CytoFLEX mosaicが登るスペクトルサイトメトリーの山
登頂と生還のための登山装備(アルゴリズム)たち
はじめに
技術としてのフローサイトメトリーは、現在も進化を続けており、従来のバンドパス型であるコンベンショナルフローサイトメトリーと、蛍光をスペクトルで取得するスペクトルフローサイトメトリー、ICP マスやイメージング、ラマン分光を検出原理とする蛍光以外のサイトメトリーの3つに大きく分けられます。これを山登りに例えますと、登頂までの難易度や登頂経験者の人数、そこから望むことのできる景色の違いから、コンベンショナルはハイキングに近い高尾山、スペクトルは北アルプスの名峰穂高岳、蛍光以外は日本を離れアフリカのキリマンジャロに例えることができるかと思います。
高尾山で見える景色と穂高岳で見える景色が大きく異なることと同様に、スペクトルフローサイトメトリーでは、より詳細で雄大な生命現象を観察することができることが徐々に認知されてきております。ベックマン・コールターも高尾山ハイキング仕様のコンパクトフローサイトメーター CytoFLEX S または LX に、本格的な登山装備としてスペクトル検出モジュール CytoFLEX mosaic を加えることで穂高岳登山が可能なスペックを手に入れました。
スペクトル検出モジュール CytoFLEX mosaic は、コンベンショナルとスペクトル検出モードを切り替えることができます。チューブからサンプルを吸い上げる流路系からフローセル上でレーザー励起するところまでは、本体の系を共通として使用します。細胞から放出される蛍光を検出する光学検出系が独立しているため、検出モードの切り替えによってコンベンショナル検出系とスペクトル検出系を用いた測定が各々可能です。このため、スペクトルフローサイトメトリー仕様の検出器アレイを使用してバンドパスを模した測定を行うバーチャルコンベンショナルは不要となります。
CytoFLEX mosaic は、この10余年で先達たちによって明らかとなったスペクトルフローサイトメトリーの現実的な課題に対処すべく4つの特長を有しております。
- ①真性コンベンショナル ⇔ スペクトルの切り替えが可能(切り替え作業時間は5分以内)
- ②2つの Unmix アルゴリズム:一般的な LSM(最小二乗法)とより洗練された Poisson(ポアソン)ハイブリッドを実装
- ③自家蛍光スペクトルを最大 10 個まで登録可能
- ④すべてのレーザーに側方散乱(SSC)を搭載
バーチャルコンベンショナルに対してトゥルーまたは真性コンベンショナルと呼んでいますが、長年の経験と知見、トラブルシューティングの蓄積があるコンベンショナルとスペクトル検出モードとを、簡単なケーブル切り替え作業 で利用することができます。CytoFLEX LX には総検出器数が88の CytoFLEX mosaic 88 が、CytoFLEX S* の場合は総検出器数が63の CytoFLEX mosaic 63 を追加することができます。
蛍光スペクトルを各色素に分離する Unmix アルゴリズムについて、一般的に使用されている LSM と、より洗練された結果へ導く、具体的にはスプレッドエラーを抑制するための Poissonハイブリッドというアルゴリズムの2つを実装しています。
異なる自家蛍光を持つ複数の集団でも同時に自家蛍光除去ができ、解析チャネルのように表示することも可能です。
Violet レーザーの SSC では 80 nm 以上のナノスケール粒子が検出可能です。また、非常にユニークな仕様として Red レーザー、IR レーザーの SSC も搭載されており、近年、免疫療法の予後マーカーとして新たな役割が注目されている好酸球のノンラベル検出が Red や IR レーザーの SSC を用いることで可能になります。
*CytoFLEX S V-B-Y-R シリーズのみ対応
このように本格的な登山仕様となりました CytoFLEX mosaic が、実際にスペクトルの山を登山をしようとしますと、まず登山計画として実験計画とパネルの設計が必要になります。登山口までの移動はサンプル調製です。山道や道ではないルートを通っての山登りは、スペクトルフローサイトメーターでの測定とデータ処理をすること、そして体制を整え、天候のタイミングを見計らって山頂へアタックし登頂することは、得られたデータの解析と生物学的な解釈をして、新たな発見や仮設を証明することになります。見事登頂を果たしましたら、下山して成果や喜びを仲間と共有するように、論文発表や外部発表し、リバイスやバリデーションを経て、その恩恵を社会に還元します。
