ウイルスベクターの開発と製造:遺伝子療法の将来に向けた強力な推進力
40年近くにわたり、遺伝子療法の有望性は、1歩進んで2歩戻るの繰り返しでした。Johannes (Han) van der Loo博士のような科学者のおかげで、この現状は変わりつつあります。
ウイルスベクターの開発・作製モデルにおけるパイオニアとして、van der Loo博士は、今後の数年において遺伝子療法の推進に専念しています。そして、博士は一人ではありません。
がん遺伝子療法の市場規模は、2015年には80億550万米ドルになると推定され、複合年次成長率は2024年までに20%を超えると予想されています。1専門家は、2025年の遺伝子療法の市場規模を110億米ドルと推測しています。2
これは、今日までに使用が承認された治療法がたった5つであり、アジア以外(欧州のみ)で市販されている製品は1つのみという研究分野にとっては、印象的な成長率です。2
しかし、van der Loo博士によると、新たな遺伝子療法は開発の後期段階に入っており、世界中に多数のパイプラインが存在すると指摘します。
将来、安全なウイルスベクターを開発して救命治療を提供するため、重要な研究を継続することは、遺伝子療法の推進力になります。
ウイルスベクターのカテゴリと種類
van der Loo博士が遺伝子療法のベクターを3つの基礎的なカテゴリに分けて説明します。
1. 組み込みウイルスベクター(ガンマレトロウイルスやレンチウイルスなど)は、標的細胞のゲノムに組み込まれ、有糸分裂後に娘細胞に複製されます。
2. 非組み込みウイルスベクター(アデノウイルスやアデノ随伴ウイルスなど)は、エピソームのままで、腫瘍形成能を低下させます。
3. 非ウイルスベクター(血漿DNAなど)。
その他の一般的なウイルスベクターには、アルファウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアなどがあります。
van der Loo博士によると、ウイルスベクターを選ぶ際には、まず組み込みベクターまたは非組み込みベクターが必要であるかどうか判断することが重要です。
「たとえば、標的が造血幹細胞である場合、分裂して巨大な子孫細胞を生み出す必要があります。この場合、組み込まれた遺伝子を娘細胞に伝達する必要があるため、組み込みウイルスベクターが最善のオプションになります。しかし、組織が非分割細胞で構成されている場合は、非組み込みウイルスベクターを使用することができます。」
その他の検討事項としては、ウイルスベクターの特異性、標的となる細胞の種類、毒性と遺伝毒性の可能性などが挙げられます。
2002年にガンマレトロウイルスベクター介在の遺伝子導入治療を受けた患者の一部に、挿入変異による白血病の発現が認められて以来、3遺伝毒性のリスクは、細胞遺伝子療法における安全性の懸念となっています。このリスクは、組み込みレトロウイルスベクターだけではなく、AAVのような非組み込みウイルスベクターにも存在します。4AAVベクターの免疫原性が低いことから、今のところ急性の副作用は認められていませんが、複数の臨床試験において、治療転帰を妨げる可能性のある免疫毒性が誘発されています。5、6
最後に、体内および体外でのウイルスベクターの安定性を考慮し、安全に作製し、精製するために最善のプロセスを実装することが重要です。そこで、van der Loo博士と同僚の出番です。
ウイルスベクターの作製法の比較
「ウイルスベクターを作製するには、次の3つの基本的な方法があります。安定したパッケージング細胞株を使用する方法、一過性の形質移入を使用する方法、感染を使用する方法です」と、van der Loo博士は説明します。「後者については、Robert KotinがNIHの研究員であったときに開発したバキュロウイルスシステムを紹介します。簡便性という点から、ここでは2つの方法にのみ焦点を当てます。」博士は、基本の概説から始めます。安定した産生株の使用には、ウイルス粒子の作製に必要な、安定に組み込まれたGag/Polおよびエンベロープ遺伝子が含まれます。ウイルス配列自体が欠損していますが、通常はウイルスまたはプラスミドの形で導入されます。ウイルスベクターの組み込みにとって、プラスミドの使用は効率の低い方法と見なされるため、通常はウイルスを使用して作製されます。
その後、細胞は増殖し、クローンが選択され、そのクローンのためにマスターセルバンクが作製されます。マスターセルバンクが作製され、確認された後、いつでも細胞を解凍して培地に播種することができます。これで、ウイルスベクターが作製されます。
安定した作製株を使用した製造は、比較的簡素でスケールアップも簡単です。一般的に、ロットごとのばらつきはほとんどありませんが、この方法は本質的に柔軟性に欠けます。
「ウイルスベクターと遺伝子配列を選んだ後、結果は固定されます」と、van der Loo博士は述べます。「クローンを選び、マスターセルバンクを作製した時点で、変更は不可能になります。」
安定した産生株の使用とは異なり、一過性の形質導入に必要な期間は3日のみで、ベクターはすべて単一のマスターセルバンクから作製されます。
「したがって、ベクターロットの作製は比較的早く、製造時までベクターを変更することができるため、大幅に柔軟性が向上します」と、博士は述べます。
しかし、製造がより複雑で、安定した産生株を使用して作製するよりもスケールアップが難しく、プロセスを適切に管理しないと、多くのロットでばらつきが生じる可能性があります。一過性の形質導入プロセスには、常に製造中および精製中に、取り除く必要のあるプラスミドが混入することが理由として挙げられます。
超遠心法を使用したウイルス粒子の精製
