CytoFLEX Familyによる細胞周期の測定
フローサイトメトリーの応用分野の中で大きな比重を占めるアプリケーションの一つが細胞核DNA量の分析です。DNA含量を分析することで、細胞周期(G1期、S期、G2&M期)を同定することができます。癌細胞への新規薬剤の評価やDNAAneuploidy(アニュプロイディー解析)による悪性度、予後、悪性進行度の評価が行われています。
抗癌剤が細胞周期のどの期に良く効くのかを研究する上でも、DNA含量の測定は重要です。DNAの断片化したアポトーシス細胞のDNA含量の測定解析Sub-G1期細胞の同定もフローサイトメーターを用いて行われています。 さらに、核DNA量測定により、倍数体、異数体の解析も可能です。農学分野では、植物や魚類の3倍体測定がよく行われます。
DNA細胞周期ヒストグラムは、Kaluzaソフトウエアにて解析され、各期の比率%を求めることができます。
【テンプレートご使用上の注意】
ZIPファイルをダウンロードし、お使いの機種のフォルダー内のテンプレートをご使用ください。CytoFLEX、CytoFLEXのテンプレートは、お使いのCytExpertのバージョンによっては開かない場合があります。最新のCytExpertソフトウエアバージョン2.3をご使用ください。
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はじめに
CytoFLEX Family は、従来の機種よりも⾼感度かつ広範囲の蛍光強度が表⽰することができます(⼀般的な従来機は4Log、CytoFLEX Family は7Log まで表⽰可能)。
ここでは、PI を使⽤した細胞周期のサンプル調製と、CytoFLEX の特⻑を踏まえた測定⽅法を記載します。
サンプル調製
多くの場合、細胞周期の染⾊には、細胞膜の透過性のないPI 等の蛍光⾊素を使⽤します。これらの蛍光⾊素は、⽣細胞の細胞内に⼊らず、DNA を染⾊することができません。そのため、細胞膜⾮透過性の蛍光⾊素を⽤いるには、細胞膜に⽳をあける処理が必要になります(裸核も含む)。
代表的な細胞膜の処理⽅法は、①低張処理(裸核化) ②固定処理の2 つがあります。下記の各⽅法のメリットとデメリットを⽰します。
① 低張処理*
メリット︓
サンプル処理が⾮常に容易。
特に接着細胞の場合は剥がさず直接低張処理をしても可能な細胞が多い。
デメリット︓
サンプル処理後⻑期保存ができない。
処理操作の仕⽅によりM 期の細胞が核膜外に流れて出て、
実際よりもM 期の割合が低く出る場合がある。
*:弊社DNA-Prep 試薬システムは、より簡単に低張処理をご使⽤いただける試薬です。
② 固定処理
メリット︓
⼀般的に⻑期保存ができる。
低張処理の様にM 期の細胞だけ減少する傾向が少ない。
デメリット︓
処理に⽐較的時間がかかる。
細胞や処理の⼿技により固定時に細胞の凝集を起こしやすく、
かつ、チューブ壁⾯への吸着等で細胞のロスが起こりやすくなる。
サンプル調製① -DNA-Prep による低張処理-
Ⅰ. サンプル
細胞: 浮遊細胞の場合は、遠⼼・回収します。
付着細胞の場合は、トリプシン・EDTA で細胞を単離後、PBS で遠⼼洗浄し、回収します。
Ⅱ. 試薬
DNA-Prep kit(製品番号 6607055)
Ⅲ. その他
40 μm ナイロンメッシュ
Ⅳ. サンプル調製
1. 細胞を1〜3×106/mL になるようPBS で懸濁し、100 μL をテストチューブに分注。
末梢⾎の場合は、全⾎100 μL をテストチューブに分注。
2. DNA Prep LPR 試薬100 μL を添加後 約10 秒間攪拌。
3. DNA Prep Stain 試薬 2 mL を添加後、約10 秒間攪拌。
4. 暗所室温で15 分インキュベーション。
5. サンプルを40 μm ナイロンメッシュに通します(凝集塊除去)。
6. FCM にて測定します。
Ⅵ. 参考⽂献
- Crissman HA and Steinkamp JA. 1973. Rapid,simultaneous measurement of DNA, protein, and cell volume in single cells from large mammalian cell populations. J Cell Biology 59:766-771.
- Vindelov LL, Christensen IJ and Nissen NI. 1983. Standardization of high-resolution flow cytometric DNA analysis by the simultaneous use of chicken and trout red blood cells as internal reference standards. Cytometry 3:328-331.
- Shapiro HM: 1995. Practical Flow Cytometry. Extrinsic Parameters. Third Edition, New York: Wiley-Liss, p. 251-262.
- Hedley DW, Shankey TV and Wheeless LL. 1993. DNA Cytometry Consensus Conference. Cytometry14:471-500.
サンプル調製② -固定-
Ⅰ. サンプル
細胞: 浮遊細胞の場合は、遠⼼・回収します。
付着細胞の場合は、トリプシン・EDTA で細胞を単離後、PBS で遠⼼洗浄し、回収します。
Ⅱ. 試薬
PI SIGMA 社
RNase SIGMA 社
70%エタノール(-20℃で冷しておきます)
Ⅲ. 溶液
・PI 溶液組成︓
500 μg/mL PI
上記をPBS に溶解します。
・RNase 溶液組成:
0.25 mg/mL RNase(⽤時調製)
上記をPBS に溶解します。
Ⅳ. その他
40 μm ナイロンメッシュ
Ⅴ. サンプル調製
1. 細胞を1〜5×106/mL に濃度調整します。
2. PBS で細胞を2 回洗浄します(1,000〜1,500 rpm×5 min)
3. ペレットに冷70%エタノール(-20℃で保存)10 mL をボルテックスしながら、徐々に加えます。
4. 4℃で2 時間放置します。(注︓細胞により固定時間は異なります。)
5. PBS で細胞を2 回洗浄します。
6. 0.25 mg/mL RNase 溶液を1×106 細胞に対して1 mL加え、
37℃で15〜60 分インキュベーションします。
7. PI 溶液を最終濃度50 μg/mL になるよう加え、4℃で30 分暗所に放置します。
8. サンプルを40 μm ナイロンメッシュに通します。
9. FCM にて測定します。
Ⅵ. 参考⽂献
- Aderine L. Block et al: Experimental Parmeter and Biological Standard for Acridine Orange Ditection of Drug-Induced Alterations in Chromatin Cindensation. Cytometry 8:163-169, 1987
サンプル測定
ここで使⽤するPI は、取り扱いが容易で明るい蛍光⾊素なので、歴史的に多く使⽤されています。PI の最⼤蛍光波⻑は約617 nmです。

