Flow-Countを用いた細胞絶対数の測定
従来、フローサイトメトリー(FCM)の使用目的は、細胞集団の中のあるポピュレーションの割合(陽性率)を調べることが中心でした。しかし、今日、造血幹細胞数、残存白血球数、CD4陽性T細胞数などポピュレーションの割合と同時に、その細胞濃度(絶対数)の測定を必要とするアプリケーションが要求されてきています。
原理
細胞絶対数測定には、以下のような方法があります。
測定方式 | 特徴 |
あらかじめ調べたサンプル中の総細胞数と 目的とする細胞集団の陽性率から換算。 | あらかじめ、総細胞数がわかっていれば、特別な装置を必 要としないので簡便だが、試験管間の目的細胞集団の ゲート内純度・回収率のばらつき等に影響を受ける。 |
一定時間測定し、計測細胞と流速から換算。 | 単位時間当たりのサンプルの流速の誤差が、絶対数デー タの誤差になる。 あらゆるサンプルとフローサイトメーター で測定可能。 |
定量分取機構による測定。 (シリンジ、サンプリングバルブなど) | あらゆるサンプルで可能ではあるが、サンプル定量分取 機構のあるフローサイトメーターでのみ測定可能。。デバイ スの誤差、または細胞濃度が低い場合には十分量カウント できないことがある。 |
内部標準を用いて、目的細胞と標準物質の 各々の計測イベントから絶対数を直接比例 計算。 | サンプル量に関係なくあらゆるサンプルとフローサイト メーターが測定可能。目的細胞の「陽性率」は、絶対数の 計算に影響しないので、溶血不良などの場合も正確な 絶対数測定が可能。 |
Flow-Count は、内部標準法に細胞絶対数を測定する試薬です。 Flow-Count は、FL1~FL4(緑~深紅色)のすべての蛍光 物質がついた約 10 μm のラテックスビーズ懸濁液です(488 nm 励起で 525 nm~700 nm の蛍光を発する)。 ビーズの濃度 (個/μL)がロット毎に明記されており、サンプル浮遊液に混和するだけで、ビーズの数と目的細胞数の比率から細胞の絶対 数を求めることができます。
特徴
- FITC から PC5(PE-Cy5)に至る幅広い蛍光スペクトルに対応しており、4 カラー分析にも使用できます。
- 蛍光強度が十分強いので、陽性細胞領域から Flow-Count を容易に区別しゲートアウトできます。
- Flow-Count は、保存に伴う変性や凝集を防ぎ、なおかつ測定に影響を与えないように工夫された溶媒に 懸濁されており、サンプル溶液中に確実に分散されます。
- 懸濁液なので試料中の細胞濃度にあわせて添加量を加減することができます。
- ビーズ懸濁液を測定直前に添加するので、貪食や凝集によりビーズ数が変化する恐れがありません。
- ビーズの濃度(アッセイ値)は、血球計数の基準分析機であるコールター粒子分析器による反復測定を用い、 各製品ごとに正確かつ精密に検定されています。
- ロット毎のアッセイ値が、添付説明書に 1 μL 中の粒子数として記載されています。
- Beckman・Coulter のフローサイトメーターである FC500、Gallios、Navios では、ソフトウエアの CAL リー ジョン機能により絶対数の自動計算ができます。

使用方法
- サンプル 100 μL をサンプルチューブに分注します。
- 目的細胞を区別するために染色が必要な場合は、抗体等で染色します。
- 溶血が必要な場合は、溶血操作をします。 溶血操作が必要ない場合は、PBS で約 1 mL に希釈します。
- 室温に戻した Flow-Count を、泡が立たないよう 10 秒間、よく撹拌し、Flow-Count を 100 μL サンプルに 添加します*1。
- 測定直前に 5 秒間よく撹拌し、FCM で測定します*2。
*1: サンプルとFlow-Countを分注するピペットは同じものを用いてください。 (ピッペットのキャリブレーション誤差を相殺できます。)
*2: FC500、Gallios、Naviosで測定する場合は、ワークリストにアッセイ値をCALファクター値として入力し、 目的細胞 の絶対数を自動計算させることができます。
CALファクター値の入力や設定方法は、各機種のマニュアルをご参照ください。
上記以外のフローサイトメーターでは、以下の計算式に従って目的細胞の絶対数を測定してください。

