フローサイトメーターの標準化の基本

科学的かつ長期的に比較可能なデータを得るには、フローサイトメーターの性能を適切に標準化する手法を用いて、機器を評価することが必要です。測定時にどのように機器が作動していたかを知ることができるパラメータを定義することにより、データと機器の状態の標準化を行うことができます。

機器の性能は、精密度(同一の粒子を測定したときの再現性)、線形性(リニアリティ)と感度によって確認することができます。精密度は、蛍光強度の強い均一な粒子を用いて計測されます。精密度は、機器の光学系/流体系を確認し、シース流がフローセル内部のタンパク残留の兆しである「乱れた流れ」を生じずにスムーズに流れていることを保証することで、計測されます。適切に洗浄および調整された機器では、ばらつきが小さく対称なピークのデータが得られます。これは、特にDNA測定に重要な意味を持ちます。
線形性(リニアリティ)は、蛍光補正(蛍光波長のオーバーラップの補正)および定量的な測定のために重要です。これは、2 つの異なった蛍光の強度の粒子の組み合わせで計測されます。
感度は、バックグラウンドから弱い蛍光を分離する性能です。既知の可溶性蛍光分子数(MESF、Equivalent Soluble Fluorophores)と同じCVを持っている2つの弱蛍光と1つの強蛍光の粒子の組み合わせで、定量的蛍光強度が計測されます。

これらの方法を自動標準化に組み込むことで、フローサイトメーターの性能評価とそのモニタリングがなされます。ベックマン・コールターは、1990 年代に世界に先駆けてCoulterR EPICS. XL-MCL で自動標準化のコンセプトを導入し、その後もリーダーとしてフローサイトメーターの標準化のソリューションを提供し続けています。



必須の性能評価試験

精密度(光学系/液送系)

精密度(機器の光学系と液送系の状態)は、Flow-Check™のような強蛍光の均一な粒子の測定によって確認されます。この強蛍光粒子は、蛍光の変動がほとんどない統計値を保証しています。1、5そのHPCV(Half Peak CV)は、機器製造元によって設定された範囲内に入っていなければならず、さらに、長期に渡る傾向(トレンド)を見つけるためにモニタされます(図1、2)。


図1: FC500でFlow-Checkを測定結果例          図2: 光学系/流体系(精密度)チェックの
                                Levy-Jeningsプロット例

 

線形性(リニアリティ)

フローサイトメーターの線形性(または非線形性)は、機器の正確性、特に使用するPMT(検出器)のダイナミックボルテージの範囲での電気的反応の正確性を確認します。蛍光補正を正確に行うには、ログスケールでの線形応答性が重要です。PMT応答の線形性は、FL1~4に対してはIMMUNO-BRITE™、FL5に対してはFlow-Check 770とFlow-Set™770などの蛍光粒子を用いて確認します。
2種類の蛍光強度粒子を用いて、蛍光の弱い粒子のピークが最初のディケードの高い位置に出るように各PMTを調整し、それぞれの蛍光強度を記録します。PMTのボルテージを少しずつ上げ、変更したボルテージでの粒子の蛍光強度を記録します。 蛍光強度が強い方の粒子が一番高いディケードの上半分に位置し、かつ機器のダイナミックレンジの全域をカバーするよう「感度変更と粒子の測定の繰り返し」を行います(最低5回、ボルテージの設定を行います)。2つの粒子の蛍光強度の比を計算し、ボルテージに対してプロットします。アプリケーションに対して使用するボルテージは、プロットのカーブが線形性のあるところで行います(図3、4)。


図3: 「感度変更と粒子の測定の繰り返し」はIMMUNO-BRITEを使用して、少しずつボルテージを上げ、機器の ダイナミックレンジを計測します(例としてFL1を示します)。

 


図4: 2つの粒子の蛍光強度の比のVoltageに対するプロット(左図)と%CVのVoltageに対するプロット(右図)
どちらの図においてもPMTは、屈折ポイントで非線形な反応を示しはじめます。

 

