解析方法【2】B細胞のクロナリティー検索
【2】B細胞のクロナリティー検索(surface Igκ/λ比で約9割の腫瘍性が判明)
B細胞のクロナリティー検索は、各解析領域でsIgのκ/λ比を求める。κ/λ比の正常範囲は1.0~3.2であり、この範囲を逸脱する領域には腫瘍細胞の存在が考えられる。ただし、CD4,8の解析からT/NK細胞系でダブルポジティブおよびダブルネガティブ細胞や系統抗原の欠損細胞などの異常が無いことを確認する。
その他に、sIgの欠損細胞やCD5、10、23の発現、さらにCD38強陽性細胞の存在にも注意深く観察する。特に大型細胞領域では、全体に占める割合が5%以下と少なくてもその中に腫瘍細胞を含んでいることがしばしばあるので異常を見逃さないように気を付ける。B細胞性リンパ腫における腫瘍性増殖の検出率は、sIgκ,λの検索で90%、抗原欠失を加えると95%程度である。
1)CD19,20,21,22,23の系統抗原について
CD19はすべての分化段階で発現するが、悪性の形質細胞のほとんどで陰性化する。
CD20,21,22は成熟B細胞に発現するが、形質細胞の分化段階ではほとんど陰性となる。ただし、悪性の形質細胞では、約1割の症例でCD19,20,21,23等のBマーカーの発現を認める。CD21はB-MLにおいて欠損および減弱する例を多く認めることから、腫瘍細胞の検出に有用である。
CD23は活性化B細胞のマーカーであるが、CLL/SLLで陽性であることが多いが、FL(約4割)、DLBL(約1割)、稀にPLLにも認める。大型細胞領域に分布するリンパ球は、反応性病変であれば、活性化してCD23の発現を一部の細胞に認めると考えられるが、大型細胞領域においてCD23陰性細胞の集団を認める場合には、DLBLを疑い注意する必要がある。
CD20はT細胞にも僅か発現するとされており、ネガティブcut lineを一般的な陰性コントロールで設定するとT細胞が多く含まれる症例ではCD19の陽性率に比べ高値となることがある。このため谷を認める場合には谷で切り陽性率を算出しても良いが、腫瘍細胞がCD20発現不良である場合には偽陰性化してしまうので注意する。特に病理免疫組織検査におけるCD20(L26)は、感度が高く、FCMのデータと乖離する場合がある。また、近年B-MLの多くの病型で抗CD20キメラ抗体(リツキサン)による治療が行われているため、腫瘍細胞のCD20発現の有無とその発現量の検索は必須であり、さらに治療により治療抵抗性のCD20欠損細胞への変化も考慮し、その変動にも注意する必要がある。
CD21 & 22の抗原発現強度

腫瘍細胞ではCD21やCD22の発現が、正常細胞と異なることが多い

腫瘍細胞は大型のB細胞であり、免疫組織染色でCD79a陽性、L26もやや弱いが明らかな陽性。しかし、FCMにおけるFITC-CD20抗体の染色で陰性であった。
B-CLL症例におけるCD20発現量の変化

CD20の発現量はやや低値であったが、経過とともにさらに低下した。
2)細胞表面Ig(sIg)について
sIgはB細胞系統で腫瘍性を判定する最も重要なマーカーであり、B-MLの約90%の症例はκ/λ比により腫瘍性の判定が可能である。しかし、sIgの発現強度や非特異反応の強さは症例により異なり、ネガティブカットラインは症例毎の設定となることから、解析には熟練した技術と経験が必要である。
残る10%はsIgの発現強度が低く判定が困難な症例が大部分を占める。全体の5%はsIgL鎖欠損症例であるが、その多くはsIgH鎖の発現を認め、腫瘍性の判断に利用できる。sIgL鎖およびsIgH鎖の完全欠損は、全体の約2%であり大部分がDLBL症例である。形質細胞レベルでは陰性とされているが、弱いながら発現している症例が多く、腫瘍性の判定が可能である。MALTリンパ腫の一部は、形質細胞様に分化した腫瘍細胞を伴うため、sIgの発現強度に多様性を認めることがある。sIgH鎖について、MCLはμ,δtypeであるので、診断にはsIgH鎖の検索は欠かせない。
surface Igの解析

3)CD10について
FLの約85%に認める病型特異的なマーカーであるが、発現量が極めて低い症例も存在することからFITC標識抗体ではしばしば陰性となり、輝度の高いPE標識抗体の選択が必要である。また、DLBLの一部にも認めるが、FLおよびDLBLにおいて予後良好マーカーとされている。
我々は、FLにおけるbcl-2転座およびCD10発現の有無を解析した結果、bcl-2転座は約6割に認め、そのすべてはCD10陽性であった。このことからFL症例は、bcl-2転座およびCD10発現により、共に陽性が60%、CD10のみ陽性が25%、共に陰性が15%と大まかに3群に分けることできた。
FLのCD10検索におけるFITCとPE標識抗体の陽性率の比較