本ホワイトペーパーでは、スペクトルフローサイトメトリーを支援する登山装備(アルゴリズムツール)という観点で、各工程で役立つアルゴリズムツールについてご紹介いたします(Figure 1)
実験計画・パネル設計:FluoroFinder
パネル設計では、人工知能 AI によるパネル設計ができる FluoroFinder を用いることができます。ベックマン・コールターとパートナーシップを締結している会社の製品である FluoroFinder は、各社のフローサイトメトリーのスペック、フローサイトメトリー試薬ベンダーの製品データ、ISAC をはじめとしたコミュニティのデータ、独自の色素間蛍光漏れ込み情報、その他の独自データからなる膨大な情報をデータベース化して統合し、「 Intellipanel(インテリパネル)」というAI によって、最適パネルの作成を支援する Web ツールです。FluoroFinder Basic はアカデミア利用では無償ですが、Intellipanel は有償オプションとなっています。CytoFLEX mosaic には、この Intellipanel が含まれたライセンスが付属します。
この Intellipanel では、AI が機器の検出器構成、抗体の発現強度や共発現も考慮した上で、各抗原に対する抗体と色素の膨大な組み合わせの中から、最も分離が良くなりそうな候補を提案してくれます。例えば、T 細胞サブセットのフェノタイプと活性化マーカー 13 個と生死判定試薬の 14 カラーのパネルですが、組み合わせとしては 1263 万通りが検討されています。計算が終わりますと画面が変わり、提案内容を評価できます。画面上部にパネル内色素のスペクトル分布が表示され、重なり具合を見ることができます(Figure 2 )。画面下部には各抗原に対する抗体を標識する色素の候補が割り当てられます。色素は変更することも可能です。その抗体と色素の製品リストが表示されます。選択しました製品は一覧表になりますので、ラボメンバーと共有もいただけます。
測定・データ処理:Unmixing アルゴリズム“Poisson ハイブリッド”
測定とデータ処理のステップでは Unmixing アルゴリスムである Poisson ハイブリッドアルゴリムが役立ちます。
スペクトルフローサイトメトリーでは、すべての蛍光色素の信号が複数の検出器にまたがって記録されます。各色素は固有のスペクトルパターン(スペクトルシグネチャー)を持っており、複数の色素が同時に存在すると、それらのスペクト ルが重なり合った「混合スペクトル」が得られます。Unmixing とは、この混合スペクトルから、各色素がどれだけ存在しているか(存在量)を数理的に分離・推定する処理です。
スペクトルフローサイトメトリーにおける Unmixing は、蛍光色素のスペクトルを数理的に分離することで、従来のコンベンショナル方式では困難だった色素の同時使用や解析精度の向上を可能にします。以下に、その主な利点をまとめます。
- ①類似スペクトル色素の分離が可能
- ②パネル設計の柔軟性向上
- ③試薬コストの削減可能性
- ④自家蛍光の除去精度の向上
Unmixing では、複数のレーザー励起によって得られるスペクトル情報を活用することで、APC と Alexa Fluor 647 のような、コンベンショナルでは同時使用が難しかった色素も分離可能になります。これは、異なるレーザー励起下でのスペクトルシグネチャーの違いを利用することで、より高精度な色素識別が実現できるためです。
スペクトルフローサイトメーターでは色素の分離性能が向上するため、これまで同一パネルに組み込めなかった色素同士を同時に使用できるようになります。特に、CytoFLEX mosaic のような複数のレーザーを搭載した機器 では、より多くの色素を組み合わせたパネル設計が可能となり、マルチパラメーター解析の幅が広がります。
色素の選択肢が広がることで、より安価な蛍光色素への置き換えが可能となり、試薬コストの削減にもつながる可能性があります。これは、研究現場におけるコストパフォーマンスの向上に寄与します。