感度

フローサイトメトリーの感度特性とは、バックグラウンドからの蛍光の分離能および2つの弱い蛍光間の分解能になります。MESF(Molecules of Equivalent Soluble Fluorophore)の測定は、直接測定可能な単位に置き換える方法です。感度は検出効率(Q)とバックグラウンドのレベル(B)の2つの条件で説明されます。検出効率(Q)は、1つの蛍光色素分子から産生する光電子の数になります。QとBの2つは、蛍光ピークの標準偏差または分離能に影響するため、QとBを解析する蛍光ピーク間の重なり、つまり分解能を評価する方法として用いられます。一般的に使用される感度評価法である閾値検出方法(SPHERO™ Rainbow Calibration Particlesなどを用いて計測する)は、分解能に関する問題(各集団の平均値の分解能)にのみ対応します。このシグナル/ノイズの手法では、平均蛍光強度が同じであれば、分解能が大きく変化しても、“感度”は変化しない表示となります。図5は、平均蛍光強度が実質上は変化せず、閾値の検出はほぼ同じであるが検出効率にかなりの減少があった場合、分解能の低下を招くことを示す実験結果です。


図5: Q(検出効率)の減少による分解能の低下
レーザを20、10、5mWに減少させ、最も高いピークが同じ平均値チャンネルになるよう検出器のボルテージを調整した結果。
どちらの図においてもPMTは、屈折ポイントで非線形な反応を示しはじめます。

 

検出効率(Q)とバックグラウンド(B)の検出は、少なくとも2つの弱蛍光と強蛍光の粒子(SPHERO Rainbow Calibration Particleなど)を使用します。弱蛍光粒子のCV値は、リニアスケールで測定します。弱蛍光粒子の蛍光強度は、キャリブレータビーズを用いてMESFに変換し、更に弱蛍光粒子のCV値は、以下の式を用いてSD2に変換されます。
 SD2=(MESF)2×(CVdim2-CVbright2
検出効率(Q)とバックグラウンドレベル(B)は、MESF(x-values)とSD2(y-values)から直線回帰を求めます。
 Q=1/slope
 B=y-intercept/slope
機器の適正な分解能を表すQ値とB値(図6の例のようにスプレッドシートを用いて計算変換する)を求めておくと、機器性能を評価するLevey-Jenningsプロットを用いて長期的にモニタリングすることができます。


実用的な標準化プログラム

最適なフローサイトメーターの機器性能の保証と保守は、精密性、直線性(正確性)、感度の3つの基本性能を基に管理されます。これらは以下のステップの施設内標準化プログラムで管理します。

  1. 精密性: 毎日の強蛍光強度ビーズのHPCVのモニタを行う。
  2. 直線性(正確性): 機器設置時および機器の主要部品やPMTの交換後にPMTの反応の確認を行う。
  3. 感度: 毎月または機器の主要な変更後に機器の感度の確認を行う。

 

検出効率(Q)とバックグラウンド(B)の測定



黄色のセルのデータを入力



1. 式を用いて弱蛍光ビーズのMFIをMESF値に変換

 

2. 式を用いて弱蛍光のCVをSD2に変換



3. MESF(x-values)に対するSD2(y-values)の回帰直線を作成



4. 検出効率を算出(Q=1/slope)



5. バックグラウンド(B)を算出


図6: QとBの算出のためのスプレッドシート例

ステップ1で、MESF既知のキャリブレータビーズ用いて、弱蛍光ビーズの蛍光強度をMESF単位に変換する。ステップ2で、式に従い、弱蛍光ビーズのCVからSD2値の算出を行う。ステップ3で直線回帰プロットを作成し、ステップ4と5でQとBは算出する。


Ⅵ. 参考文献

  1. Hoffman RA, Wood JCS. Current Protocols in Cytometry. New York: John Wiley & Sons, Inc., 2007.
  2. Wood JCS. Fundamental flow cytometer properties governing sensitivity and resolution. Cytometry 1998 33:260-266.
  3. Chase ES, Hoffman RA. Resolution of dimly fluorescent particles: a practical measure of fluorescence sensitivity. Cytometry 1998 33:267-279.
  4. Schwartz A, Fernández-Repollet E, Vogt R, Gratama JW. Standardizing flow cytometry: construction of a standardized fluorescence calibration plot using matching spectral calibrators. 1996 Cytometry 26:22-31.
  5. Shapiro HM. Practical Flow Cytometry Fourth Edition. New York: Wiley-Liss, New York 2003.