第2回 超遠心分析のデータ解析に用いるソフトウェア

クラユヒナ エレナ 1,2, 野田 勝紀 1,2, 内山 進 1

1大阪大学大学院 工学研究科
2株式会社ユー・メディコ

 

はじめに

第1回にご紹介したように、超遠心分析には沈降速度法と沈降平衡法の2つの方法があります。沈降速度法では、沈降係数及び拡散係数、また沈降係数の分布が得られます。さらに、単分散であれば流体力学的形状を反映する値を正確に見積もることが可能で、その値から分子量やストークス半径が得られます。沈降平衡法では、見かけの平均分子量と見かけの平均分子量の濃度依存性から平均分子量と分子間相互作用の指標となる第二ビリアル係数B2を決定できます。

このように、溶液中における分子や粒子の物理化学的パラメータの取得が可能な超遠心分析ですが、その解析には、目的に応じて様々なソフトウェアが使用されます。これらのソフトウェアは、ほとんどがフリーソフトで、コンピュータの演算能力が飛躍的に上昇した1990年代の後半に開発され、それ以降、継続的にアップグレードされてきています。沈降速度法や沈降平衡法のデータ解析のためのソフトウェアを表1にまとめました。なお、ここで紹介するほとんどのソフトウェアは、生データを用いたデータ解析だけでなく、パラメータ入力による沈降挙動のシミュレーションも可能です。

今回は、以下のソフトウェア一覧のうち、SEDFIT、SEDPHAT、UltraScan、SEDANAL、SEDNTERPの概要と超遠心データ解析における特徴と利点について、説明します。

表1.超遠心分析のデータ解析に最も広く使用されているソフトウェア

超遠心分析のデータ解析

 

 

SEDFIT

SEDFIT(Sedimentation Fitting)は、現在最もよく使われている超遠心データ解析用ソフトウェアです。SEDFITは、米国国立衛生研究所 (National Institute of Health; NIH) のPeter Schuck博士によって開発されました。沈降速度法と沈降平衡法のデータ解析に加え、流体力学的パラメータの算出や統計解析も可能です。

SEDFITで最も使用されている解析方法は、c(s) 解析です。c(s) 解析では、溶液中の分子または粒子のサイズ分布を沈降係数s値の分布として得られます。SEDFITで、この解析を行う際には、事前に沈降係数や溶液に含まれている粒子、または分子の種類を取得する必要はありません。取得した沈降データで溶液に対応する領域(第1回でご紹介したメニスカスとセンターピースの底との間の領域)と、解析対象とするデータ範囲を設定し解析を行います。解析範囲の設定など解析の一連の操作は視覚的に理解しやすく、バイオ医薬品の凝集体分布解析や、ナノ粒子の粒度分布解析などに幅広く利用されています。図1に、イムノグロブリン製剤についてSEDFITを用いてc(s)解析を行った例を示します。このように精度よく、単量体や2量体、さらに3量体以上の大きさの凝集体の分布が明らかになります。また、第1回で紹介した沈降係数s値と分子量やストークス径との関係式より、この分布を分子量分布c(M)、ストークス径分布c(R)に変換することも可能です。また、糖類などの添加剤のように共沈降する低分子化合物を含んだ溶液条件での解析や、得られた沈降係数分布の統計的な評価も可能です。

また、あらかじめ分子や粒子の分子量などの数値を入力し、SEDFITのgenerate機能を用いてのデータシミュレーションが可能ですので、回転数などの実験条件を検討することも可能です。なお、後述するUltraScanでもc(s)解析やデータシュミレーションが可能となっています。

 

図1.イムノグロブリン製剤の沈降速度法測定データについてSEDFITc(s)によるの解析結果:残差プロット(左)および沈降係数c(s)分布(右)。残差プロットより、フィッティングの良否を判断します。c(s) 分布では、s20,w=1.7 Sピーク(フラグメント)、s20,w=6.8 Sの主ピーク (単量体) 、s20,w=10.1 S (2量体) および高次のオリゴマーと思われるいくつかのピークが観察されました。それぞれの成分含量は、対応する各ピークの面積を合計面積で除することで算出されます。s20,w は、沈降係数を20℃の水中における沈降係数に補正した値です。

 

SEDPHAT

SEDPHATは、SEDFITと同じくPeter Schuck博士によって開発されたソフトウェアです。SEDFITよりも溶液中の分子間の相互作用解析に着目したソフトウェアです。SEDPHATでは、沈降速度法や沈降平衡法などの超遠心分析のデータのみならず、動的光散乱(DLS)や等温滴定型熱量計(ITC)、表面プラズモン共鳴法(SPR)などの超遠心分析以外の相互作用に関連する測定データも解析可能です。解析方法としては、ソフトウェア中に用意されている様々な相互作用モデルから、適したモデルを選択し、非線形フィッティングを行います。また、SEDPHATでは、個々の測定系のデータについて解析可能なだけではなく、同一サンプルについて異なる系で得られたデータについて、グローバルフィティングが可能であり、相互作用解析をより正確に行うことができます。

