ハイスピードフローサイトメーター MoFlo を用いた FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)の測定

はじめに

蛍光タンパク質を用いたタンパク質の局在性、タンパク質分子間相互作用および遺伝子発現解析は、研究の重要なツールとなっています。興味のあるタンパク質自体が蛍光発光する蛍光タンパク質を利用することで、細胞内の目的タンパク質を蛍光標識する操作を行うことなくタンパク質の細胞内の局在と定量が可能になります。蛍光タンパク質に関するマルチカラーアプリケーションには、蛍光タンパク質を使用した蛍光共鳴エネルギー移動(FRET:Fluorescence resonance energy transfer)1~3などがあります。


図1

FRET(Fluorescence resonance energy transfer)は、10~100オングストロームの範囲内にある分子間距離を解析する方法です。FRETでは、ドナー蛍光分子が励起され、かつ、適切なアクセプター蛍光物質が10~100オングストロームの距離内に存在する場合、ドナー蛍光分子の蛍光発光がアクセプター蛍光分子を励起し、アクセプター蛍光分子の蛍光が検出されます(図1)。FRETが起こると、ドナー蛍光分子の蛍光の強度が弱まる一方で、アクセプター蛍光分子の蛍光の強度が増強されます。ハイスピードフローサイトメーターMoFloでFRETを測定すると、100,000個/秒で細胞ごとの分子間距離に関する情報を得ることができます。また、70,000個/秒で目的細胞を回収することもできます4


材料と方法

フローサイトメトリーでFRETの実験を適切に行うには、実験プロトコールに複数のコントロールサンプルを用意します。以下のプロトコール例で、CFP/YFPのFRET解析に必要なサンプルを示します。すべてのサンプルが同一の細胞種で一つのトランスフェクタントで、同じ融合タンパク質を用いていることに注意してください。

  1. 蛍光を発しないタンパク質のトランスフェクタント:
    機器の初期設定を行い、蛍光を検出する光電子増倍管(PMT)の感度設定と、散乱で生細胞のゲートを決定します。
  2. CFPのみのトランスフェクタント:
    PMT設定の微調整と、YFPおよびFRETの各検出器へのCFP蛍光スペクトルの漏れ込みの確認を行います。
  3. YFPのみのトランスフェクタント:
    PMT設定の微調整と、CFPとFRET検出器へのYFPの蛍光スペクトルの漏れ込みの確認を行います。
  4. CFP・YFP両方のトランスフェクタント:
    これら二つのタンパク質は相互作用しないことが知られています。このサンプルで、FRETが検出されず、CFP/YFPの二重発現が観察されることを確認します。
  5. 実際のCFP/YFP実験サンプル:
    FRETを検出します。

ここで示す実験では、FRETにより、アルツハイマー病の発病機序に関係があるとされるタンパク質相互作用を解析しています。CFP及びYFP融合タンパク質は、pGEXベクターとTransformer部位特異的突然変異誘発キットを用いて突然変異を誘発しました。ヒト胎児腎由来 HEK 293T細胞をプレートに播種し、Fugene 6を用いて融合タンパク質とコトランスフェクトさせました。Conditioned Mediumでトランスフェクションから18~24時間後に細胞を回収し、ナイロンメッシュで濾過し細胞を分離しました。
細胞は488 nmアルゴンレーザー(75 mW)および413 nmクリプトンレーザー(60 mW)を搭載したMoFloで、解析しました。
YFP検出には、530/40バンドパスフィルターと1.0NDフィルターを用い、検出器のVoltage 400~450VでLog信号を用いました。
CFP検出には、473/12バンドパスフィルターと0.3NDフィルターを用い、検出器のVoltage 470~550VでLog信号を用いました。
FRET検出は、550/30バンドパスフィルターと510ダイクロイックロングパスフィルターを用い、検出器のVoltage 475VでLog信号を用いて行いました。
データの所得と解析には、Summitソフトウェアを使用しました。


結果

CFP融合タンパク質又はYFP融合タンパク質のみで形質転換された細胞は、FRETを示しません。しかも、融合タンパク質CFP-ARHΔPTBおよびYFP-AIDとコトランスフェクトされた細胞でも、FRETは見られません(図2b、上側のプロット)。ところが、融合タンパク質CFP-ARHおよびYFP-AIDとコトランスフェクトされた細胞では、蛍光発光の明らかなシフトに示唆されるとおり、FRET陽性となります(図2b、下側のプロット)。
このシフトは、アルツハイマー病の発病中のこれら二つのタンパク質の距離を示しており、こうした分子相互作用研究におけるMoFloの役割を明示しています5~6



図2b
Y軸の細胞の強度の増加は、Y-AIDとC-ARH間(下側のプロット)のFRETを示していますが、Y-AIDとC- ARHΔPTB間(上側のプロット)ではFRETは観測されません。図2bの右上にプロットされる細胞は、FRET陽性細胞です。カッコ内の割合はFRETを示しているコトランスフェクト細胞(図2aのR7)の比です。

図2a
ARHはAbPPとin vivoで相互作用
YFPおよびCFP融合タンパク質のコトランスフェクションをしたデータを示しています。YFP-AID(Y-AID)、CFP-ARH(C-ARH)、CFP-ARHΔPTB(C-ARHΔPTB)はin vivoで発現した融合タンパク質であり、アミロイドタンパク質前駆体(AbPP)のAID部分と常染色体劣性高コレステロール血症(ARH)アダプタータンパク質との相互作用を示します。

 



考察

急速に発展するプロテオミクスの時代において、CFP、YFP、GFPおおびBFPなどの蛍光タンパク質のアプリケーションは、発展を続けています。遺伝子発現レベルの指標や蛍光共鳴エネルギー移動研究のツールとして蛍光タンパク質を用いた場合も、ハイスピードフローサイトメーター MoFloは、目的細胞の検出、細胞の分離を行ううえで、理想的な装置です。


参考文献

  1. Szollosi J, Damjanovich S, Matyus L, Application of fluorescence resonance energy transfer in the clinical laboratory: routine and research. Cytometry 1998; 34:159-179.
  2. Didenko VV. DNA probes using fluorescence resonance energy transfer (FRET): designs and applications. Biotechniques 2001; 31(5): 1106-1121
  3. Chan FK, Siegel RM, Zacharias D, Swofford R, Holmes KL, Tsien RY et al. Fluorescence resonance energy transfer analysis of cell surface receptor interactions and signaling using spectral variants of the green fluorescent protein. Cytometry 2001; 44(4): 361-368.
  4. Ashcroft RG, Lopez PA. Commercial high-speed machines open new opportunities in high throughput flow cytometry. Journal of Immunological Methods 2000; 243: 13-24.
  5. Roncarati R, Sestan N, Scheinfeld MH, Berechid BE, Lopez PA, Meucci O et al. The a-secretase-generated intracellular domain of s-amyloid precursor protein binds Numb and inhibits Notch signaling. PNAS 2002; 99(10): 7102-7107.
  6. Scheinfeld MH, Roncarati R, Vito P, Lopez PA, Abdallah M, D’Adamio L. Jun NH2-terminal kinase (JNK) interacting protein 1 (JIP1) binds the cytoplasmic domain of the Alzheimer’s s-amyloid precursor protein (APP). J Biol Chem 2002; 277(5): 3767-3775.

謝辞

本稿に使用したプロトコール及びデータをご提供いただいた、Peter Lopez先生、Paul Bieniasz先生およびDanso Ako-Adjei先生(米ニューヨークのアーロンダイアモンドエイズ研究センター所属)に御礼申し上げます。