白血病細胞マーカー分析、造血器腫瘍細胞の分類
血球は、全て骨髄中の造血幹細胞を起源として、それぞれの細胞系統(cell lineage)に分化します。幹細胞から分化した細胞は、それぞれの細胞系統に固有の分化段階を経て成熟し、末梢血に放出されます。分化・成熟に伴う形態学的、機能的変化を反映して、細胞表面には各種の糖タンパク分子(細胞表面抗原)が発現または消失します。したがって、このような分子を「目印」(マーカー)にして、「白血病細胞がどのような細胞表面抗原を発現しているか」を調べることによって、細胞系統や分化・成熟段階を推測することができます。これが「白血病タイピング」です。
造血器腫瘍細胞の分類は、腫瘍化が生じた細胞分化段階によって形態や機能が多彩で、治療法が異なり、また、治療成績に差異が見られるため、正確な病型診断が極めて重要です。
フローサイトメトリーの原理
フローサイトメトリー(略して FCM)とは、細胞あるいは細胞成分を浮遊液の状態にして、流体系の中を高速で通過させ、そこにレーザ光線等を照射して各細胞から得られる光学的情報を検出部を通して電気信号に変換し、さらにコンピュータを使って各細胞の生物学的特徴を研究解明していく分野として定義されています。このための装置を総称して、フローサイトメーターと呼びます。
● フローセル中の細胞にレーザが照射されると、前方散乱光(FS;細胞の大きさと関連)、側方散乱光(SS;細胞の内部構造と関連)、および蛍光を検出することができます。
● 白血球の前方、側方散乱光を 2 次元でプロットすると(サイトグラム)、リンパ球・単球・顆粒球分画が得られます。
● 分析したい領域にゲートを設定すると、その領域内にある細胞の蛍光強度分布ヒストグラムが得られます。
● 設定したゲート内における蛍光陽性群の占める割合=抗体の陽性率

タイピング抗体の選択
Ⅰ. 特異性と感度
細胞を分類するためのマーカーは、「特定の細胞系統または分化段階に限って発現し、他には発現しない」(特異性;specificity)、「特定の細胞系統または分化段階には必ず発現する」(感度;sensitivity)の両方を満たすことが要求されます。しかし、現実には特異性と感度を同時に満たす細胞表面抗原はほとんど存在しません。例えば、T細胞マーカーでは、pan-T 細胞マーカーとされる CD2、CD5、CD7 はいずれも感度の面では申し分ありませんが、T 細胞以外の細胞系統にも発現がみられます。一方で、T 細胞に特異的なCD1a やCD3 は、いずれもT 細胞の分化・成熟段階の特定のステージにしかみられません(表1)。
表 1: T 細胞マーカーの特異性と感度| マーカー | 未熟 T 細胞 | 中間型 T 細胞 | 成熟T細胞 | B 細胞 | NK 細胞 | 骨髄細胞 |
| CD2 |
+
|
+
|
+
|
-
|
+/-
|
-
|
| CD5 |
+
|
+
|
+
|
-/+
|
-
|
-
|
| CD7 |
+
|
+
|
+/-
|
-
|
+
|
-/+
|
| CD1a |
-
|
+
|
-
|
-
|
-
|
-
|
| CD3 |
-
|
-
|
+
|
-
|
-
|
-
|
したがって、T細胞系統を特定するには、これらのマーカーを複数用いて、総合的に判断を下す必要があります。同じことが、他の細胞系統にもいえます。このため、主として表2 に掲げた細胞表面マーカーから15~20 種類程度を選択して組み合わせた「抗体パネル」を用いて白血病タイピングが行われています。
今後は、このほかにも、腫瘍細胞の薬剤耐性をみる上でも有用なMDR1(P-glycoprotein)(文献1)、フィラデルフィア染色体陽性のALL 細胞に発現するKOR-SA3544(文献2)などの染色体異常に関連したマーカーも、抗体パネルに追加されていく可能性があります。
| T 細胞系 | B 細胞系 | 骨髄系 | 赤芽球系 | 巨核球系 | その他 |
| CD1a | CD19 | CD11c | CD235a | CD41 | CD10 |
| CD2 | CD20 | CD42b | CD25 | ||
| CD3 | CD22 | CD13 | (Glyco- phorin A) |