FLにおいてFITC標識CD10抗体では、腫瘍細胞における陽性率が10%以上示したのは68.3%の症例であったが、PE標識抗体では82.1%であった。約2割はCD10陰性症例が存在すると考えられた。
CD10とt(14;18)を用いたFLの分類
4)CD5について
CLL/SLLやMCLの大部分で陽性であるが、発現強度の低い症例が多く、高感度な解析が必要である。CLL/SLLでのCD5陰性例ではCD13,11b陽性例が多く存在する。Richter's 症候群はCLLからDLBに移行した症例であるが、それ以外のDLBLの一部にも認め、予後不良症例として注目されている。
CLLおよびMCLでのCD5の発現状況
抗体の違いによるCD5発現不良のCLL症例の陽性率
5)CD11cについて
HCLでの発現が知られており感度は高いが、特異性は低い。CLLと異なりCD5,23陰性で、CD11b,25,103は陽性となる。欧米では悪性リンパ腫の約2%を占めるが、本邦では非常に珍しい。欧米では、ほとんどが欧米型と呼ばれる典型例で、臨床所見は脾腫を認めるがリンパ節腫大は認めないか、あっても軽度である。
検査所見は、骨髄検査では約半数の症例でdry tapとなり、汎血球減少を認める。末梢血でも白血球数が少なくHCL細胞の出現も少ない。HCL細胞は大型で細胞質は広く、その名のごとく細胞周辺にベール状の突起を有する。通常の標本では単球とリンパ球の中間的形態を示し、有毛性の細胞を観察することが困難なことが多い。形質は、CD11c,25陽性でCD5、23陰性であり、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)は陽性を示す。それに対し本邦の大部分を占めるHCL variant(HCL-V)は、臨床所見は同様であるが、白血球数は増加し(1万~5万/μL)、貧血や血小板減少は典型例に比べ軽度である。HCL-Vの細胞形態は大リンパ球様で核が中央に位置する目玉焼き状を示す。細胞質は周辺がやや塩基性でベールが波打つような模様を認める。有毛性については典型例と同様観察は困難であり、標本引き始めの厚い部分や自然乾燥標本で細胞質がギザギザする細胞を認める。形質はほぼ同様であるがCD25が陰性のことが多く、TRAPも弱陽性か陰性を示す。また多くの症例では多クローン性の高γグロブリン血症を認める。
Hairy cell leukemia の 細胞像

その他に本邦では、このHCL-Vと臨床所見、検査所見および細胞形態がほぼ同様でるHairy B-cell lymphoproliferative disorder(HBLD)が存在する(現在までに報告は10数例)。ほとんどの症例で多クローン性の高γグロブリン血症を認めるが、sIgL鎖やIgH鎖遺伝子再構成の検索で単一増殖性を認めない点のみ異なっており、CD11c陽性症例でHCL様の形態を示す細胞が増加していても、その腫瘍性の判断にはsIgL鎖やIgH遺伝子再構成の検索は欠かせない。
Hairy B-cell lymphoproliferative disorder
6)CD38について
B細胞は未熟細胞から成熟のすべての分化段階で発現しており、形質細胞の分化段階で発現量が極めて高い。悪性の形質細胞(MM,PCL)においても強陽性となり、腫瘍細胞の割合が低いときには、「CD38 gate」による解析は有効である。一方、CLL/SLLの大部分は陰性であるが約2割に陽性症例を認め、予後不良例とされている。その他、B-MLでの発現量は様々であり、抗体の種類により染色性が大きく変化することが知られており、抗体選択には注意を要する。
6種のCD38抗体の比較(CLLの2症例)
7)CD56について
MM/PCLでは、CD56陽性例が多く(約8割)存在する一方、MGUS(良性免疫グロブリン異常症)で認めない。さらに、MM/PCLでのCD56発現の欠損は薬物抵抗性の獲得に関係していると予想されるなど、予後不良マーカーと考えられている。
8)CD138について
CD138は、形質細胞に発現する特異性の高いマーカーである。骨髄血中においては形質細胞のみに発現を認めることから、未熟な細胞が多く存在する骨髄血中では、それらに発現するCD38に比べ有用である。ただし、CD138の発現量は、各症例の腫瘍細胞のなかで若干差があり、CD38に比べ広い分布を示す。
9)CD30について
一部のDLBおよびホジキン病に認め、腫瘍性の判断に有用である。
10)CD13,33等の骨髄系抗原について
CD13はCLLの一部に、CD33は多発性骨髄腫で認めることが多く、CD13陽性細胞も散見する.臨床的意義はとくに確立していない。
11)その他
T細胞マーカーであるCD4は、B-MLでしばしば弱いながら発現を認める。臨床的意義は確立していない。