Unmixing では、無染色細胞から取得した自家蛍光スペクトルを「自家蛍光シグネチャー」として扱い、他の蛍光色素と同様に分離処理を行うことができます。これにより、コンベンショナルフローサイトメーターでは困難だった 自家蛍光の除去が、より精密に実施可能となります。また、この自家蛍光シグネチャーをパラメーターとして可視化に利用することもできます。
このように、Unmixing は色素分離の精度向上だけでなく、パネル設計の自由度や自家蛍光除去といった多方面での利点を提供します。しかし、現実の測定環境ではいくつかの課題が存在します。最大の課題は、理論的な計算モデルと実際の測定との間に生じる「ノイズ」の影響です。
ノイズの影響を理解するためにも、まずは、単純化したイメージを使用して、Unmixing の原理を簡単に説明します。Figure 3 a に細胞に2種類の色素がついている場合を示しています。コンベンショナルでは1つの色素に対し、バンドパスの検出器1つを割り当てて検出しますが、スペクトルフローサイトでは、どの色素も装置の持つ全ての検出器で蛍光を検出します。こちらはその色素の純粋な蛍光スペクトルで、横軸が検出器の並び、縦軸が蛍光強度です。蛍光色素固有のスペクトルパターンとなるため、スペクトルシグネチャーとも呼ばれます。色素 A は緑色の蛍光なので、短波長側にピークがあり、色素 B は赤色なので長波長側にピークがあります。この色素 A と B が細胞に 100 個ずつ結合していた場合、測定されるスペクトルは A と B が重なり合ったオレンジで示したようなスペクトルになります。そして、色素 Aと B が 250 個ずつ結合している細胞が流れてきて測定すると、スペクトルの形は先ほどのオレンジと同じで高さが2.5倍になる紫色のスペクトルが測定されます(Figure 3 b)。一方、色素 A が 100 個色素 B が 400 個結合している細胞の場合、色素 B の割合が大きくなるため、こちらの青色のようにスペクトルの形状が大きく異なります(Figure 3 c)。
このように各色素の固有スペクトルに各々の存在量をかけたものが測定された混合スペクトルになることはイメージいただけるかと思います。では、どのように計算をして個々の色素の存在量を計算しているのでしょうか。決してこの計算は ブラックボックスというわけではありません。各スペクトルを 90 度回転しまして、縦に検出器、横に各色素が並ぶ行列にします( Figure 4)。ここでは単純化した例なので検出器が 15 個で表示していますが、mosaic 88 ですと蛍光の検出器が 81 個ですので、81 個縦に並びます。そして例えばパネルのカラー数が 20 カラーでしたら、横に各色素が 20個並ぶことになります。この色素固有のスペクトルいわゆる各色素のスペクトルシグネチャーの行列マトリックスに、各色素の存在量をかけたもの、これと測定される色素トータルのスペクトルとが等式になるというのがアンミックスの大まかな原理となります。論文等ではこれを、行列マトリックスの M と存在量アバンダンスの a、が測定される混合スペクトルrで表記されたMa=rで記述されていることが多いかと思います。そして、実際の測定では、M である各色素のスペクトルシグネチャーは、単染色コントロールによって手元にあり、色素が結合している細胞の測定スペクトルから、その細胞に結合している色素の存在量 a がアンミックスの計算目的となります。このため、この等式を変換し、a=r×M-1といたします。
M-1 は、M の逆行列によって得ることができます。この逆行列にrをかけることで、a である各色素の存在量を求めることができます(Figure 5)。
理論上のスペクトルシグネチャーは一つの明確な値として定義されますが、実際の測定ではノイズによりばらつきが生じます。このばらつきは、スペクトルの密度分布として可視化され、測定値は「 r=Ma+e」という形で、ノイズ成分(e)を含んだものとして表されます。ノイズの要因にはいくつかの種類があります
