フローサイトメトリー:マルチカラー化のメリット
コンベンショナルとスペクトル方式のアプローチの違い
フローサイトメトリーにおけるマルチカラー化は、少ない検体量でも染色した各マーカーの組み合わせの情報が一度に得られ、測定時間が短縮でき、染色した各マーカーの組み合わせが増加するためより多くの情報が得られるメリットがあります。従来の(コンベンショナル)フローサイトメーターでもマルチカラー化は十分に可能ですが、色数が増えるほど蛍光漏れ込みへの配慮が必要となり蛍光補正(コンペンセーション)が複雑化するため、15カラー以上のマルチカラーとなると相当の経験と熟慮が求められ、多くの人にとっては現実的には難しいものとなります。これを克服し、マルチカラー化のメリットをより多く享受するための技術として、スペクトルフローサイトメトリーが開発されました。
本ページでは、コンベンショナルとスペクトルフローサイトメトリーの検出原理の違い、コンペンセーション/アンミキシングの考え方を簡単に整理し、使い分けの判断軸を提供します。

コンベンショナルフローサイトメトリーの検出方法とコンペンセーション
コンベンショナルでは、「1検出器=1蛍光色素」が原則です。励起レーザーによって細胞に結合している傾向色素から発せられた蛍光は、バンドパスフィルタ(BPフィルタ)によって特定の波長帯だけを通過し、その色素に割り当てられた検出器で検出します。たとえばFITCであれば、その蛍光波長は525/40 nm(概ね505–545 nm)の波長帯フィルタで最も明るい部分を受け持ちます(下図黄緑のスペクトル)。コンベンショナルフローサイトメトリーのメリットは、検出器単位で感度(ゲイン)をきめ細かく調整できる点にあります。また、DNA含量を定量しモデルフィッティングをする細胞周期測定や、蛍光プローブのkineticsを観察するCa2+応答測定などでは、コンベンショナルの1検出器=1蛍光色素であることと運用しやすさが活きます。

一方で、マルチカラー化が進むほど蛍光漏れ込みへの対処が重要になります。たとえばFITCとPEを同時に使うと、FITCの一部の光がPEのBP検出器に漏れ込みます。PEのBP検出器は、PE由来の蛍光にFITCの漏れこみ(下図赤い部分)が加算されており、PEの真の発現量よりもFITCからの漏れこみ分が増加した値が取得されています。そこで行うのが蛍光補正(コンペンセーション)です。単染コントロールを用いて蛍光色素同士の漏れ込みを定量し、コンペンセーションマトリックスを作成して各検出器間の漏れ込み分を差し引きます。このため、マルチカラー化が進みカラー数が増えるに従って、検出器に割り当てる色素の組み合わせを、コンペンセーションだけでなく、発現量×色素の明るさ、感度調整の要不要なども駆使して設計し運用することが求められます。

スペクトルフローサイトメトリーの検出方法とアンミキシング
スペクトルフローサイトメトリーは、その色素に割り当てられた検出器の波長帯だけを見るのではなく、細分化された多数の検出器で波長全体をカバーするように検出して並べることで、各色素固有の蛍光の全体パターン(スペクトルシグネチャー)を取得します。下図はPEのスペクトルシグネチャー例で、横軸に細分化された検出器が並びます。この例では検出器名のアルファベットが励起レーザーの波長色の頭文字を、その後の数字が励起レーザー波長よりも長波長領域の検出器番号となっています。検体の測定前に単染色サンプル(細胞またはビーズ)で各色素のスペクトルシグネチャーを取得しておき、マルチカラーである検体の測定で得られる各色素の総和スペクトルから、数学的手法で各色素を成分として分離(アンミキシング)します。この検出方法は、近接する波長の色素同士でもスペクトルシグネチャーが異なっていれば分離できるので、コンベンショナルでは同時使用できなかった色素同士の同時使用も可能となり、パネル設計の自由度が大きく広がります。


スペクトルフローサイトメトリーの強みは、自家蛍光への対応にも表れます。自家蛍光そのものを独立したスペクトルシグネチャーとして取得し、アンミキシングで成分として分離することができるため、組織分散や初代培養細胞など自家蛍光が強い検体の自家蛍光を除去して、微弱なマーカーの発現でも見つけやすくなります。さらに近年は、より正確なアンミックスをするため、測定時のパルスシグナルが適切かをチェックする機能やアンミキシングの過不足を自動チェック機能、光子計測誤差を考慮に入れた高度なアルゴリズムのアンミキシングが搭載され、マルチカラー化をサポートする機能が充実した機器も出てきています。
コンベンショナルとスペクトルフローサイトメトリーの「違い」
コンベンショナルフローサイトメトリーは、BPフィルタ検出+コンペンセーションで、検出器単位での感度調整やフィッティングに適う定量性、運用の容易さに強みがあります。スペクトルフローサイトメトリーは全体スペクトルの取得+アンミキシングで、同時使用できる色素組み合わせの自由度の高さや自家蛍光の分離・除去に強みがあります。
例えばAPCとAlexa Fluor 647といった蛍光色素ペアは、コンベンショナルフローサイトメトリーでは同一のBP検出器が割り当てられるため基本的に同時使用は不可能です。一方、スペクトルフローサイトメトリーではスペクトルシグネチャーが色素間で異なるため、アンミックスで分離が可能です。どちらも色素選択は、発現量×色素の明るさ、共発現の有無、類似スペクトルの組み合わせなど、カラー数の増加によって考慮すべき点が多くなることは避けられませんが、スペクトルフローサイトメトリーでは、蛍光色素パネルの設計のため、類似性指標値(Similarity index)の算出や装置構成に合わせたシミュレーションができるサポートツールがあるため、効率的にパネル設計を進めることができます。
このようにコンベンショナルとスペクトルの違いを踏まえた上で、用途に応じて最適な方を選ぶことは、その先の目的である研究を進める上で重要です。

最適な「見え方」を、最適な「方法」で
コンベンショナル:検出器単位での感度調整が必要な場合やフィッティングに適う定量性が求められる場合、カラー数よりも運用の容易さの優先度が高い場合
スペクトル:さらなるマルチカラー化で同時使用できる色素組み合わせの自由度が必要な場合や自家蛍光の分離・除去を必要とする場合
マルチカラー化はコンベンショナルでもスペクトルでも実現できますが、使い分けの判断軸や何を優先するかでどちらが適しているかを選択すると良いかもしれません。
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