CD61 | CD34 |
| CD4 | CD23 | CD15 | CD36 | ||
| CD5 | FMC-7 | CD33 | CD38 | ||
| CD7 | Ig-κ | CD64 | CD45 | ||
| CD8 | Ig-λ | CD65 | CD56 | ||
| TCRαβ | CD117 | CD71 | |||
| TCRγδ | HLA-DR |
Ⅱ. 標識蛍光色素の選択
近年のフローサイトメトリーの進歩、特にPE 標識抗体が普通に用いられるようになり、従来は検出できなかったレベルの細胞表面抗原でも解析できるようになっています。白血病タイピングにおいても、発現の弱いマーカー、例えばCD10、CD13、CD19、CD33、CD34、CD117 などにPE 標識抗体を用いれば、より高感度にマーカーを検出することができます。
細胞表面マーカー分析のポイント
一般に、白血病タイピングは「リンパ球サブセット分析に比べて難しい」と考えられていますが、これは主に次のような理由によります。
● 検体が骨髄液だったり、細胞数が異常に多い(あるいは少ない)など、サンプルに特別の前処理を要することが多い。
● FCM のサイトグラム上で、解析する細胞集団の位置(ゲーティング領域)が決まってない。
● 蛍光ヒストグラムのパターンが一定でなく(しばしば蛍光強度が低かったり、抗体の非特異的反応が強い)、検体中の白血病細胞の割合も様々なため、データの解釈が難しい。
すなわち、これらが白血病タイピングのキーポイントであり、これらの要因をクリアできれば白血病タイピングはそれほど難しいアプリケーションではないということができます。
Ⅰ. 検体(サンプル)の前処理
白血病タイピングに用いるモノクローナル抗体試薬の至適細胞数は、おおむね0.3~1x106 個/テストです(製品ラインにより異なりますので、添付文書またはデータシートを参照して下さい)。したがって、白血球数の異常に多い検体(WBC が10,000/μL 以上)は希釈し、異常に少ない検体(WBC が1,000/μL 未満)はバフィーコートに濃縮します。
また、白血病検体では、しばしばFc レセプタを介した非特異的反応が強くみられることがありますので、分離単核球を検体とするときは、必ずFc レセプタのブロッキング操作を行ってください。
Ⅱ. サイトグラム上での白血病細胞のゲーティング
リンパ球サブセット分析の場合は、解析ゲートを常にリンパ球領域に設定すればよいのですが、白血病タイピングでは、白血病細胞が分布する領域にゲートを設定しなければなりません。白血病タイピングに用いる検体は、しばしば検体中の腫瘍細胞の割合が少ない(正常血球の割合が高い)ことがあります。白血病細胞の割合が少ないほど、サイトグラムでは白血病細胞以外の正常リンパ球、単球、顆粒球等の集団の比率が大きくなるため、正しいゲーティングが困難になります。骨髄液では赤芽球の混入も考慮しなければなりません。このように、白血病細胞の割合の少ない検体では、解析ゲートの設定や結果の解釈が困難となる場合があります。
散乱光のサイトグラムは、細胞の大きさと内部構造(顆粒密度など)を反映しますので、リンパ系腫瘍はおおむねリンパ球領域、あるいはそれより前方散乱が強い領域に分布します。非リンパ系腫瘍では、分化度の低いAML-M1 はおおむねリンパ球領域かリンパ球領域と単球領域の中間に、分化段階が進むにしたがって側方散乱が強くなり、AMLM3(APL)では顆粒球領域に近接した位置に分布する傾向がみられます(文献3)。したがって、白血病細胞のゲーティングには、形態学的情報が重要です。
CD45 蛍光を用いた白血病細胞のゲーティングについては後述します。
Ⅲ. 蛍光ヒストグラムのパターン(分析結果の解釈)