 

UltraScan

UltraScanは、The University of Texas Health Science Center at San AntonioのBorries Demeler博士によって開発されました。このソフトウェアでは、SEDFIT、SEDPHATと同様に沈降速度法と沈降平衡法のデータ解析が可能です。SEDFITと比較すると、操作性は超遠心分析を専門に行う人向けです。UltraScanの特徴は、沈降速度法の2次元スペクトル分析(2-dimensional spectrum analysis;2DSA)法が可能な点にあります。c(s) 解析では、溶液に含まれる分子種それぞれの沈降係数の分布は正確に算出可能ですが、それぞれの分子種の拡散係数、もしくは拡散係数に含まれるパラメータである摩擦係数を算出することは解析の特性上不可能です。しかしながらUltraScanの2DSA分析では、それぞれの分子種の沈降係数、拡散係数または摩擦係数の分布が算出可能です。このような解析には、コンピュータの演算能力が非常に高い必要があるため、UltraScanが持つUltraScan Laboratory Information Management System (USLIMS) システムにアクセスし、データをスーパーコンピュータにアップロードし、解析を行います。ただ、c(s)解析と比べ、多くのパラメータについて、非線形フィッティングを行うため、解が真値に収束せず、ローカルミニマムとなる解に収束する可能性があります。そのため、UltraScanでは、遺伝的アルゴリズム(genetic algorithm;GA)による最適化を行います。最終的に、2DSAとGAから得た各分子種のパラメータ(沈降係数、拡散係数または摩擦係数、濃度)について、モンテカルロ法(Monte Carlo;MC)を用いた検証を行うことで、信頼性のある結果が得られます。図2に沈降速度法のUltraScanによる2DSA、GA-MC解析の解析例を示します。このように2成分について、それぞれの沈降係数(横軸)、摩擦係数(縦軸)、濃度(プロットの色調)が求まります。本ソフトウェアでは多くのパラメータを得ることができますが、それぞれの段階に高い専門性が求められます。

 

図2.IgGの沈降速度法シミュレーションデータについてのUltraScan GA-MC解析による三次元分布。IgG単量体(沈降係数s20,w=6.6 S、摩擦係数f/f0=1.54)が95%、2量体(s20,w=9.55 Sとf/f0=1.69)の含量を5%に設定し、シュミレーションデータを作成しました。実測値に基づいて解析を行った結果、2量体の含量は5.5%(s20,w=9.50±0.03 Sとf/f0=1.65±0.04)となり、シュミレーションの設定値と良く一致しました。

 

SEDANAL

SEDANAL(Sedimentation Analysis)は、Boston Biomedical Research InstituteのWalter Stafford博士によって開発されました。元々は、相互作用する2つの成分についての、沈降速度法のデータを解析するために作られたソフトウェアです。コンピュータの高速化と高性能化に伴ってSEDANALはさらに開発され、現在では、最大28成分、27種の相互作用を含む32個の沈降速度法のデータが解析可能となっています。このようにSEDANALは、他のソフトウェアでは現状では不可能な、非常にアドバンスな相互作用解析が可能なソフトウェアと言えます。

 

SEDNTERP

SEDNTERP(Sedimentation Interpretation)は、Alliance Protein LaboratoriesのJohn Philo博士によって開発されました。超遠心データ解析により測定に用いる溶媒における見かけの沈降係数が得られますが、異なる溶媒条件下で測定した値を比較する場合、解析で得られたs値を20℃の水中における沈降係数 (s20,w) に補正する必要があります。s20,wへの変換や分子量やストークス半径等の計算には、溶液の密度、粘度、および溶質の偏比容の入力が必要です。理想的には、密度・粘度値は、密度計および粘度計により測定した実測値利用が好ましいですが、SEDNTERPによる計算も可能です。また、溶媒成分がSEDNTERPのデータベースに登録されていない場合、測定を行う必要があります。偏比容は、多くのタンパク質においてアミノ酸組成に基づいて計算した重量平均値と実測値が近い値を持つことが知られています。SEDNTERPでは、各アミノ酸残基の偏比容があらかじめ入力されており、アミノ酸組成を入力することでタンパク質の偏比容を計算できます。ただし、偏比容は水和状態によって変わるため、糖鎖修飾がある場合や短いペプチドの場合には、計算値と実測値が異なることが多く、実測が必要となる場合があります。

 

おわりに

今回は、超遠心分析のデータ解析に用いるソフトウェアについて簡単に紹介しました。今後、超遠心分析沈降速度法(第3回)および沈降平衡法(第4回)の説明・解析例を紹介します。

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