CyclinA2とDNA含量の同時測定による細胞周期解析

Cyclin A2はCDK2と複合体を形成し、DNAの複製を誘導するためS期からG2期にかけて発現量が上がります。またG2期からM期では、Cyclin A2はM期の初期にユビキチン依存タンパク分解経路を介して分解されるため、発現量が低下します。
これらを利用してCyclin A2とDNA含量の同時測定を行うと、発現のないまたは非常に低いM期と最も発現の高いG2期を簡単に区別することができます。
ここでは、FCMを用いてCyclin A27-AAD同時染色によるM期とG2期の測定・解析方法をご紹介いたします。



はじめに

細胞周期は細胞が分裂するためにDNAの複製から始まり、 細胞構成成分の倍加、細胞の成長を行なう倍加を経て、 倍加された細胞を 2 つに分ける分配から成り立っています。倍加では遺伝物質であるDNAの複製が最も重要になります。 複製 により 2 倍にされたDNAを2つに分けるためには、分配しやすい染色体にしたうえで、紡錘体を利用して分配されます。 しかしながら、DNAの複製と紡錘体は直接作用することがなく、細胞周期エンジンを介して伝達されます。
この細胞周期エンジンを構成しているのが、Cyclin と CDK Cyclin Dependent Kinase )複合体で、 Cyclin は CDKと複合体を形成することで、 CDK の活性を調節して、特定のタンパクをリン酸化し、下流への シグナル伝達を誘導します。

Cyclinは細胞周期に同期して合成・分解するタンパク質であり、サイクリンボックスという共通の配列を持つ類縁のタンパク質は現在では 10 種類以上が知られています。その中でも、高等動物の細胞周期における役割が明らかになっているものは、 A,B,D,E,H の 5 タイプです。
細胞周期の運行に重要なA,B,D,E タイプ の Cyclin は生体内では普遍的に発現します。しかし各サブタイプは、発現場所の組織、部位特異性があり、サブタイプの使い分けがされています。


CyclinAには 2 種類のサブタイプがあり、 ヒトでは、胚細胞特 異的な CyclinA1 と体細胞の CyclinA2 の 2 種類のA 型 Cyclin が存在します。 Cyclin A1 は減数分裂及び初期胚のみに発現しますが、 Cyclin A2 は増殖する体細胞に存在します。 Cyclin A2 と CDK2 の複合体は、 DNA の複製を誘導し、 S 期の進行に必要です。 G2 期から M 期では、 Cyclin A2 は CDK1 と複合体を形成します。また M 期の初期に ユビキチン 依存タンパク分解経路を介して分解されます。
これらを利用して、蛍光標識したCyclinA2 と DNA 含量の同時染色を行うと、 G0 期(休止期)および、 M 期(有糸分裂期)では CyclinA2 の発現はないか非常に低くな り、 G1 期ではその発現レベルがわずかに高くなり、 S 期で増加し、 G2 期で最も高い発現が見られます。CyclinA2の発現を用いて、発現のないまたは非常に低いM期と最も発現の高い G2 期を判別することができます。



サンプル調製手順

Ⅰ. サンプル

細胞: 細胞濃度1×106
 浮遊細胞の場合は、遠心・回収します。
 付着細胞の場合は、トリプシン・EDTA で細胞を単離後、 PBS で遠心洗浄し、回収します。

Ⅱ. 試薬

固定:
 100%メタノール( 20 ℃で冷やしておきます。)

抗体:

Anti Cyclin A2-FITC  Beckman Coulter社  製品番号 A22327
IgG1(Mouse)-FITC Isotype Control  Beckman Coulter社  製品番号 A07795
7-AAD  Beckman Coulter社  製品番号 A07704