白血病細胞は細胞表面抗原の発現に異常をきたしている場合が少なくなく、多くのマーカーでしばしば蛍光強度に異常がみられます。蛍光強度が異常に低い場合、「陽性」集団のピークが陰性コントロールで設定した「陽性」領域より「陰性」側に分布することがあります。この場合、見た目の「陽性率」は低くなります。例えば、「陽性率 50%」という結果は、陰性 細胞と明らかな陽性細胞が半々である場合(図1左)以外に、100%陽性でも蛍光強度が低いために半分が「偽陰性」になっている場合(図1右)も考えられます。したがって、白血病タイピングの分析結果を「陽性率」の数値だけで判断するのは危険で、ヒストグラムデータを添付するか、図1右のような場合は、「弱陽性」など何らかのコメントを付す必要があります。CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute:旧NCCLS)のガイドライン(H43-A2)やJCCLS のガイドライン(H2-P)でもこの点が指摘されています(文献4,25)。
図1: 「 陽性率50% 」の意味
Ⅳ. 「陽性」、「陰性」の判別
これから白血病タイピングを行うという方から、しばしば「陽性率が何%以上なら陽性と判定するか?」というご質問をいただきます。文献では、陽性率10~40%の範囲でカットオフ値を設定しているものが複数みられますが、前述の理由から、すべてのマーカーに画一的に「カットオフ陽性率」を設定するのは適当でないと考えられます。さらに、検体中の白血病細胞の割合が様々であり、用いるマーカーの多くが正常血球(の一部)にも反応することから、マーカーごとであってもすべての検体に画一的にカットオフ値を設定することはできません。
したがって、「陽性」(あるいは「弱陽性」)と「陰性」の判定は、
● 解析ゲート中に正常血球がどれくらい含まれているか(白血病細胞の純度)
● そのマーカーが混入する正常血球成分にどのくらい反応するか(マーカーの特異性・感度)
● 白血病細胞のマーカー発現が十分に強いか(蛍光ヒストグラムのパターン)
の3 点を常に念頭に置いて判断する必要があります。
CD45 ゲーティングの有用性
CD45 は白血球共通抗原(Leukocyte Common Antigen; LCA)として知られています。正常骨髄において、細胞系統や分化段階によって、CD45 の発現レベルに違いがみられること(文献5)や、急性白血病、特にCD20 陰性のB 細胞性ALL で高率に「CD45 陰性」の症例がみられ、「CD45 陽性率」が低いほど予後が良いことが報告されています(文献6)。その後、CD45 蛍光と側方散乱で白血病細胞を精度良くゲーティングする方法論が提案され(文献7-9)、現在ではルーチンの白血病タイピングでも、CD45 を用いる施設が増えています。
CD45 ゲーティングでは、リンパ球および単球よりCD45 蛍光が弱く、側方散乱が同程度の位置に分布する集団が白血病細胞(芽球細胞)になります(図2 下)。
ただし、この方法論では、多くの成熟リンパ腫瘍など、CD45 の発現レベルが正常リンパ球と変わらないものは分別できません。このため、従来の前方散乱×側方散乱によるゲーティングを併用する必要があります。CD45 の蛍光強度には抗体により差異がみられることが報告されていることからも、CD45 ゲーティングにはJ33 抗体が適しています(文献10)。
図 2 CD45 ゲーティングによる白血病タイピング例

細胞質内マーカーの有用性
前述のように、細胞表面抗原には、いずれの細胞系統においても特異性と感度を同時に満たすマーカーは見出されていません。一方で、CD3 など系統特異性の高い分化抗原のいくつかが、分化段階の初期から細胞質内に存在していることは以前から知られていました。しかし、容易かつ確実な分析方法が確立されていなかったこともあり、フローサイトメトリーによる細胞質内抗原の検出は、長い間、限られた研究室のみで行われるアプリケーションでした。現在では、固定・膜透過処理試薬(IntraPrep)が市販されており、細胞質内抗原の検出が容易になったことから、このアプリケーションの白血病タイピングへの応用が幅広く行われるようになってきました。
欧州 7 カ国の研究者で構成されるEuropean Group for the Immunological Classification of Acute Leukemias(EGIL) は、1995 年に急性白血病の免疫学的分類に関する基準案を発表しています(文献11-13)。この基準案では、各細胞系統を規定する上で、細胞表面マーカーに加え、cyCD3,cyCD79,MPO などの細胞質内マーカーも重用しています。また、Biphenotypic Acute Leukemias (BAL)の鑑別に関して、下表のようなスコアリングシステムを提唱しています。このスコアリングシステムでは、CD3、CD79、MPO 等の細胞機能に直接関わる、系統特異性の高い細胞質内マーカーに高いポイントが付けられています(表3)。