機器由来のノイズとしては、電気的な雑音や迷光が挙げられますが、現代の市販機器ではこれらはほぼ無視できるレベルに抑えられています。より影響が大きいのは、蛍光色素分子に関連するノイズです。pH や温度の変化によって分子構造が変化し、蛍光特性が変わることがあります。特にタンデム色素では、ドナーとアクセプター間のエネルギー移動効率が変化することで、スペクトルの形状や比率が変わってしまうため、試薬の管理やサンプル調製の精度が重要になります。
さらに、自然科学的に避けられないノイズとして光子計測誤差によるスプレッドの発生があります。これは、蛍光強度の高いチャネルほど光子の検出イベントが多く、確率的な誤差が大きくなるため、Unmixing 計算に強く影響し、結果として二次元プロット上で集団が実際よりも広がって見える現象です。特に、ピーク蛍光が高い色素やスペクトル波形が似ている色素同士では、このスプレッドが顕著になります(Figure 7)
従来の Unmixing では、最小二乗法(LSM)が一般的に用いられてきましたが、この手法は光子計測誤差の確率的性質を考慮していないため、誤差の大きいチャネルに引っ張られ、分布が不自然に広がる傾向があります。2013 年に発表 された論文 1 では、この問題点が指摘され、Poisson アルゴリズムによる改善が提案されました。
Poisson 分布は、一定時間内にランダムに発生するイベントの回数を表す離散確率分布であり、スペクトルフローサイトメトリーにおいては、各検出器での光子検出イベントのばらつきを考慮した近似記述するのに適しています。このアル ゴリズムを Unmixing に応用することで、より正確な分布の再現が可能となり、スプレッドの抑制に効果を発揮します。
ただし、Poisson アルゴリズムは計算が非常に複雑で、現実的な処理時間での実装が困難でした。これに対してベックマン・コールターは、Poisson アルゴリズムに近似した“ Poisson ハイブリッド”を開発し、CytoFLEX mosaic の制御・解析ソフトウエア CytExpert for Spectral に搭載しました。この手法により、従来の LSM では考慮されていなかった光子計測誤差によるスプレッドが抑制されたプロットとなり、誤った解釈のリスクを低減できます。
Figure 8 にその効果を示すデータ例を示します。同一の生データを、左が LSM、右が Poisson ハイブリッドでUnmixingしたプロットを対応する順番に並べています。赤枠のプロットを左右で見比べますと、ラッパ状に広がっているスプレッドが抑制されています。また、太い赤枠のプロットでは、LSM ではスプレッドの影響で集団が2極化してしまっているような分布となり、ミスリードのリスクが懸念されますが、Poisson ハイブリッドでは綺麗なひとつの集団であることが分かります。
この 2 つの Unmixing アルゴリズムの他に、CytExpert for Spectral はデータ品質を高めるための自動チェック機能が搭載されており、サチュレーションチェック機能では、検出器の上限に達したピーク信号を警告し、抗体濃度やゲイン設定の最適化に役立ちます。また、アンミキシング自動チェック機能では、結果に偏差がある場合にアラートを表示し、オーバー/アンダーアンミキシングの検出を支援します。さらに、測定後のデータに対しても、LSM と Poisson ハイブリッドのアルゴリズムを切り替えて適用できるため、解析の柔軟性と精度が大きく向上しています。
データ解析・解釈:クラウド型データ解析ソフトウエア Cytobank
Poisson ハイブリッドで、より洗練された Unmixed データが生成できましたら、次はデータ解析と解釈です。CytExpert はそれ自体でも基本的なゲーティングのできる優秀なソフトウエアですが、解釈や結論に至るための複雑な解析には高度な解析を行うためのソフトウエアが必要となります。ベックマン・コールターではクラウド型サイトメトリー解析ソフトウエア Cytobank が利用可能です。Cytobank はクラウド上で解析処理や計算処理がされるため、ハイパラメータデータの解析のための次元削減やクラスタリングといった機械学習アルゴリズムツールをお使いの PC やタブレット、スマホでご利用いただけます。
Cytobank でのデータ解析のワークフローをステップにそって示します。まずデータをクラウドにアップロードし、スケール設定を確認後、データのクオリティチェックとして異常イベント除去をして、各種解析し、統計グラフや有意差検定によってグラフ化します(Figure 9)。
