrose gradient centrifugation in the analysis of DNA replication after DNA damage. Methods Mol Biol. 2009:521:329-42. doi: 10.1007/978-1-60327-815-7_18.
- Balasubramanian Venkatakrishnan and Shawn Sternisha. Reducing Variability and Hands-On time in Viral Vector purification using the OptiMATE Gradient Maker. [App note]
- Zolotukhin, S., Byrne, B., Mason, E. et al. Recombinant adeno-associated virus purification using novel methods improves infectious titer and yield. Gene Ther 6, 973–985 (1999). https://doi.org/10.1038/sj.gt.3300938