表 3: Biphenotypic Acute Leukemias (BAL)*鑑別スコアリングシステム(EGIL)
| ポイント** | B 細胞系 | T 細胞系 | 骨髄細胞系 |
|
2
|
CD79a cy IgM (cy) CD22 |
(cy/m) CD3 TCR-α/β TCR-γ/δ |
MPO |
|
1
|
CD19 CD10 CD20 |
CD2 CD5 CD8 CD10 |
CD13 CD33 CD65 CD117 |
|
0.5
|
TdT CD24 |
TdT CD1a CD7 |
CD14 CD15 CD64 |
注) * : B 系またはT 系のいずれか一方と、骨髄細胞系が2 ポイント以上の場合にBAL と判断。
** : 各陽性マーカーについて、それぞれ対応するポイントを加算する。
細胞質内マーカーには細胞系統に固有の機能に直接関係するものが多く、その分析結果は、系統特異性をより強く反映していると考えられます。
図 3 に分析例を示します。細胞表面抗原では、白血病細胞はB 細胞系統、骨髄細胞系統のBiphenotype を呈しますが、細胞質内マーカーでは、CD79a 陽性 MPO 陰性であり、この細胞がB 細胞起源であることがわかります。正常な顆粒球はCD79a 陰性 MPO 陽性であり、分析の過程には問題なかったことが分かります(図3 下側)。
このように、CD45 ゲーティングに加えて、細胞表面マーカーと細胞質内マーカーを併用することで、白血病タイピングの確実性が高まることが期待されます。
図 3 Biphenotype Leukemia の細胞質内マーカー分析例

また、同じく細胞内抗原を応用した例として、aberrant expression の認められるALL やAML と上記のBiphenotypic acute leukemia に相当するmixed-lineage leukemia を鑑別する基準も提唱されています(文献14)。この基準においても細胞系統特異性の高いCD3,CD79a,MPO などが採用されています(表4)。
表4: 骨髄系マーカー陽性ALL、リンパ系マーカー陽性AML、mixed-lineage leukemia の鑑別基準(Campana et al.)

注)*:すべての基準を満たすこと。
MyALL:骨髄関連抗原陽性のALL, Ly+AML:リンパ系抗原陽性のAML
多発性骨髄腫細胞解析における CD38 ゲーティングの有用性
多発性骨髄腫(Multiple Myeloma)は、骨髄において形質細胞が単クローン性かつ進行性に増殖している造血器腫瘍の一種であり、高齢者で多く認められます。その解析には、形質細胞がCD38 強発現であることを利用したゲーティング(CD38 ゲーティング)が一般的に行われており、形質細胞のみを識別することが可能です。抗CD38 抗体を用いたゲーティングと多重染色による表面抗原解析から、形質細胞を多クローン(CD19+CD56-)単クローン(CD19+CD56+ orCD19-CD56+ or CD19-CD56-)に判別でき、他の抗体を組み合わせることで、その分化段階も知ることができるとされています(文献15)。
しかし、CD38 抗原は形質細胞に特異的なマーカーではなく、T 細胞、B 細胞、単球等にも発現していることや、骨髄腫細胞のCD38 発現量が低い症例も存在することから、CD38/SSC によるゲーティングのほかにCD38/CD45 を用いたゲーティングの併用や形質細胞に対して特異性が高い抗CD138 抗体によりCD38 によるゲーティング領域の適正を判断するなどの方法も利用されています。
図4 抗CD38 抗体を用いた骨髄腫細胞ゲーティング例

参考文献