- ①Cytobank クラウドへデータのアップロードとスケール設定を確認
- ②データのクオリティチェック
- ③解析・グラフ化・Figure 作成
まずデータファイルのアップロードとなり、CytoFLEX mosaic の制御ソフトウエアの CytExpert for spectral の画面に Cytobank ボタンがあり、このボタンを押すとブラウザが起動し、数クリックで Cytobankへログインすることができます。その後 FCS ファイルをドラッグ&ドロップでアップロードします。
スケール設定を確認後、データのクオリティチェック、異常イベント除去を行います。フローサイトメトリーにおけるデータ解析の精度を高めるためには、測定時に発生する異常イベントの除去が重要です。2000 年代以降、クロッグ(詰まり)によるシグナル異常、流速の変化によるシグナルシフト、測定開始・終了時のシグナル変動などが、解析結果に影響を与える要因として指摘されてきました2。これらの異常イベントは、解析前に除去することが望ましいとされています。この課題に対して、2022 年に PeacoQC というアルゴリズムが開発されており、コンベンショナル、マス、スペクトルフローサイトメトリーデータで、異常イベントの自動検出と除去してくれることが報告されております3。このアルゴリズムは、Cytobank に実装されており、ユーザーはファイルとチャネルを選択するだけで、異常イベントを除去し、解析対象のデータクオリティを向上させることができます。さらに、異常イベントはプロット上で自動的に可視化されるため(Figure 10)、評価や確認も容易です。
クオリティの高いデータが得られた後は、メインとなる解析と Figure 作成に進みます。解析には、マニュアルゲーティングに加え、次元削減( tSNE、UMAP)、クラスタリング、自動ゲーティングなどの機械学習アプローチを自 由に組み合わせることが可能です。例えば、従来通りマニュアルゲートでポピュレーションを定義し、各群間での%ポピュレーションの比較と有意差検定を行うことで仮説を検証した後、次元削減を加えることで、同じポピュレーション内でも異なる局在を持つ細胞群を可視化できます(Figure 11)。
さらに、各マーカーのカラースケールマップを用いることで、群間の違いに寄与するマーカーを探索することができ、データドリブンなバイオマーカー発見につながります。このような解析では、使用するマーカー数が多いほど、バイオマーカー発見の可能性も高まります。
統計解析機能も充実しており、よく使われる 5 種類の統計グラフがメニューから選択でき、Student's t 検定やANOVA など 7 種類の有意差検定がガイド付きで利用可能です(Figure 12 緑枠)。多重検定にも対応しており、群間設定は「Sample tags」機能を使ってスプレッドシート形式で簡単に行えます(Figure 12 赤枠)。これにより、複数の群間分けをファイルにアノテーションし、グラフ上で即座に切り替え表示・再計算が可能です(Figure 12)。また、統計機能はゲートと連動しており、ゲート位置を変更すると自動で統計結果が更新されます。
さらに、より柔軟な解析として教師なしクラスタリングを行い、得られたクラスターやメタクラスターに対して統計的有意差検定を実施することで、群間差のあるクラスターを特定し、そのマーカー発現パターンをヒートマップで把握することができます。次元削減マップと組み合わせることで、群間の違いに寄与するその他のマーカーの探索も可能となり、近年ではこのような包括的な解析手法が用いられるようになっています(Figure 13)。
リバイス・バリデーション
論文投稿後のマイナーリバイスでは、ゲーティングの修正や群分けの追加などが求められることがあり、これらはCytobank を使えば簡単に対応可能です。一方、メジャーリバイスでは、マーカーの追加や統計的検証のための n 数 の増加が必要になる場合があり、CytoFLEX mosaic や FluoroFinder、Cytobank などのツールがその対応を支援します。
