エクソソーム研究における基本と今後の展望(3)

3. エクソソームの円滑な解析のためのポイント

 

回収後のエクソソームの確認法

吉岡先生:当研究室では、回収後のエクソソーム溶液中に存在する粒子数や粒子サイズを測定するために、動的光散乱法を用いています。動的光散乱法では、回収後の溶液にレーザー光を照射し、粒子による光散乱によって粒子サイズを算出でき 18)、さらにCCDカメラによる画像解析も可能なので、見かけ上の粒子濃度を算出することができる、といったメリットがあります(図5)。

図5:動的光散乱による粒子径の計測。超遠心法にて回収したエクソソームを含む分画の粒子径分布を動的光散乱により確認した。縦軸は粒子数、横軸は粒子径を 表す。100~200 nmの粒子が多く含まれる(吉岡先生ご提供)

 

動的光散乱法のメリットは、溶液中のおおよその粒子濃度と粒子サイズの分布を手軽に測定できるため、エクソソームの回収・調製操作の成功可否の判断を容易に行えることが挙げられます。一方、デメリットとしては、エクソソームのみが特異的に計測されるわけではないため、溶液中の微粒子やエクソソームと同程度のサイズのタンパク質凝集体などの夾雑物も同時に検出されてしまうことが挙げられます。したがって、夾雑物が多く混在している試料においては、正確にエクソソームの濃度、粒子サイズを反映した測定値を得られない点に注意が必要です。

その他のエクソソーム確認法としては、電子顕微鏡による脂質二重膜粒子の画像確認も行われています(図6)。ISEVでは電子顕微鏡によるエクソソーム粒子の確認は必須ではありませんが、論文審査の際には必要な場合があります。電子顕微鏡による観察では、エクソソーム粒子の存在と粒子サイズの確認は可能ですが、溶液中に存在するエクソソーム粒子数に関しての情報は得られませんし、どの施設でも使用できるわけではありません。そのため、動的光散乱法による情報を補足しながら解析を進める場合も多くあります。

 

図6:位相差電子顕微鏡によるエクソソームの形態観察。脂肪由来間葉系幹細胞が分泌したエクソソームを超遠心法にて回収後、位相差電子顕微鏡で観察したスケールバー:100 nm(吉岡先生ご提供)

 

回収溶液中のエクソソーム量を確認する際には、エクソソーム量と相関がみられる溶液中のタンパク質濃度を目安として用い、回収されたエクソソーム量を算出しています。したがって、エクソソームの純度は、①回収溶液中での目的のサイズ範囲内(およそ30 nm~200 nm)の粒子分布、および②溶液中のエクソソーム量の目安としてのタンパク質濃度、の双方に基づいて評価しています。

回収後のエクソソーム解析と必要量

吉岡先生:エクソソームの回収後に、エクソソームの膜マーカータンパク質に対する抗体を用いた免疫沈降法によって、エクソソームを濃縮することがあります。その後、Western Blottingにより目的の内包タンパク質の検出を行ったり、濃縮したエクソソームを用いた細胞添加などの実験を行ったりすることがあります。しかし、エクソソームの濃縮過程で用いた抗体を遊離させた「フリー」のエクソソームを得たい場合に、抗体遊離が困難な点、さらに抗体遊離の処理条件が厳しすぎる場合にエクソソームが崩壊してしまう点を課題と感じています。免疫沈降法のデメリットとしては、特定の膜マーカータンパク質を持つエクソソームのみが濃縮されるため、必要量のエクソソームを得るためには、エクソソーム回収に用いる初期細胞数がかなり必要な点が挙げられます。

エクソソーム中のmiRNAなどの核酸やタンパク質といった内包物質の解析のためには、回収したエクソソームを溶解して内包物質を抽出しています。miRNAを解析する際にはRNA溶出用の試薬を用い、タンパク質を解析する際には、界面活性剤を用いてエクソソーム粒子を溶解させ、抽出したタンパク質を質量分析などに用いています。

 