Ⅲ.溶液

0.5%BSA加PBS
PBS

Ⅳ.その他

40μmナイロンメッシュ

Ⅴ.サンプル調製

  1. 1.5mlマイクロチューブを2本準備します。(コントロールサンプル用、CyclinA2染色サンプル用)
  2. 細胞を1×106個に濃度調製し、1.5mlマイクロチューブに1mLずつ分注します。
  3. チューブを遠心し、上清を除去します。(300×g、5分、室温(18~25℃))
  4. 1mLのPBSを加え、遠心し、上清を除去します。(300×g、5分、室温(18~25℃))
  5. ペレットをタッピングでよくほぐします。
  6. 各チューブに冷100%メタノール(-20℃)1mLをボルテックスしながら、徐々に加えます。
  7. 4℃(氷中)で10分間固定します。
  8. チューブを遠心し、上清をできるだけきれいに除去します。(300×g、5分、室温(18~25℃))
  9. ペレットをタッピングでよくほぐし、各チューブに1mL 0.5%BSA加PBSを加え遠心洗浄します。
    (300×g、5分、室温(18~25℃))
  10. 上清を除去後、ペレットをタッピングでよくほぐします。
  11. 各チューブに0.5%BSA加PBSを100μLずつ加えます。
  12. コントロールサンプル用チューブに IgG1(Mouse)-FITCを20μL、7-AADを20μL加えます。
  13. CyclinA2染色用チューブに Anti CyclinA2-FITCを20μL、7-AADを20μL加えます。
  14. 各チューブを混和後、室温(18~25℃)・暗所で20分間反応させます。
  15. ペレットをタッピングでほぐし、各チューブに0.5%BSA加PBSを1mL加えます。
  16. 遠心洗浄後、上清を除去します。(300×g、5分、室温(18~25℃))
  17. ペレットをタッピングでほぐし、各チューブに0.5%BSA加PBSを1mL加えます。
  18. 遠心洗浄後、上清を除去します。(300×g、5分、室温(18~25℃))
  19. ペレットをタッピングでほぐし、各チューブに0.5%BSA加PBSを0.5mL加えます。
  20. 各サンプル溶液を40μmナイロンメッシュに通し、FCM用チューブに移します。
  21. FCMにて測定します。


サンプル測定

  1. それぞれの機器のフィルタ設定に応じた検出器を 選択 します。
FITC  FL1 (G allios / Navios / FC500 / XL など) 
7 AAD FL4  FL4 (G allios / Navios / FC500 / XL など) 

  • 各 パラメータ を選択し 、 プロット図 を作成し ます。
  • Gallios / Navios  FS Integral Lin, SS Integral Lin, FL1 Integral Log, FL4 Integral Lin, FL4 Peak Lin, Time 
    FC500 / XL  FS Lin, SS Lin, FL1 Log, FL4 Lin, AUX (FL4) Peak , Time 

    パラメータ 選択例

    Gallios / Navios

    FC500 / XL


    プロット図作成例



    ①SS LIN / FS LIN     細胞集団のカット オフの位置を確認します。
    ②FL4 INT LIN / FL4 PEAK LIN     ダブレットの除去を行います。(シングルセルを囲うようにリージョン A を作成します。)
    ③Time / FL4 PEAK LIN     流れの安定性を確認します。( 不安定な場合、 各期の CV 値が大きくなります。)
    ④FL4 INT LIN / FL1 INT LOG (A ゲート)   データ解析を行います。
    ⑤FL4 INT LIN / FL1 INT LOG (Ungated)     A ゲートの位置の確認を行います。
    ⑥FL4 INT LIN     細胞周期の確認を行います。


     

    3. コントロールサンプル を測定します。

    4. SS LIN / FS LIN の プロット図で、サンプル 集団が確認できるように FS と SS の感度を調整します。
    ディスクリミネーター により サンプル が カットされていないか確認します。 ディスクリミネーター は FS で 50 チャンネル 位に設定します。(固定処理することで細胞は小さくなりますので、 FS の 集団の位置が低くなります 。)



     

    5. FL4 INT LIN / FL4 PEAK LINのプロット図を確認しながら、 FL4の感度を調整し、 ダブレットセルが分かれるようにします。この時、G0/G1期の集団がFL4 INT LINにおいて適切な位置(通常200 300 チャンネル前後)になるように感度を調整します。

    6.ダブレットセルを除くようにシングレットセルにリージョン A を作成します。
    ダブレットセル



     

    7. FL4 INT LIN / FL1 INT Log の プロット 図 を確認しながら 、 FL1 の感度を調整します。
    この時、 G0/G1 期の集団が FL1 INT Log で適切な位置( 100 101位)に調整します。



     

    8. Cyclin A2 染色 サンプル を測定します。
    この時、流速は Low で行います。
    Low でサンプルを流すことで、測定分解能が上がります。



     

    9.Time / FL4 PEAK LIN の プロット 図で、 サンプルの流れの 安定性を確認します。
    流れが不安定になると細胞集団が途切れたり、幅が広がったりします。



     

    10.シングルセル ゲート A が設定された FL4 INT LIN / FL1 INT Log の プロット 図で、 10000 個以上 カウント します。



     

    11. 必要であれば、 G2 期と M 期に ゲート を作成し、各期の%を表示します。





    解析例




    参考文献

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    2. 山本 雅 仙波 憲太郎 キーワードで理解するシグナル伝達イラストマップ 、羊土社 (2004)
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