5カラー細胞内サイトカイン解析

サイトカインは様々な細胞から産生されるタンパクで、生体の恒常性維持に重要な役割をもっています。その作用の1つに、免疫細胞間の情報伝達に関わるメディエーターとしての働きがあります。 
本編では、Cytomics FC500フローサイトメーターでInterferon-γ(IFN-γ)Tumor Necrosis Factor-α (TNF-α)を検出するための5カラーアプリケーションをご紹介します。従来の細胞内サイトカイン産生検出では、PMAとイオノマイシンによるポリクローナルな細胞活性化が主流でしたが、本編では抗原特異的活性化のモデルとして、スーパー抗原とCD28抗体を使ってT細胞を刺激したときのCD4+T細胞とCD8+T細胞のIFN-γ産生を同時に検出しています。



はじめに

サイトカインは細胞表面のレセプタに結合して、細胞の活性化、増殖、分化の促進や抑制を引き起こします。サイトカインは分泌細胞自身(autocrine)、もしくは近隣の細胞(paracrine)に作用しますが、そのレセプタに対する親和性が高いことから、非常に低濃度でも作用することが知られています。生理的条件下におけるサイトカイン濃度が非常に低濃度であるため、サイトカインの発見当初においては限定された研究しか行われていませんでした。その後、測定技術の進歩に伴い、サイトカインの生化学的性状や生物学的活性が明らかになり、サイトカイン依存性の細胞株による活性測定やサイトカインに特異的な抗体を用いた定量測定が可能になりました。

初期の研究の多くは、試料中の細胞もしくは純化した特定の細胞集団が分泌するサイトカイン濃度を「バルク測定」していました。近年では、細胞内サイトカインの免疫組織染色、in situ ハイブリダイゼーション、PCR法、ELISPOT法、フローサイトメトリーによるマルチカラー解析など、シングルセルを対象とした実験方法が用いられるようになっています。

中でもフローサイトメトリーには、シングルセルレベルでのサイトカイン検出において他の検出法にはできない利点があります。そのなかの1つが免疫細胞の機能的サブセットを対象としたマルチパラメータ解析が可能である点です。本編では、CytomicsTM FC500フローサイトメーターでInterferon-γ(IFN-γ)やTumor Necrosis Factor-α (TNF-α)を検出するための5カラーアプリケーションをご紹介します。従来の細胞内サイトカイン産生検出では、PMAとイオノマイシンによるポリクローナルな細胞活性化が主流でしたが、本編では抗原特異的活性化のモデルとして、スーパー抗原とCD28抗体を使ってT細胞を刺激したときのCD4+T細胞とCD8+T細胞のIFN-γ産生を同時に検出しています。この方法は、TNF-αなど他のサイトカイン産生の検討にも応用可能です。また、スーパー抗原とCD28抗体の組み合わせによる刺激は、抗原ペプチドに特異的なサイトカイン産生を検出する上でのポジティブコントロールにもなります。

フローサイトメトリーによるマルチカラーサイトカイン解析の応用としては、Epstein Barr Virus (EBV) や Cytomegalovirus CMV感染症などにおける宿主免疫応答能の評価が最も有望です。

EBVは悪性腫瘍や骨髄移植後の Lympho proliferative Disease を誘発することが知られていますが、 EBV 感染自己リンパ芽球との混合培養による CD8CD8+T 細胞の抗原特異的活性化を IFN γ産生で検出することができま す(文献 15 )。抗原エピトープで活性化し、 T 細胞サブセットマーカーと組み合わせたマルチカラーサイトカイン解析は、MHCテトラマーと同様に、ウィルス感染症や悪性腫瘍に対する宿主の抗原特異的免疫応答能のモニタリングやワクチン開発研究における有用性が期待されます。



材料及び方法

Ⅰ.機器・器具類

・ Cytomics FC500 ( Ar レーザー・ 5 カラー仕様、 RXP ソフトウエア
・ CO2インキュベータ (37℃.5% CO2
・ サンプルチューブ (製品番号 6199304)
・ 15 mL 滅菌済みコニカルチューブ
・ マイク ロピペットおよびチップ (滅菌済み)




Ⅱ.試薬

  1. 機器セットアップ用試薬
    • Flow-CheckTM 標準粒子 (製品番号6605359)
    • Flow-SetTM 標準粒子 (製品番号6607007)
    • PC7(770/488) セットアップキット (Flow-Check 770, Flow-Set 770 標準粒子) (製品番号6607121)

