培養上清からのエクソソーム回収とタンパク質およびmiRNA抽出方法の基礎(3)
3. エクソソームからのタンパク質の抽出方法について
エクソソームの解析ターゲットとなる分子はもちろんタンパク質とmiRNAですが、私たちの研究のようにエクソソームの形成制御メカニズムにかかわる分子を探索するにはタンパク質が中心となります。Srcをはじめとするエクソソーム内包タンパク質の解析は、ルーチンで多数のサンプルについて行っています。エクソソーム画分からのタンパク質抽出は、SDS-PAGEでサンプルを変性させるのに使うSDSサンプルバッファー(Table 1)を用いるシンプルな方法を採用しています。
Table 1:一般的なSDSサンプルバッファーとRIPAバッファーの組成
1× SDSサンプルバッファー | 1× RIPAバッファー |
---|---|
62.5 mM Tris-HCl(pH6.8) | 50 mM Tris-HCl(pH7.6) |
5%(w/v)グリセロール | 150 mM NaCl |
2%(w/v)SDS | 0.1%(w/v)SDS |
5%(w/v)2-メルカプトエタノール | 1%(w/v)Nonidet P40 |
0.5%(w/v)Sodium Deoxycholate |
エクソソーム回収に使った超遠心用チューブ1本にSDSサンプルバッファー50 μLを加えて、3分間のボイル(加熱変性)を行うことにより調製完了です。SDSと還元剤存在下の加熱でほとんどのタンパク質は可溶化しますので、イムノブロット(ウェスタンブロット)などの実験を行うことができます。イムノブロットでは、CD63、CD9、 TSG101、脂質ラフトのタンパク質ですとFlotillinといったエクソソームのマーカータンパク質の抗体でも検出を行って、エクソソーム精製の成否を確認しています。
先ほど述べたSDSサンプルバッファー50 μLで抽出したサンプルのうち、SDS-PAGEゲルのウェルあたり10~15 μLのアプライ量で、Srcなどのターゲットタンパク質に関しては市販抗体でも検出は十分に可能です。解析対象のタンパク質に加えてさきほど述べた4種類のエクソソームマーカーをイムノブロットで解析しますので、それなりの量のエクソソームを回収する必要があります。このため超遠心の回数は、おのずと多くなります。そのような事情もあり、標的のタンパク質の分子量が少しでも違えば、メンブレンを切って別々に抗原抗体反応を行うなど、サンプル消費量を抑える工夫をしています。
Fig.4:薬剤Aで処理したヒト大腸癌細胞HT29由来エクソソームのウェスタンブロット
薬剤の濃度依存的にエクソソームマーカータンパク質の減少が見られる。エクソソーム内におけるマーカータンパク質変化は、ナノトラッキング法によるエクソソーム数の測定値とよく対応している。
分子間相互作用をみる免疫沈降などのタンパク質を変性させないアッセイの場合は、SDSサンプルバッファーではなく細胞溶解液として使われるRIPAバッファー(Table 1)でエクソソームを溶解してタンパク質を抽出しています。免疫沈降は、イムノブロットに比べてさらに多くのサンプル量を必要としますが、タンパク質の相互作用の解析は非常に重要ですので、エクソソームの回収にさらに精を出さなくてはなりません。
これらのエクソソームのタンパク質抽出プロトコールですが、原著論文を調べれば記載はありますが、日本語での情報はまだ少ないのかもしれません。また、もし途中で実験を中断する場合は、タンパク質の可溶化まで行ってください。可溶化まで行ってしまえば、-30 ℃などで保存が可能です。