小型ピロプラズマ原虫寄生 赤血球の検出

ウシのタイレリア病は、小型ピロプラズマ原虫(Theileria srgeni)が赤血球に寄生して起こる疾病で、熱病や貧血を主な症状としています。フタトゲチマダニという放牧地に広く生息しているダニが媒介するため、多くの放牧牛が感染しています。

診断は原虫寄生赤血球をギムザ染色して顕微鏡下で計数して行うため、長い時間と労力を要しますが、フローサイトメトリーを利用することにより、非常に簡便に、短時間にかつ正確に原生寄生赤血球を測定することが可能になりました。



原理

感染赤血球に膜透過性の DNA 蛍光色素であるSYTO-16 をロードし、色素に反応した原虫DNA を検出します。


CYTO16 蛍光色素波長(Molecular Probe 社カタログより)


サンプル調製

Ⅰ. サンプル

タイレリア病に感染した恐れのあるウシから採取したヘパリン血或いは EDTA 血

Ⅱ. 試薬

 SYTO-16  Molecular Probe 社(S-7578)
 PBS 

Ⅲ.その他

 40μm ナイロンメッシュ
 エッペンドルフチューブ

Ⅳ.調製手順

  1. 全血を500g で10 分遠心分離し血漿とbuffy coat を取り除きます。
  2. PBS を加え、500g、5 分遠心分離し、上清を吸引除去します。この操作を3 回繰り返します。(重要:白血球を除去するためbuffy coat を取り除いてください。)
  3. 赤血球数約1~2×107/mL(PBS)に対しSYTO-16 が最終濃度250~500nM になるように加えます。
  4. 37℃、暗所下で20 分間、インキュベーションします。
  5. PBS で遠心洗浄を3 回繰り返します。
  6. 沈さにPBS を1~2mL 加えます。
  7. フローサイトメトリー(励起波長 480nm、蛍光波長 525nm;FL1)で、赤血球集団にゲートを設定して測定します。この際、ゲートを絞り込むことにより混入している白血球を除去できます(Fig.1)。

 

Fig.1 赤血球ゲートの絞り込みによる混入白血球 の除去


  ゲート設定:C の領域でゲート設定



データ例

Fig.2 は小型ピロプラズマ原生寄生虫赤血球をSYTO-16 と、過去に報告されているhydroethidine(HE)によって測定した結果を示したものです。SYTO-16 では原虫寄生赤血球と非寄生赤血球がきれいに分かれています。一方、HE では明らかな分離はできませんでした。 SYTO-16 陽性のB 領域のソーティングでこれらが原虫寄生赤血球であることが確認されました(Fig.3)。

Fig.2 SYTO-16 とhydroethidine の比較




Fig.3 SYTO-16 陽性B 領域からソーティングされた赤血球のギムザ染色




Fig.4a は野外発病牛の原虫寄生率を血液塗抹ギムザ染色法とSYTO-16 によるフローサイトメトリーで測定し、その相関を示したものです。相関係数0.983 の高い値が得られました。
また、感染血液希釈系列を作ったところ検出感度は 0.1%以上でした(Fig4b)。

Fig.4 野外発病牛での小型ピロプラズマ寄生率とSYTO-16 陽性率との相関(a)と感染血液希釈系列を用いた検出感度の測定(b)

 

SYTO-16 は、DNA に対して親和性が高いため、DNA を持つ有核赤血球とは反応しますが、RNA rich な網状赤血球と は反応しづらいと考えられます。タイレリア病以外にもマラリアやバベシア病等の赤血球内寄生原虫病の簡便なスクリー ニング法としても有用と考えられます。


参考文献

Yagi Y, Shiono H, Kurabayashi N, Yoshihara K, Chikayama Y “Flow cytometry to evaluate Theileria sergentiparasitemia using the fluorescent nucleic acid stain, SYTO16.” Cytometry. 2000 Nov 1;41(3):223-5.