エクソソームナノ粒子を用いた効率的な薬物送達を目指す

エクソソームは、エンドサイトコンパートメント内部出芽と、血漿膜と小胞を含んだエンドソームの融合により内部形成される小径の(通常、30~120nm)小胞です。エクソソームはほとんどの細胞で内部形成され、血漿、尿、唾液、血清、脳脊髄液などの体液内にあります。1エクソソームは脂質、タンパク質、核酸などの細胞成分が体内を移動送達することにより、細胞間の情報伝達における重要な役割を担っていることを示す証拠が多く示されるようになりました。

エクソソームは薬物送達能力のあるバイオマテリアルとして、近年注目を集めています。その理由として、第1に、エクソソームは内因性細胞成分を含んでいるため、一定のエクソソームを使って特定の細胞や組織を目的とすることができるため、血液脳関門などの生物学的な関門を越えることができる点を挙げることができます。第2に、内因性に起始しているため、エクソソームは他の人工の送達物質よりも免疫原性や細胞毒性となる可能性が低い点です。最後に、エクソソームの脂質二重膜は急速な血中クリアランスから薬物を守り、意図しない薬物起因の細胞毒性の発現を抑えることができる点です。

エクソソームが効果的な薬物送達ツールとみなされる理由

複雑な特性や構成成分により、エクソソームは薬物送達物質として最適です。2エクソソームは急速な腎臓中のクリアランスを阻止できるだけの大きさがあり、細網内皮系で吸収されてしまうのを回避できるほど小さいという理想的なサイズです。エクソソームのような小さなナノ粒子(通常、10~100nm)は、漏出しやすい血管や異常なリンパ液排出により、がん腫瘍のある場所で蓄積されやすく、したがって、特定のがんに対する薬物送達を行うのに理想的です。3

他の小胞同様、エクソソームは水性内部コンパートメントと脂溶性外層の脂質二重膜で構成されています。この構造により、疎水性薬物と親水性薬物をエクソソームにロードすることができます。エクソソームにはさまざまな種類があり、それらが持つ細胞構成成分量は異なるものの、特定の脂質、タンパク質、核酸は共通してよく見られる成分です。エクソソームには大量のコレステロール、スフィンゴ脂質、ホスホグリセリド、セラミド、飽和脂肪酸が含まれており4、これらの剛体分子の結合がエクソソームの安定性に貢献しているようです。

さまざまな膜結合性タンパク質と細胞間タンパク質がエクソソームには含まれています。このうち最も一般的なものは、膜輸送体と融合タンパク質、主要組織適合遺伝子複合体、熱ショックタンパク質、テトラスパニン、エンドソーム輸送選別複合体(ESCRT)、 脂質ラフト関連タンパク質などです。2また、エクソソームには、それを含んだ細胞の種類に固有のタンパク質が豊富に含まれています。たとえば、樹状細胞から抽出されたエクソソームには、樹状細胞から抽出したエクソソームで観察される抗腫瘍効果を発揮することがある熱ショックタンパク質(hsc73)が豊富に含まれています。5

また、エクソソームには、miRNA、non-coding RNA、messenger RNAなどの核酸も含まれています。興味深いことに、これらのRNAはエクソソームの水性コンパートメント内で確認されたり、アルゴノート2タンパク質によりエクソソームの外側に結合していたりします。6特定のmiRNAを目的として、RNAの短モチーフを認識するタンパク質を使ってエクソソームに内包することができるため、7RNAを選択的にエクソソームに内包することができるでしょう。

エクソソームを使った薬物送達の例

エクソソームはさまざまな細胞種類から放出されるため、エクソソームをどの細胞から単離するか(ドナー細胞)について幅広い選択肢があります。ドナー細胞を決定する際の重要な2つのポイントは、エクソソームの生物学的特性と特定の細胞種類から抽出されるエクソソームの量です。たとえば、樹状細胞から抽出されるエクソソームは、EG7腫瘍細胞から抽出されるエクソソームよりも強い抗腫瘍免疫反応を刺激するため、樹状細胞から抽出されるエクソソームは、T細胞の増殖や分化を促進する、或いは腫瘍細胞から抽出されたエクソソームよりも効率的にT細胞と相互作用する分子的因子をより多く含んでいることを示唆しています。8エクソソームのドナー細胞を選択する際のもう1つのポイントは、特定の細胞種類から放出されるエクソソームの量です。間葉系幹細胞は、エクソソームを多く生成し、単離が簡単で、大量に培養9,10することが可能なため、細胞の生存率を促進することができることなどから、特に有望な細胞の種類として特定されています。11,12

細胞培養培地を使用しているか、体液を使用しているかにかかわらず、エクソソームの純度と量はエクソソームを用いた薬物送達物質の開発に極めて重要です。通常、エクソソームは分画超遠心分離法を用いて精製され、タンパク質測定方法によりその量が測定されます。13その他の方法には、濾過法、免疫親和性単離法、素早くエクソソームを単離し構造と物理的解析を可能にするマイクロフルイディック分析技術などがありますが、これらの新しい方法により精製されたエクソソームが薬物送達に有効かどうかは明確ではありません。

生体内14または生体外15技術を用いて、医療薬はエクソソームにロードされてきました。薬物をエクソソームにロードするために、さまざまな生体外技術(凍結融解サイクル、サポニン膜透過処理法、超音波処理、押出法など)が使用され、エクソソームへのロード後にも薬物の行動と活性が維持されてきました。さらに、エクソソームは-20⁰C~-80⁰Cで保管され、凍結融解サイクルに数回晒されると安定するようです。2

血液脳関門を超える薬剤送達および今後の方向性

化学療法最大の課題の1つは特定の生物学的関門(特に、血液脳関門)を超えて薬物を送達することでした。神経膠芽細胞腫が放出するエクソソームは血清で検出されてきました。このことは、内因性エクソソームは血液脳関門を超えることを示唆しています。16さらに、マウスを使った実験で、抗炎症作用を持つポリフェノールであるクルクミンがロードされたエクソソームの調剤をマウスの鼻腔から送達し、小胞細胞のアポトーシスを達成しました。このことは、小胞調剤が血液脳関門を超える可能性があることを示唆しています。17 最後に、脳上皮細胞から抽出され、抗がん剤がロードされたエクソソームは、血液脳関門を超え、ゼブラフィッシュの腫瘍細胞で細胞毒性を誘発しました。18これらを総括すると、エクソソームは脳内の薬物送達に特に有効である可能性が示唆されています。 

エクソソームを用いた薬物送達は今後の発展が期待される有効な治療法であるように見えますが、これが安全かつ効率的に導入される前に、解決しておくべきいくつかの大きな課題があります。まず、エクソソームの単離と精製手順を標準化し、タンパク質の凝縮体などの汚染を排除し、再現性を向上する必要があります。2つ目に、安定的なエクソソームの供給源となるドナー細胞を特定し、これらのドナー細胞から抽出されるエクソソームをしっかりと特性化する必要があります。最後に、エクソソームに薬物をロードするためのより効率的な方法を開発し、薬物送達効果を最大化する必要があります。 

参考文献

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