ウイルスベクターとは
バイオ医薬品(生物学的製剤)とは、生体が作る物質を利用した医薬品のことで、分子から細胞に至るまで広い範囲を含みます。化学的に合成した低分子医薬は特定のプロセスを経て合成される一方、バイオ医薬品の製造は、自然の生産メカニズムを利用しているため、研究者やエンジニアによる直接制御できる量が少なく、一貫した生産のために十分に考慮して製造する必要があります。
バイオ医薬品は、バイオメディカル研究の最先端に位置しており、代替の治療法の選択肢がない疾患治療によく用いられます。バイオ医薬品を製造するために、科学者は適切な環境下で、目的の薬剤を継続的に産生できる生物学的システムを特定または作製する必要があります。バイオ医薬品の多くは細胞で作られます。この時、細胞は真核細胞または原核細胞が使われます。一般的にバイオ医薬品製造に使われる最適な細胞は、増殖が速く、培養しやすい不死化細胞株が選ばれます。
バイオ医薬品の“生産工場”として用いられる細胞は、内因性条件下では十分な量の標的薬剤を作り出せません。この問題を解決するために、研究者は作りたい分子をコードする遺伝子を産生細胞に導入します。この遺伝子導入効率を高めるため、研究者はバクテリアまたはウイルスベクターによる方法を用いて核酸を輸送・送達します。遺伝子導入前に、ベクターに目的の遺伝子を組み込み、ベクターを大量に精製する必要があります。
ウイルスは本来、感染時にその遺伝子を宿主細胞ゲノムに組み込みます。この性質は、ウイルスが理想的なベクター候補になり得る理由です。さらに、ウイルスがベクターとして適しているかどうか判断する際には、いくつかの重要な要素があります。理想的なウイルスは、ゲノムが安定性、細胞型の特異性、効率的な感染率、感染細胞の生理機能への影響が少ないこと、病原性が低いことです。
ウイルスベクターは、他のバイオ医薬品と同じような方法で生産されます。まず、目的の遺伝子を含むウイルスを培養細胞に感染させます。その後、細胞はウイルスのコピーを生成し、コピー数を増やしながら、培地中に放出します。放出されたウイルスは、回収されます。このプロセスで得られたウイルスベクターの収量、純度および品質が、その後のトランスダクションの効率に影響を与え、これらが最終的なバイオ医薬品の品質と効率に左右します。
ウイルスベクターの高純度精製には、適切な遠心プロトコルが必要です。高速遠心機はウイルス粒子を細胞や細胞片から効率よく分離でき、超遠心機は中空、中間体、完全体のウイルスキャプシドを高純度に分離できます。また、超遠心分析法は、ウイルスベクターに内包された遺伝子量(ウイルスベクターの密度)に応じて、遺伝子が導入されていない中空、目的遺伝子が部分的にのみ組み込まれた中間体、完全に導入された完全体特定することができ、ウイルスベクターの品質管理に用いることができます。十分な量の高品質のウイルスを一貫して生産する能力は、バッチ間のばらつきを抑え、最終製品の品質や効率を担保することにつながります。
ウイルスベクターの品質は、バイオ医薬品の最適な生産を担保するうえで非常に重要です。遠心分離法と超遠心分析法により、ウイルスベクターの精製ワークフローを大幅に効率化することができ、最終的には、バイオ医薬品製造の効率化と品質の向上が見込めます。遠心分離法と超遠心分析法を用いたウイルスベクター製造について、詳しくは以下のショートムービーをご覧ください。
ウイルスベクター製造の概要