CytoFLEX は、従来のフローサイトメーターと⽐較して感度が⾼いため、PI の染⾊条件によっては、検出する蛍光が検出器の検出限界以上(サチレーション)になる場合があります。このような場合は、ND フィルター付きのバンドパスフィルターのご使⽤をお勧めします。ND フィルターをご使⽤いただいても感度調整が適切に⾏えない場合は、弊社アプリケーションにご連絡ください。

1.CellCycle standard Template の呼び出し
- CytExpert ソフトを起動します。File をクリックしNew Experiment from Template… をクリックします。


*︓PI 染⾊の細胞周期測定⽤Template は、ベックマン・コールターのホームページからダウンロードできます。
使⽤しているCytoFLEX モデルに該当するTemplate を選択してください。
(URL アドレス)
なお、ホームページには、操作説明の動画がありますので、ご参考にしてください。なお、Template の感度条件は、装置や細胞、染⾊状態により調整が必要になる場合があります。
2.PI の感度調整
- サンプルをセットRun ボタンをクリックし、測定を開始します。画⾯左のEvent/Sec の表⽰をみて細胞が流れたことを確認します。
- PI のプロット(All Event)で感度調整を⾏います。
画⾯上のAdjust Gain をクリックして感度を動かしたい⽅向にドラッグ&ドロップします。
G0G1 のピークが⾒やすいチャンネルに合わせます。(実験の⽬的等によりチャンネルは変える場合があります。)


3.FS/SS のAutoFit
- FS/SS のPLOT のプロットプロパティボタンをクリックします。


4.ズームとリージョンの調整
多くの場合、G2M 期の分部にG1G0 等のダブレットが混⼊してしまうことがあります。その為、細胞周期の測定では、ダブレット除去を⾏います。
- 1. PI-H/PI-A のプロットをクリックしてズームボタンをクリックし、拡⼤したいエリアを選択します。
- Single Cell リージョンをクリックするとリージョンの変形の画⾯になりますので■や□のポイントで形を整えます。


5.Stop Event の設定
- Event to Record のレコードイベントの数値を⼊⼒します。(Template はSingle Cell のGATE で20000 個のシングルセルの測定終了の設定になっています。測定の⽬的に応じて変更してください。)

6.サンプル名の⼊⼒
- 画⾯左下のName 上をダブルクリックして、サンプル名を⼊⼒します。
または、右クリックを⾏い、Edit Name を選びサンプル名を⼊⼒します。 - 続けて複数のサンプルを測定する場合は、New Tube ボタンをサンプル数だけクリックします。


7.Template の別名保存
- 画⾯左上のFile をクリックしてSave As Template を選択して、Template 名を⼊⼒して保存します。
- Save をクリックします。

8.機器のシャットダウン
通常使⽤しているFlow Clean(Cat No. A64669)は、細胞の洗浄には適していますが、PI 等の⾊素を使⽤した場合、⼗分に洗浄が⾏えず、⾊素残留の可能性があります。そのため、次亜塩素酸ナトリウム約3%溶液*で洗浄します。
*溶液の希釈には、DI Water を使⽤してください。アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等の界⾯活性剤が含まれていたほうが、より洗浄効率が⾼くなります。
- Menu のCytometer をクリックし、Daily Clean を選択します。
- Daily Clean ウインドウが表⽰されます。3%次亜塩素酸ナトリウム溶液 2mL を⼊れたチューブをチューブホルダーにセットします。
Duration を変更して洗浄時間を5 分変更し、Run をクリックします。 - ⾃動的に洗浄を開始します。
- 2 mL のDI Water を⼊れたチューブをチューブホルダーにセットします。
Duration を変更して洗浄時間を5分に変更し、Run をクリックします。⾃動的に洗浄を開始します。 - 洗浄完了が表⽰されます。Close をクリックし、Daily Clean を終了し通常の通り機器を終了してください。