エクソソームの細胞への取り込み評価

吉岡先生:エクソソームの細胞への取り込みを解析する際には、エクソソームに蛍光色素を添加して標識し、その挙動を追跡する方法があります(図7)。しかし、この方法では、蛍光標識する際に、手間と時間をかけて回収したエクソソームの大半をロスすることと、取り込まれたエクソソームの細胞内機能の評価は困難であることを課題と考えています。

図7:蛍光標識したエクソソームの取り込み観察。回収したエクソソームを蛍光標識し、細胞培養液中に添加した。赤色矢印で示される緑色は標識されたエクソソーム、青色は核を示す(吉岡先生ご提供)

 

そのため、細胞内に取り込まれたエクソソームの機能的な評価法として、当研究室では、ルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子発現への影響を計測する細胞系を構築しています19)(図8)。その1つでは、ルシフェラーゼの発現を抑制するsiRNAを内包したエクソソームを、ルシフェラーゼレポーター発現系を有する細胞に添加して、ルシフェラーゼ活性の有無を評価しています。この評価系においては、ルシフェラーゼレポーター発現細胞およびルシフェラーゼ遺伝子に対するsiRNAの産生細胞を作製する必要がありますが、一旦細胞株を構築すれば、細胞からエクソソームを回収する操作は通常のエクソソーム回収と同様に行えます。

エクソソームの細胞内への取り込み様式に関しては、現在未知の部分が多くあり、今後生体内での取り込みメカニズムの解析も含めて、多くの研究からの新たな知見が期待されています。

図8:エクソソームに含まれるmiRNA取り込み評価の模式図(吉岡先生ご提供)。
(a)評価するmiRNAの相補鎖をルシフェラーゼ遺伝子下流に組み込んだプラスミドを作製し、受容細胞のゲノム中に組み込む
(b)エクソソームを受容細胞に添加し、一定時間培養後にルシフェラーゼ活性を測定する。
(c)細胞内にエクソソームが取り込まれ、内包されたmiRNAが標的に作用する場合。
miRNAが相補鎖に結合してルシフェラーゼ遺伝子の翻訳が抑制されるため、ルシフェラーゼ活性は低下する。

 

調製ツールとしての超遠心機の役割の変化と今後への期待

吉岡先生:研究技術の中には、研究の動向に応じてその需要が著しく変化するものがあります。例えば、核酸配列解析のニーズの高まりに伴い、1980年代に登場した自動シークエンサーの性能は飛躍的に上昇し、現在では次世代シークエンサーも登場しています。一方、超遠心機はかつて頻繁に使用されていたにも関わらず、徐々に使用頻度が下がってきた装置の1つに挙げられます。

ところが、ISEVでも推奨されているように、超遠心機はエクソソームの調製法として最も信頼度の高い手法であるため、エクソソームの研究が盛んになると、以前より頻繁に使用されるようになってきました。

当研究室では乳がん細胞から分泌される直径30~200 nmのエクソソームを主に研究対象としていますが、サイズが300 nmもの細胞外小胞が細胞から分泌される場合もあり、これらのサイズが異なる粒子の性質が同一か否かは現在のところ明確ではありません。超遠心法の技術やエクソソームの分離方法がさらに改善されれば、例えばエクソソームのサイズの相違による機能的な違いといった部分も明らかになるのではないかと期待しています。

また、ある種のがん細胞が分泌するエクソソームなどのように、特定のエクソソームのみを精製するといった、さらに高い精度が要される技術へのニーズも高まることが予測されます。その際には、既存の技術に改良を加えたり、例えばエクソソームソーティングのためのフローサイトメトリーなどの技術と組み合わせたりすることで、現段階では理解が困難な生命現象のしくみに関しても、解明の糸口が見つかる日が来るのではないかと考えています。

 

まとめ

内包タンパク質、miRNAなどの解析や、細胞内へのエクソソーム取り込みの解析により、エクソソームの生理学的機能や生物学的意義が明らかにされていくと考えられる。そういった過程でのエクソソーム回収・調製および解析のためのツールとして、超遠心機を含む機器においての改良や組み合わせなどによる貢献も不可欠と考える。

 

参考文献
18)入江文子、粉体技術、2013 年;5 巻2 号:pp124-7、一般社団法人 日本粉体工業技術協会
19)Kosaka N, et al., J Biol Chem. 2010; 285: 17442-52

 

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