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【付1】白血病細胞マーカー分析に用いられるマーカーの分布図および注意点(文献 16-24)
T 細胞系(および関連)

B 細胞系(および関連)

骨髄系(および関連)

【付2】白血病細胞マーカー分析パネル例 《3 カラー分析,急性白血病》
≪3 カラー分析パネル設定にあたっての注意事項≫
- CD45 ゲーティングすることで、腫瘍細胞の割合の少ない検体でも正常細胞と異常細胞の区別が容易になる。
CD45 ゲーティングが有効でない場合は、散乱光サイトグラムでゲーティングする。 - 検出感度と蛍光強度のバランスを考慮して、発現の弱いマーカーや陽性・陰性の分離が悪いマーカーにPE標識を使用する。
例: CD10、CD13、CD33・・・・・…FITC 標識では、偽陰性の恐れがある。 - 抗体のisotype がIgG2a/IgG2a、IgG2a/IgG2b、IgG2b/IgG2b となる組み合わせでは、抗体の非特異反応によるfalse double positive が起こる場合があるため、片方がIgG1 となるように設定するとよい。
- 各蛍光色素間の蛍光コンペンセーションを必ず調整・確認する。とくに、PC5 蛍光へのPE 蛍光の漏れ込み補正が適切でないと、CD45 陰性~弱陽性の細胞集団の分布位置が試験管によってばらつくことがある。
≪白血病解析パネル例1 - 18 項目分析≫
| FITC | PE | PC5 | |
| 1 | MsIgG(control) | MsIgG(control) | CD45 |
| 2 | CD2 | CD56 | CD45 |
| 3 | CD4 | CD8 | CD45 |
| 4 | CD3 | CD1a | CD45 |
| 5 | CD5 | CD19 | CD45 |
| 6 | CD20 | CD10 | CD45 |
| 7 | CD7 | CD13 | CD45 |
| 8 | CD14 | CD33 | CD45 |
| 9 | HLA-DR | CD34 | CD45 |
| 10 | CD41 | CD235a(Glycophorin A) | CD45 |
≪パネル説明≫
- コントロール抗体のアイソタイプはパネル抗体と同一のものを推奨いたします。
- T 細胞系とNK 細胞系の把握。T 細胞はCD2+/CD56-、NK 細胞はCD2+/CD56+(CD3+T 細胞のごく一部もCD56+)。CD56 は骨髄系腫瘍でも陽性となることがある。
- T 細胞のCD4,CD8 比率把握。ATL ではCD4↑CD8↓、伝染性単核球症ではCD4↓CD8↑。中間型胸腺段階ではCD4+/CD8+。
- T 細胞系と分化段階の把握。CD3 はT 細胞系に特異性の高いマーカー。中間型胸腺段階ではCD3-/CD1a+(細胞質内CD3 は+)。
- CD5 はT 細胞系マーカーであるが、B-CLL の場合、CD5+/CD19+(CD20+)となる。
- Pre-B 段階ではCD10+/CD20-(CD19+)。成熟B 細胞はCD10-/CD20+(CD19+)。
- CD7 はT 細胞マーカーであるが、骨髄系腫瘍で陽性となることがある。CD13 は骨髄系マーカー。
- 骨髄系と単球系の把握。CD14 は単球系マーカーであるが、M4,M5 では陰性の場合もある。CD33 は骨髄系マーカーであり、成熟単球はCD14+/CD33+。
- CD34 陽性あるいはCD34+/HLA-DR+で他のマーカーが陰性の場合は造血幹細胞由来の可能性があり、CD7も陽性の場合は可能性が更に高い。
- 赤芽球はCD235a(Glycophorin A)+なので、骨髄検体の場合、CD45-の細胞集団が白血病細胞かどうかの確認も可能。巨核球・血小板ではCD41 陽性。
≪白血病解析パネル例2 - 18 項目分析≫
| FITC | PE | PC5 | |
| 1 | MsIgG(control) | MsIgG(control) | CD45 |
| 2 | CD2 | CD56 | CD45 |
| 3 | CD3 | CD5 | CD45 |
| 4 | CD4 | CD8 | CD45 |