細胞周期データ解析
【フローサイトメーターによるDNA 量分析】
細胞周期のデータは、G0G1 の集団のピークとS 期集団の⼀部がオーバーラップし、また同様にS 期とG2M 期の間もオーバーラップが存在します。そのため、蛍光標識抗体の測定時に⽤いられるような直線リージョンを⽤いた解析では、各期(G0G1期・S 期・G2M 期)の解析が不正確になります。つまり、細胞周期に適したアルゴリズムを⽤いた細胞周期の解析ソフトが必要になります。
Kaluza2.1 では、新たに細胞周期解析がサポートされ、複雑なマルチカラー解析だけではなく、DNA 量を⽐較する細胞周期解析もできるようになりました。
Kaluza による解析操作
- データの選択
・Kaluza ソフトウエアを開きます。

・Open File をクリックし、データファイルを開きます。
または、データファイルをワークスペースまたは、AnalysisList にドラッグ&ドロップします。 - Single Cell GATE の作成(ダブレット除去)
・Density プロット(またはDot、Contour プロットでも可)を作成します。
・DNA 染⾊したParameter のAria 信号をX 軸 Height 信号をY 軸に表⽰します。
・凝集塊を除いたSingle Cell GATE を作成します。

Point
細胞の凝集塊を含めたままDNA データ分析を⾏うと、細胞周期の分析データの精度を下げる原因の⼀つになります。G1 期の細胞が2 つ凝集したダブレットは、G2 期のArea の蛍光強度と同じになります。FS とAreaの蛍光強度だけでは、G2 期の細胞とG1 期のダブレットは区別ができません。⼀⽅、Height のシグナルの蛍光強度は、G1 期の細胞のダブレットは、G2 期の細胞より弱くなります。そのため、Area とHeight を⽤いて凝集塊のデータを除くGATE を作成します。

・Plots&Tables のタブのCell Cycle アイコンをクリックします。

・表⽰されたPlot の下部Choose a parameter をクリックしてDNA 染⾊したParameter のLin Aria を選択します。

・Plot 上部のUngated をクリックし、Single Cell GATE(ダブレット除去のGATE)を選びます。
・⾃動的に解析が⾏われます。

【解析アルゴリズム】
Kaluza の細胞周期解析には、2 つのアルゴリズムが選択できます。
Michael H.Fox のアルゴリズム
デフォルトのアルゴリズムです。Plot に表⽰された細胞の分布が、G1細胞が正常なガウス曲線を⽰していて、G2 期、S 期のデータが滑らかな曲線にフィットするアルゴリズムです。
J.V.Watson のアルゴリズム
このアルゴリズムはMichael H.Fox のモデルと同様に、G1 期及びG2 期が正規のガウス曲線を⽰していますが、G1 期とS 期のオーバーラップ部分とG2 期とS 期のオーバーラップの重なりを減らしたアルゴリズムです。S 期のデータの修正はされません。
初期設定では、Michael H. Fox のアルゴリズムが選択されています。必要に応じてJ. V. Watson 切り替えてご使⽤ください。
アルゴリズムの変更
・Plot 上でマウス右ボタンをクリックし、ラジアルメニューを表⽰します。
・Data アイコンをクリックします。

・必要に応じて、アルゴリズムを選択します。


【CytoFLEX による測定データの注意点】
Kaluza による細胞周期解析時の表⽰は、測定機種のパラメータのスケール表⽰に従いします。CytoFLEX の測定スケールは、1〜1×
07(7Log)です。測定時のG0/G1 期のピークチャンネルが低チャンネルである場合、G0/G1 期とG2/M 期のチャンネル分離が⼗分でないと、⾃動で細胞周期解析を⾏わないことがあります。⾃動解析を⾏わない場合は、以下の⼿順に従いG0/G1 期とG2/M 期の分離が明確になるよう、Parameter を作成して解析を⾏ってください。
・Parameter のタブのCustom Parameters をクリックします。

・Box の左下のNew をクリックします。
・Name とDescription を⼊⼒します。Description は、Plot のParameter 名として表⽰されます。

・Formula を⼊⼒します。
Parameters をクリックするとParameter の⼀覧が表⽰されます。
⼀覧からDNA を染⾊したParameter のAria を選びます(例︓ECD-A)。

・パラメータの表⽰チャンネル数を⼤きくするため、*アイコンをクリックします。
Formula の*の後に直接キーボードから数字を⼊⼒します。(ここでは5000 を⼊⼒しています。必要に応じて、G0/G1 期、G2/M 期の表⽰が⾒やすくなるよう値を⼊れてください。)

・Add をクリックし、次いでOK をクリックします。
・Cell Cycle アイコンをクリックします。

・開いたPlot のChoose a parameter をクリックします。
新しく作成したParameter を選択し、GATE を設定すると、解析結果を表⽰します。