van der Loo博士と彼の同僚は、ウイルス粒子を精製する際に密度勾配超遠心法を使用しています。この方法を使用すれば、空のウイルス粒子から完成したウィルス粒子を効率的に分離できます。この方法に必要なすべての密度に対して、等浸透圧溶液のイオジキサノールを使用できます。下流における適用の重大性を考慮して、超遠心にGMPを使用することが重要です。試験管とキャップが非滅菌品目として提供されていることを確認するのが重要です。滅菌法はガンマ線であれ、エチレンオキシドであれ、熱であれ、試験管の整合性に影響を与える可能性があります。
「このため、受領した細胞材料を確認する際は、その化学的適合性と滅菌法に関する情報をいつも確認しています。」 このプロセスを臨床試験の後期段階で使用する場合は、方法を検証する必要があります。」
博士と彼の同僚が使用してきた、基礎的な精製プロセスについて詳述します。
「ウイルス(密度が最も低い)を注入した後、濃度の異なるイオジキサノール溶媒をウィルスの下層に加えます。この際、メニスカス曲面が試験管のキャップのすぐ下に来るようにします。
次に、試験管を蓋で閉じて遠心分離機にかけます。この結果、54%のイオジキサノール帯の上に形成される、40%のイオジキサノール帯にウイルスが集中します。ウィルスを吸引するため、上部に針を挿入した後、別の針で試験管の側面を貫通させます。」
これは非滅菌プロセスであるため、ロータを稼働する前に消毒にし、ベクターを採取する前に試験管を拭き取ることが重要です。最後に、van der Loo博士は、0.2 µm以上のフィルターを使用して、最終生成物をろ過するよう勧めています。
また、博士は、効率を高めるには要件も厳しくなることから、このプロセスには厳しいトレーニングが必要であると述べています。「私たちがこのプロセスを採用したのは、第IIA臨床試験向けに、成功裏にAAVベクターを作製するためです。これには、合計480のイオジキサノール濃度勾配が必要になりました。」
遺伝子療法におけるウイルスベクターの使用に関する臨床的な課題
van der Loo博士が最初に認めたように、数百万年にわたる進化(人間もウイルスも)によって形成された複雑な分子プロセスを利用する場合、問題がないわけではありません。「最初に、特定の疾患に対して必要なレベルで、遺伝子の修正を特定して達成するのは非常に困難です。」 「これには、必要なコピー数、ベクターを組み込む数、導入できる細胞数が含まれます。」
「2番目に、治療用遺伝子の発現レベルを定義することが重要になります。通常、(強いまたは弱い)プロモーターの選択に影響されます。これによって、発現レベルが高くなるか、低くなるか決定されます。」
「3番目は挿入変異の可能性です。ゲノムに組み込むベクターが組み込み部分の遺伝子に影響を与える可能性があることが確認されていますが、挿入変異の可能性を排除することは未だに課題となっています。」
「4番目の課題は遺伝子のサイレンシングです。ベクターの組み込み、投与経路の選択に影響を与える)ベクターに対する免疫応答、ベクターの種類と純度、体内分布について、遺伝子のサイレンシングを考慮することが重要です。」
「最後に、組織固有のプロモーターがこの問題に対処できることが解明されていますが、非特異的な発現について考慮する必要があります。」
その他に得られた教訓
van der Loo博士は、遺伝子療法の分野で長年活動されています。これまで学んだ内容で、最も重要な教訓は何ですか?
「初期の臨床試験では、重要な性能基準を満たすため、すべての細胞材料に対してリスクベースの検査を行うことが重要です。可能であれば、すべての細胞材料ベンダーと品質協定を結ぶことも重要です。」
博士は、開発からGMPにプロセスを移行する際に、正式な技術プロセスを使用することが重要であると気づきました。「製造の準備を整える前に、実施する必要のある高レベルの技術トレーニングを決して過小評価してはいけません」と、述べています。
「最後に、大規模な製造のために拡張可能な技術に投資してください。超遠心を使用するのが適切な場合もあれば、クロマトグラフィーなどの代替法を検討するのが適切な場合もあります。」
参考文献:
1. Available from: URL: https://globenewswire.com/news-release/2016/09/13/871431/0/en/Cancer-Gene-Therapy-Market-size-to-exceed-4-3bn-by-2024-Global-Market-Insights-Inc.html.
2. Available from: URL: https://www.rootsanalysis.com/reports/view_document/gene-therapy-market-2015-2025/85.html.
3. Hacein-Bey-Abina S, Hauer J, Lim A, et al. Efficacy of gene therapy for X-linked severe combined immunodeficiency. N Engl J Med 2010;363(4):355–364.
4. Kaeppel C, Beattie SG, Fronza R, et al. A largely random AAV integration profile after LPLD gene therapy. Nat Med 2013;19(7):889–891.
5. Masat E, Pavani G, Mingozzi F. Humoral immunity to AAV vectors in gene therapy: challenges and potential solutions. Discov Med 2013;15(85):379–389.
6. Mingozzi F, High KA. Immune responses to AAV vectors: overcoming barriers to successful gene therapy. Blood 2013;122(1): 23–36.