| 5 | CD34 | CD10 | CD45 |
| 6 | CD20 | CD19 | CD45 |
| 7 | CD7 | CD13 | CD45 |
| 8 | CD14 | CD33 | CD45 |
| 9 | HLA-DR | CD117 | CD45 |
| 10 | CD41 | CD235a(Glycophorin A ) | CD45 |
≪パネル説明≫
- コントロール抗体のアイソタイプはパネル抗体と同一のものを推奨いたします。
- T 細胞系とNK 細胞系の把握。T 細胞はCD2+/CD56-、NK 細胞はCD2+/CD56+(CD3+T 細胞のごく一部もCD56+)。CD56 は骨髄系腫瘍でも陽性となることがある。
- T 細胞系の把握。T 細胞はCD3+/CD5+、B-CLL におけるCD5 陽性例ではCD3-/CD5+(CD19+,CD20+)となる。
- T 細胞のCD4,CD8 比率把握。ATL ではCD4↑CD8↓、伝染性単核球症ではCD4↓CD8↑。中間型胸腺段階ではCD4+/CD8+。
- CD34 陽性で他のマーカーが陰性の場合は造血幹細胞由来の可能性あり。pre-B 段階ではCD10+(CD19+,CD34 もしばしば陽性)。
- B 細胞系の把握。成熟B 細胞はCD19+/CD20+。Pre-B 細胞ではCD19+/ CD20-(⑤のCD10 も参照)。
- CD7 はT 細胞マーカーであるが、骨髄系腫瘍で陽性となることがある。CD13 は骨髄系マーカー。
- 骨髄系と単球系の把握。CD14 は単球系マーカーであるが、M4,M5 では陰性の場合もある。CD33 は骨髄系マーカーであり、成熟単球はCD14+CD33+。
- HLA-DR はB 細胞系白血病やAML のほとんどで陽性(APL では陰性)。CD117 は骨髄性白血病の多くで陽性。
- 赤芽球はCD235a(Glycophorin A)+なので、骨髄検体の場合、CD45-の細胞集団が白血病細胞かどうかの確認も可能。巨核球・血小板ではCD41 陽性。
【付3】白血病解析に用いられる抗体
JCCLS ガイドライン(H2-Pv1.0 文献25)より引用|
【急性白血病のための抗体】
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【慢性リンパ性白血病やリンパ腫のための抗体】
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【付4】TQ-Prep による白血病検体処理法フローチャート
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末梢血検体
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骨髄液・リンパ節
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|---|---|
|
細胞数調整(3~10×106/mL) ① 希釈(>10×106/mL の場合) 患者血漿・・・・・・・・・・患者末梢血を500×g で EDTA 加NBS・・・・・培養用新生仔ウシ血清に ② 濃 縮 (<3×106/mL の場合) ↓ |
血清加PBSを添加して遠心洗浄 同一患者血漿または正常ヒトAB 血清または 細胞数調整(3~5×106/mL) ナイロンメッシュ(40μφ)でろ過 ↓ |
|
AML-M4またはM 5 等、非特異結合が著しいと予想される場合は
ヒトγ―グロブリンを最終濃度5mg/mL 程度になるように添加する。
↓
正常ヒトAB血清ならば最終濃度2~5%になるように加える。 室温で30 分放置。 試験管(12×75mm)に検体とモノクローナル抗体を分注 ↓よく攪拌し、インキュベーション(室温 30~45 分,遮光) ↓TQ-Prep で溶血処理 ↓5~10 分放置後PBSで洗浄(2 回、サイトスタット,IOTest は1 回でも可) 適量の0.5%PFA 加PBS に再浮遊(直ちに測定する場合はPBS でも可) FCM にて測定 |
|
Immunophenotyping Results
