細胞外小胞を単離する方法

methods for isolating extracellular vesicle

出発材料がリキッドバイオプシーであれ、細胞培養上清であっても、細胞外小胞(EVs)研究の成功にとって、単離技術の選択ほど重要なステップは他にありません。超遠心分離法は「ゴールドスタンダード」と呼ばれています(1)。これは超遠心分離法が、EVの純粋な画分を確実に分離できることが実証された最初の方法であることに加えて、 超遠心分離法で調製されたEVsがほぼ無傷で、内包性分子が完全に含まれていると考えられているからです。 

ビーズや抗体を用いた精製方法では、エクソソームの表面分子と精製材料との相互作用が必要で、この相互作用力が小胞にダメージを与えるため、小胞の内包性分子を希釈または枯渇させる可能性があります。

超遠心分離の専門家として、私たちは数十年にわたる経験と、それを支える製品プロトコルがあり、みなさまの新たな発見をサポートします。

EVsは、ほとんど全ての種類の細胞から分泌されるため、細胞の培養液だけでなく、血漿、尿、唾液、血清、脳脊髄液などの体液からも単離することができます(2)

EVsを単離するためのプロトコルは、遠心分離の速度、ろ過の使用、密度勾配などのパラメータを変えることで、サンプルの種類に応じて調整されています(3)。様々な生物試料からEVsを分離・精製する方法として、最も広く用いられているのが超遠心分離法です(4)。この方法では、低速回転からの段階的な一連の遠心操作により、死細胞、細胞破片、血小板、タンパク質、核酸複合体などの混入物質(コンタミ)を段階的に減少させることができます(3)

他にも、段階的な遠心法と組み合わせてEVsを単離する方法があります(5)

  • 密度勾配超遠心法(DGUC)
  • 共沈殿法
  • 限外ろ過法
  • イムノアフィニティによる精製法
  • サイズ排除クロマトグラフィー精製法
  • マイクロ流体分離技術

それぞれの分離方法には長所と短所があるため、下流のアプリケーションに最適な方法を選択することに注意を払う必要があります。

さらに、分離・精製方法によっては、高い回収率が得られても、下流のアプリケーションの用途によっては分離・精製したEVsが実験に適さない場合もあります(5)。例えば、サイズ排除クロマトグラフィー精製法は、コンタミネーション、コスト、処理時間が比較的少なく、比較的純度の高いEVsを得られることが示されています。しかし、最終的に得られるEVsは大量に希釈され、さらにEVサイズが幅広い集団で回収されるため、結果としてEVs回収のスループットが低くなります(5)

コンタミネーションの問題

サンプル内の非EV含有物は、EVの特性分析、およびアッセイやその他の試験で大きな課題となります(3)

EVsの調製物から除去するのが難しい混入物質には、次のようなものがあります(3)

  • リポタンパク質粒子
  • 微生物
  • マイクロソーム
  • タンパク質凝集体
  • DNAやネクローシスによって生成する物質

精製されたEVsの下流のアプリケーションでの使用用途に応じて、精製されたサンプルからさらに混入物質を除去するためにさらなるステップを踏んだほうがよい場合があります。たとえば、ヨードキサノール密度勾配超遠心分離法を用いて調整さてたEV画分では、EVマーカーであるCD63が濃縮され、細胞外のArgonaute-2複合体などのタンパク質が混入していないことから、高純度のEVサンプルであることが実証されています(6)

夾雑タンパク質の量を推定する一般的な方法としては、NanoSightプラットフォームのような粒子の可視化技術で得られるナノ粒子数と、BCA法のようなタンパク質比色アッセイで得られるタンパク質濃度の比率を比較することです(6)

EVサンプル内に夾雑タンパク質が存在すると、この比率が変化するため、EVサンプルの純度を推定することができます。タンパク質1µgあたり3×1010粒子を超える比率のサンプルは高純度とみなされ、タンパク質1µgあたり2×109から2×1010粒子の比率のサンプルは低純度とみなされることが報告されています(6)