  2. コンペンセーション用試薬
    • IOTest CD45-FITC (製品番号IM0782)
    • IOTest CD45-PE (製品番号IM2078)
    • IOTest CD45-ECD (製品番号IM2710)
    • IOTest CD45-PC5 (製品番号IM2653)
    • IOTest CD45-PC7 (製品番号IM3548)

  3. サンプル調製用試薬
    • IntraPrep 細胞膜透過処理試薬 (製品番号IM2388 またはIM2389)
    • IOTest CD3-PC7 (製品番号6607100)
    • CYTO-STAT T8 (CD8)-FITC (製品番号6603861)
    • CYTO-STAT T4 (CD4)-ECD (製品番号6604727)
    • IOTest CD69-PC5 (製品番号IM2656)
    • IOTest Interferonγ-PE (製品番号IM2717)
    • CYTO-STAT MSIgG1-RD1(PE) (製品番号6604112)
    • CYTO-STAT MSIgG1-PC5 (製品番号6607012)

  4. その他(添付の取り扱い説明書に従って取り扱い、調製してください)
    • Staphylococcal Enterotoxin B (SEB) (Sigma Chemicals,S4881)
      T 細胞に対するスーパー抗原で、対応するレパトワのT 細胞レセプタに結合してT 細胞を活性化させます。
    • CD28 精製抗体(製品番号IM1376)
      CD28 抗体によるCD28 分子のクロスリンクは、T 細胞活性化のco-stimulatory signal となります。
    • Brefeldin A (Sigma Chemicals,B7651)
      サイトカインの細胞外への放出を阻害し、細胞内に蓄積させます。
      予め5mg/mL のストック液を調製しておき、使用時にRPMI1640 メディウム等で至適濃度に希釈します。
    • Phosphate buffered saline (PBS) (製品番号6603369)
    • 0.5%ホルムアルデヒド加PBS
      PBS に0.5%の濃度になるようにホルムアルデヒド溶液(製品番号IM3515 IOTest3 固定試薬など)を添加します。

Ⅲ.Cytomics FC500 セットアップ

  1. Cytomics FC500 のオペレーターズガイド等を参照してFC500 を起動します。
  2. 分解能の確認
    Flow-Check 用プロトコル(QC1L Flow-Check 等)を呼び出します。
    Flow-Check ビーズとFlow-Check770 ビーズを2:1 に混ぜたサンプルを測定し、フロー系と光学系を確認します。
  3. 感度設定
    感度調整用のプロトコルまたはパネルを呼び出します(パネル例: AS 5C1L.PNL)。
    2:1 に混合したFlow-Set ビーズとFlow-Set770 ビーズで、ハイボルテージとゲインを調整します。
    (AS5C1L.PNL を使用した場合は自動的に感度が調整されます。)
    Flow-Set による感度設定を行わない場合は、ネガティブコントロールサンプルで感度を調整してください。
  4. 5 カラー蛍光補正
    ADC を用いて5X5 コンペンセーションを自動設定します。
    コンペンセーションには、無刺激サンプルをCD45-FITC, CD45-PE, CD45-ECD, CD45-PC5, CD45-PC7でそれぞれ染色し、テストサンプルと同様に溶血、固定、膜透過処理したものを用います(染色法は下記「サンプルの染色」参照)。染色し、テストサンプルと同様に溶血、固定、膜透過処理したものを用います(染色法は下記「サンプルの染色」参照)。確認用の確認用の55カラー染色サンプルには、カラー染色サンプルには、SEBSEB刺激した正常末梢血のサイトカインチューブ(刺激した正常末梢血のサイトカインチューブ(CD8CD8--FITCFITC//IFNIFN--γγ--PEPE//CD4CD4--ECDECD//CD69CD69--PC5PC5//CD3CD3--PC7PC7)を用いることができます。)を用いることができます。
    ディスプレイ画面の指示に従って順に測定します。
  5. 以上で FC500 のセットアップは終了です。
    設定されたサイトメーターセッティングを用いてサンプル測定用のプロトコル、パネルを作成してください(プロット、リージョン、ゲートは図 1 を参考に設定してください)。