また、先行研究との整合性を求められた場合には、コンベンショナルモードへの切り替えによって、より説得力のある確認が可能です。さらに、まれにオミックス解析が求められるケースでは、シングルセルソーティングが可能なセルソーター CytoFLEX SRT を活用することで対応できます。
トランスレーショナルリサーチにおいては、フォワードとリバースのサイクルによって実用化を目指します(Figure 14)。このような検証を支えるツールとして、CytExpert for spectral や CytExpert(コンベンショナルモード)、Cytobank には電子署名や監査証跡のオプションがあり、最終的なアウトプットの信頼性を担保することができます。
さらに、CytoFLEX mosaic 本体とソフトウエアは、IQOQ(設置・運用適格性)やスタンダーダイゼーション(標準化)にも対応しております。
おわりに
スペクトルフローサイトメトリーは、従来のコンベンショナル方式では困難だった多色解析や自家蛍光除去、色素の柔軟な組み合わせを可能にするこれからさらに普及と進化の進むテクノロジーです。コンベンショナル&スペクトルフローサイトメーター CytoFLEX mosaic システムは、この技術を最大限に活用するための装備(ハードウェア)とツール(ソフトウェア・アルゴリズム)を使用できるプラットフォームです。
- 切替可能な真性コンベンショナルモードとスペクトルモード
- Poisson ハイブリッドによる洗練された Unmixing
- CytExpert による共通した使いやすい操作性と品質チェック
- Cytobank によるクラウド解析と柔軟なリバイス対応
- FluoroFinder による AI パネル設計支援
- IQOQ・監査証跡対応
これらによって mosaic は、スペクトルフローサイトメトリーという山を登り、登頂(発見)と下山(検証・再現性)をより確実に安全なものにします。
参考文献
- Novo, David et al. “Generalized unmixing model for multispectral fl ow cytometry utilizing nonsquare compensation matrices.” Cytometry. Part A : the journal of the International Society for Analytical Cytology vol. 83,5 (2013): 508-20. doi:10.1002/cyto.a.22272
- Monaco, Gianni et al. “fl owAI: automatic and interactive anomaly discerning tools for fl ow cytometry data.” Bioinformatics (Oxford, England) vol. 32,16 (2016): 2473-80. doi:10.1093/bioinformatics/btw191
- Emmaneel, Annelies et al. “PeacoQC: Peak-based selection of high quality cytometry data.” Cytometry. Part A : the journal of the International Society for Analytical Cytology vol. 101,4 (2022): 325-338. doi:10.1002/cyto.a.24501
※本ホワイトペーパーはベックマン・コールター株式会社が 2025 年 8 月に実施した Web セミナーをベースに作成したものです。
より詳しい内容は、Web セミナーをご視聴ください。
コンベンショナル&スペクトルフローサイトメーター
- スペクトル⇔コンベンショナルの切り替えが容易
フローサイトメーター CytoFLEX S*/LXに接続するだけのスペクトル検出モジュール - 複雑な作業を簡単に
最小限のトレーニングで操作をマスターできるソフトウエア - 信頼できるデータ
自動アンミキシングチェック等のQC機能。電子署名にも対応可能 - ハイパフォーマンス
自弱陽性集団や複雑な多色染色解析を可能にする優れた蛍光感度
*CytoFLEX S V-B-Y-R シリーズのみ対応



