超遠心分析法を用いた抗体の特性評価
タンパク質治療薬の臨床評価と製造には、品質、安全性、有効性を確保するための厳密な特性評価が必要です。超遠心分析法(AUC) はこの特性評価に欠かせないツールであり、高分子の完全性、不均一性、凝集状態、治療機能に不可欠な相互作用に関する詳細な情報を提供します。AUCには、マトリックス干渉に依存することなく、製剤化された製剤と同様の条件下で分子の沈降特性および拡散特性を直接測定できる、遠心速度を変えることで幅広い治療薬の特性評価ができる、といった、他の装置にはない利点があります。ベックマン・コールターでは、分析用超遠心機Optima AUC の他、IgG力価やタンパク質凝集を簡単なプレートベースのアッセイで測定できるValitaシリーズ 製品も取り揃えています。
バイオ医薬品分野 において、AUCは、特にモノクローナル抗体ベースの製剤を高い精度と信頼性で分析できるツールとして、高く評価されています。AUCは、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって、分子の完全性を判断するのに使用するゴールドスタンダードであり、その使用は規制遵守の支援、治療開発パイプラインの前進に寄与するものと認められています1。
超遠心分析-沈降速度法
モノクローナル抗体以外にも、AUCは様々なタンパク質治療薬の特性評価、タンパク質-リガンド結合ダイナミクスの解明、自己会合、オリゴマー化、凝集のモニタリングに広く用いられています1-3。そのアプリケーションは初期のリサーチや前臨床研究から後期の臨床評価、さらには大規模製造にまで及び、治療用タンパク質が厳格な規制基準を満たすものであることを保証します。AUCを使用することによって、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による測定時に直面する限界(カラムでサンプルが希釈される、移動相との不適合性、固定相との相互作用、分離可能な範囲の制限)などを克服できます2。
Figure 1: 回転数42,000 RPM、沈降係数6.6 Sで測定した沈降速度AUCによるIgGのシミュレーション実験。
AUCを用いて行った沈降速度(SV)実験では抗体薬に遠心力を加え、溶液中の検体をサイズと質量に基づいて分離します。実験中、光源でサンプルの沈降パターンを検出し、そこから粒度分布、タンパク質相互作用、および分析物の立体配座に関して高い分解能で測定した定量的情報が得られます。計算方法論の進歩によってSVの有用性はさらに高まり、SVはタンパク質結合、膜タンパク質分析、様々なバイオテクノロジー研究などにおけるAUCアプリケーションに推奨される手法として確立しました。
AUC結果を分析することで決定できる属性は、以下のとおりです。
- サイズと形状
抗体薬物分子のサイズと形状を決定。 - 凝集体の検出
抗体薬物に含まれる凝集体の分析。 -
安定性の評価
沈降係数から抗体の展開や変性を判断し、安定性を評価。 -
結合効率
抗体-薬物複合体(ADC)の結合効率を特性評価し、結合しているADCと結合していないADCを特定4。 - 相互作用の検出
抗原抗体相互作用を検出。 - バッチ間一貫性
バッチ間一貫性アッセイを実行。
超遠心分析法の利点
- 溶液中のサンプルを測定可能。バッファーの制約は最小限。
- カラムマトリックス不使用。
- 波長、センターピース、ロータの回転速度を変えることで、広い範囲の濃度や粒径を評価できる簡便な手法。
- サンプル回収。
- 色素不要。
- サンプル前処理不要。
抗体の特性評価に用いられるその他の手法
抗体の特性評価をハイスループットに行えるよう、ベックマン・コールターライフサイエンスでは、IgG力価やタンパク質凝集を簡単に測定できるアッセイをご用意しています。Valita TiterアッセイはIgG力価を定量するプレートベースの方法です。96ウェルプレートまたは384ウェルプレートを使用して、抗体濃度を15分以内、わずか3ステップで測定できる、簡単で高速かつハイスループットなソリューションです。Valita TiterはBiomek i-Series自動分注ワークステーションで簡単に自動化できることも利点です。
抗体凝集スクリーニングの別の方法に、Valita Aggregation Pureアッセイがあります。このアッセイは96ウェルプレートを用いて、15分以内にハイスループットスクリーニングを行うことが可能です。サンプル添加、インキュベーション、プレートリーダーでの結果の測定というシンプルなワークフローを簡単に自動化できます。
製品の詳細:
疾患等の診断への使用を意図しておらず、検証も行っておりません。
参考文献
- Harding SE. Analytical Ultracentrifugation as a Matrix-Free Probe for the Study of Kinase Related Cellular and Bacterial Membrane Proteins and Glycans. Molecules. 2021 Oct 8;26(19). PMCID: PMC8512968
- Chaturvedi SK, Parupudi A, Juul-Madsen K, Nguyen A, Vorup-Jensen T, Dragulin-Otto S, Zhao H, Esfandiary R, Schuck P. Measuring aggregates, self-association, and weak interactions in concentrated therapeutic antibody solutions. MAbs. 2020 Dec;12(1):1810488. PMCID: PMC7531506
- Bou-Assaf GM, Budyak IL, Brenowitz M, Day ES, Hayes D, Hill J, Majumdar R, Ringhieri P, Schuck P, Lin JC. Best practices for aggregate quantitation of antibody therapeutics by sedimentation velocity analytical ultracentrifugation. J Pharm Sci. 2022 Jul;111(7):2121–2133. PMCID: PMC9232890
- Clardy SM, Lee DH, Schuck P. Determining the Stoichiometry of a Protein-Polymer Conjugate Using Multisignal Sedimentation Velocity Analytical Ultracentrifugation. Bioconjug Chem. 2021 May 19;32(5):942–949. PMID: 33848127
Valita、Valita Aggregation Pure、Valita Titer、ValitaCellのロゴは、米国およびその他の国におけるValitaCell Ltd.の登録商標です。ValitaCellはベックマン・コールター社の子会社です。
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