単離プロトコルを開発する際には、EVの存在だけでなく、不純物が存在しないかどうかも含めてサンプルを評価し、最適化することが推奨されます。

EVの単離方法の比較

方法 メリット デメリット
超遠心分離法
  • 簡便
  • 適応性が高い
  • タンパク質の共ペレット化
密度勾配超遠心分離法
  • 異なる小胞タイプの分離が可能
  • 高い回収率
  • 小胞の完全性を維持
  • 時間がかかる
  • 経験が浅いユーザーには困難
サイズ排除クロマトグラフィー
  • 速度の向上
  • マトリックス/膜との相互作用
  • タンパク質のコンタミ
抗体で覆った磁気ビーズ
  • 非常に特異性の高いEVs集団の分離
  • 大量のサンプル処理には適さない
  • EVsはビーズから完全に溶出しない場合がある
マイクロ流路デバイス
  • 低コスト
  • 必要なサンプルが少ない
  • 小規模処理にしか適さないことが多い
  • プロトコル毎の再現性が低い
共沈殿法
  • 速い
  • 低コスト
  • コンタミ物質の共沈はほぼ避けられない
  • 再現性が低い

どのような分離方法を選択しても、EV分離の科学には熟練した技術が必要であり、その方法は多いほど良いとは限らず、最良のガイドは適切な判断とこれまでの経験です。

過度にサイズの狭いカットオフの設定や抗原性の要件を厳しくして分離をすることは、過度にサイズの広いカットオフや抗原性の要件を緩くするのと同様に、下流のアプリケーションでの試験に弊害となる可能性があります。覚えておくべき重要な点は、サンプルの純度と完全性が最優先事項であるということです。

高純度のEVサンプルを維持するためには、分離・精製中のサンプルの損失を防ぎ、データの信頼性を担保するために、分離手順のすべての段階で注意を払う必要があります。

EVから動物細胞に至るまで、あらゆる脂質二重膜をもつ構造体は、手荒な扱いや不適切な扱いがこれらの構造体の溶解につながる可能性があります。分離・精製準備が整う前に意図せずにEVsを溶解させてしまうことは、サンプル損失の主な原因となります。そのため、サンプルを界面活性剤やマトリックスメタロプロテアーゼから遠ざけ、推奨温度、推奨バッファーでプロトコルの各ステップを実行することに留意してください。

Webセミナー:C. Simone Plüisch氏とAlexander Wittemann氏によるラージスケールでのナノ粒子の分離

 

 

 

References

  1. Momen-Heravi F, Balaj L, Alian S, Mantel PY, Halleck AE, Trachtenberg AJ, et al. Current methods for the isolation of extracellular vesicles. Biol Chem. 2013;394(10):1253-62.
  2. Andaloussi SEL, Mager I, Breakefield XO, Wood MJ. Extracellular vesicles: biology and emerging therapeutic opportunities. Nat Rev Drug Discov. 2013;12(5):347-57.
  3. Witwer KW, Buzas EI, Bemis LT, Bora A, Lasser C, Lotvall J, et al. Standardization of sample collection, isolation and analysis methods in extracellular vesicle research. J Extracell Vesicles. 2013;2.
  4. Thery C, Amigorena S, Raposo G, Clayton A. Isolation and characterization of exosomes from cell culture supernatants and biological fluids. Curr Protoc Cell Biol. 2006; Chapter 3: Unit 3 22. 
  5. Van Deun J, Mestdagh P, Sormunen R, Cocquyt V, Vermaelen K, Vandesompele J, et al. The impact of disparate isolation methods for extracellular vesicles on downstream RNA profiling. J Extracell Vesicles. 2014;3.
  6. Webber J, Clayton A. How pure are your vesicles? J Extracell Vesicles. 2013;2.