Ⅳ.T 細胞の SEB 刺激とサイトカイン分泌のブロック

  1. ヘパリン採血した全血を 500 μL づつ 2 本の 15 mL コニカルチューブに分注します。
  2. そのうちの 1 本にT細胞を刺激するため SEB( 最終濃度 2 μg/mL) と CD28 抗体 最終濃度 0.3 μg/mL) を加えます。
    もう1 本のチューブには何も加えません(無刺激のサンプル)。
    <注:この時点では Bre feldin A を添加しません。>
  3. チューブを良く混和し、 37 ℃のインキュベータで 2 時間インキュベートします。
  4. サイトカインの細胞外放出を防ぐため、 Brefeldin A を全てのチューブに添加します 最終濃度 5 または 10 μg/mL) 。
    通常 6~24 時間の刺激で IFN γや TNF αの産生が検出可能なレベルになりますが、最適なインキュベーション時間は 刺激(抗原)と細胞の種類によって異なり、予め検討が必要です。Brefeldin A には細胞毒性があるため、 6 時間のインキュベートでは 10 μg/mL 、一晩もしくは 18~24 時間インキュベートする場合には 5 μg/mL 添加します。
  5. チューブを混和し、再びインキュベータに戻して 37 ℃でインキュベートします。
  6. インキュベーションが終了したら、冷 PBS を加えて 4 ℃で 400 x g 、 5 分間遠心分離して上清を除去します。
  7. 冷 PBS で各々 500 μLにメスアップします。

Ⅴ.サンプルの染色

  1. はじめに表面抗原を染色します。検体毎に適切にラベルした 4 本のチューブを用意し、表に示した抗体試薬を加えます。
    (添加する抗体量は各々の抗体試薬のデータシートに記載されています。)
    別にコンペンセーション用チューブを 5 本( FITC 、 PE 、 ECD 、 PC5 、 PC7 )用意し、各標識の CD45 試薬を 20 μL 加えます。
ラベル   サンプル 添加する抗体試薬
Tube1   無刺激サンプル(アイソタイプコントロール) CD8-FITC, CD4 ECD, IgG1 PC5, CD3 PC7
Tube2   無刺激サンプル(サイトカイン) CD8-FITC, CD4 ECD, CD69 PC5, CD3 PC7
Tube3   SEB 刺激サンプル (アイソタイプコントロール) CD8-FITC, CD4 ECD, I gG1 PC5, CD3 PC7
Tube4   SEB 刺激サンプル (サイトカイン) CD8-FITC, CD4 ECD, CD69 PC5, CD3 PC7

  • 抗体の入ったチューブに無刺激または SEB 刺激サンプルを 50 μL ずつ分注します。コンペンセーション用チューブには無刺激のサンプルを分注します。
  • よく混和し、室温(18~25℃)遮光下で 15 分インキュベーションします。
  • IntraPrep Reagent 1 を 100 μL 加えて直ちに混和し、室温遮光下で 15 分インキュベートします。
  • PBS を 4 mL 加え 、室温で 400 x g 、 5 分間遠心分離します。
  • 上清を吸引除去し、沈渣をボルテックスミキサーでよく攪拌してペレットを十分にほぐします。
  • 100 μL の IntraPrep Reagent 2 を加えて軽く混和し、(ボルテックスミキサー不可)、室温で 5 分間静置します。
  • 軽く混和し(ボルテックスミキサー不可)、コントロールチューブにはマウス IgG1 PE 、サイトカインチューブには IFN γ PE を20 μL 加えます。コンペンセーション用チューブには何も加えません。
  • 軽く混和し、室温遮光下で 15 分間インキュベートします。
  • PBS を 4 mL 加え、室温で 500 x g 、 5 分間遠心分離します。
  • 上清を吸引し、沈渣を 300 μL の 0.5 %ホルムアルデヒド加 PBS に再浮遊します。
  • 染色後のサンプルは 必ず遮光 し、できるだけ速やかに分析してください( 2~8 ℃の遮光下で一晩保存可能)。


  • データ取得と解析

    階層化ゲ-ティング法で、スーパー抗原刺激によるCD4+およびCD8+T細胞中のサイトカイン産生細胞を解析しました(図1)。 まずCD3 vs. 側方散乱 (SS)のヒストグラムでCD3+陽性のリンパ球集団にゲートをかけます。CD3の発現レベルがSEB刺激により若干低下するため、CD3弱陽性のリンパ球も含むようにゲートリージョンを設定することが重要です。さらにCD3+CD4+リンパ球とCD3+CD8+リンパ球にゲートをかけて、各々のサブセットのCD69+IFN-γ+細胞を解析します。統計解析に十分な細胞数を確保するには、最低でも20,000個のCD3+CD4+T細胞、もしくは10,000個のCD3+CD8+T細胞を解析してください。

    <図1> 階層化ゲーティング法によるSEB特異的サイトカイン産生T細胞の解析例


    無刺激のサンプルでは活性化マーカーであるCD69 の発現がほとんど見られず、サイトカインの産生も見られません。その一方で、 SEB と CD28 抗体で刺激したサンプルでは CD4+T 細胞、 CD8+T 細胞のいずれにおいても活性化した CD69 陽性細胞が存在し、その一部が IFN γを産生していることがわかります。



    参考文献

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