等量添加でない場合は、サンプル添加量とFlow-Count添加量の比(希釈率)を計算式にかけてください。

測定例 ① -白血球数の測定-
検体中の白血球数を確認したいとき便利な方法です。
Ⅰ. サンプル
ヒト正常末梢血
Ⅱ. 試薬(ベックマン・コールター社製品)
Flow-Count 製品番号 7547053
イムノプレップ試薬 製品番号 7546999(300 テスト、TQ-Prep 用)
(必要に応じた染色用抗体試薬)
Ⅲ.サンプル調製(Gallios での測定例)
- 全血 100 μL を 12×75 mm サンプルチューブに分注します。 (この時、管壁に血液が付着しないように注意し、付着した場合は綿棒などで拭き取って下さい)。
- 溶血します(今回は TQ-Prep で溶血しています)。
- 室温に戻した Flow-Count を泡が立たないよう 10 秒間よく撹拌し、100 μL をサンプルに添加します。
- 測定直前に 5 秒間よく撹拌し、Gallios で測定します。
Ⅳ.機器調整
- 通常の方法で、Gallios をセットアップします。
- 絶対数測定用プロトコールを呼び出します。プロトコールがない場合は、次ページのデータ例のように設定します。
- 必要なら、感度条件を微調整します。
- CAL リージョン内イベント数が 1000 イベント以上になると、 各リージョン内の自動計算された絶対数(個/μL)が表示 されます。
- サンプル測定を終了し、データから絶対数を確認または計算します。
Ⅴ.データ例: Gallios にて末梢血液内のリンパ球(Lym)、単球(Mo)、顆粒球(Gr)の絶対数

* ここに各リージョン内に含まれる集団の絶対数(濃度)が表示される

測定例 ② -CD4 陽性 T 細胞の絶対数測定-
Ⅰ. サンプル
ヒト正常人末梢血
Ⅱ.試薬(ベックマン・コールター社製品)
CYTO-STAT TetraCHROME モノクローナル抗体 製品番号 6607013
(CD45-FITC/CD4-RD1/CD8-ECD/CD3-PC5)
Flow-Count 製品番号 7547053
イムノプレップ試薬 製品番号 7546999(300 テスト、TQ-Prep 用)
Ⅲ.サンプル調製(FC500 にて TetraCXP を用いた測定例)
- モノクローナル抗体(CYTO-STAT TetraCHROME)を 10μL サンプルチューブ(12×75 mm)に分注します。
- 全血 100 μL をサンプルチューブに分注します。
(この時、管壁に血液が付着しないように注意し、付着した場合は綿棒などで拭き取って下さい)。 - よく混和した後、室温で遮光し、15 分間反応させます。
- 溶血します(今回は TQ-Prep で溶血しています)。
- 室温に戻した Flow-Count を泡が立たないよう 10 秒間よく撹拌し、100 μL をサンプルに添加します。
- 測定直前に 5 秒間よく撹拌し、FC500 の TetraCXP にて測定します。
Ⅳ.機器調整
- 通常の方法で、FC500 をセットアップします。
- TetraCXP の絶対数測定用プロトコールを呼び出します。プロトコールがない場合は、下図のデータ例のように設定します。
- 必要なら、感度条件を調整します。
- CAL リージョン内イベント数が 1000 イベント以上になると、 各リージョン内の自動計算された絶対数(個/μL)が表示されます。
- サンプル測定を終了し、データから絶対数を確認または計算します。
Ⅴ.データ例: FC500 にて TetraCXP を用いた CD4 陽性 T 細胞の絶対数測定

使用上の注意
- Flow-Count、サンプルを分取するときは、キャリブレーションされた再現性のあるピペットを使用してくださ い。
- Flow-Count、サンプルを分取するときは、正確なピペッティングを行ってください。
- Flow-Count を攪拌する際は、気泡ができるような過剰な攪拌はしないでください。また、分取する際は、気 泡をピペットで吸わないようにしてください。
- Flow-Count は、遮光し 2~8℃で保存してください。開封後は、30 日間安定です。凍結したり、乾燥させない よう注意してください。
- サンプルは、Flow-Count 添加後、2 時間以内に FCM で測定してください。
- Flow-Count は、希釈せずに容器から直接分取してください。分取する前に、Flow-Count を室温(20~ 25℃)に戻し、Vortex ミキサーで 10 秒間攪拌してください。
- Flow-Count を添加したサンプルは、測定前に 5 秒間 Vortex ミキサーで撹拌してください。
- Flow-Count 使用時の温度、添加後の時間、攪拌時間を守ってください。
- Flow-Count は、ロット毎にビーズ濃度(アッセイ値)が記載されています。絶対数の計算には、各ロットのアッ セイ値を使用してください。
- 信頼性のあるデータを得るために、Flow-Count は 1000 イベント以上カウントしてください。
- Flow-Count が微生物に汚染された場合、誤った結果になることがあります。
- サンプルを洗浄する場合、細胞のロスがあると、正しい結果にならないことがありますので、アスピレーショ ン等、注意して行ってください。
改訂履歴
初版. 2003 年 6 月
第 2 版 2012 年 8 月