最適なマルチカラーフローサイトメトリーパネルを構築するための7つのヒント

最適に設計されたパネルと高品質の試薬を用いたマルチカラーフローサイトメトリーは、複数のパラメータを同時に検出・測定できる強力なツールです。しかし、そのデータの品質は、パネルのデザインの最適化やフローサイトメーターの適切な設定に大きく依存します。ここでは、マルチカラーフローサイトメトリーにおいて、データの品質を向上させ、よくある落とし穴を回避するための7つのヒントを紹介します。

1.蛍光色素の選択

蛍光色素には、極めて明るいものから非常に暗いものまで、さまざまなものがあり、すべてが同じではありません。蛍光色素の選択においては、明るい蛍光色素を使用することが必ずしもよいわけではなく、また、暗い蛍光色素を避けることがよいとも限りません。一般には、目的の抗原を検出できる十分な明るさをもつと同時に、他の検出器(チャンネル)への蛍光の「漏れ込み」が最小となるような蛍光色素を使用することが望ましいとされます。蛍光の「漏れ込み」とは、ある蛍光色素の蛍光スペクトルが別の蛍光色素を測定するチャンネルによって検知され、そのチャンネルに対して望ましくないシグナルが生じることです。蛍光色素が明るいほど漏れ込みの可能性が高くなり、データの広がりが大きくなる結果、解像度が低下する恐れがあります。これを避けるためには、発現の弱い抗原に対しては明るい蛍光色素を用い、発現の強い抗原に対しては暗い蛍光色素を用います。このルールに従えば、適切な蛍光色素を選択することができます。



2.チャンネルの選択

蛍光の漏れ込みが起こるような場合であっても、パネルの蛍光色素の選択を最適化すれば対応できます。発現の強い抗原に対しては、他のチャンネルへの影響が少ない蛍光色素を選択し(緑色の縦列)、発現の弱い抗原に対しては、他の蛍光色素からのチャンネルへの蛍光の漏れ込みによる影響を受けにくい蛍光色素を選択します(黄色の横列)。蛍光色素がこれらのカテゴリのいずれに該当するかは、装置の構成や蛍光色素の選択に依存します。使用するパネルに最適な条件を見つけるためには、蛍光色素とチャンネルの組合せを試してみることが必要です。

利用できるすべてのチャンネルを用いた実験をデザインする場合には蛍光の漏れ込みを完全に避けることは困難ですが、これらのヒントが、蛍光の漏れ込みによるパネルや測定データへの影響を最小限にするのに役立つでしょう。



3.抗原の排他性

互いに排他的な抗原のあいだでわずかな蛍光の漏れ込みが起こった場合はどうでしょうか。2つの抗原からの互いの蛍光の漏れ込みは、それらの抗原が目的のゲート内の同じ細胞に共発現していない場合には、パネルに影響を及ぼしません。


4.抗原の共発現

マーカーの発現強度が変化するあるいはその可能性がある場合、または発現が弱い場合には、そのマーカーのチャンネルに対する、共発現する抗原からの蛍光の漏れ込みを抑えなければなりません。蛍光の漏れ込みによってデータが不正確になったり、発現強度の変化が検出できなくなったりする恐れがあるためです。共発現していない抗原であれば蛍光の漏れ込みは問題にはならず、こうした蛍光の漏れ込みが抗原の発現変化や発現の弱い抗原に対する、感度や解像度に影響を及ぼすことはありません。





 

5.親と子の関係

親への「口答え」が必ずしも悪いこととは限らないように、マルチカラーフローサイトメトリーパネルに関していえば、子から親への「口答え」によってマーカーのあいだで感度を維持することができます。すなわち、サブセットまたはサブポピュレーション(子)のマーカーからのゲートマーカー(親)への蛍光の漏れ込みやクロストークは許容されます。子マーカーは親マーカーに対しつねに陽性となるため、親マーカーはこうした蛍光の漏れ込みを許容できるのです。たとえば、CD4からの蛍光がリンパ球ゲート内のCD3を検出するチャンネルに対し強い蛍光の漏れ込みを示したとしても、CD4陽性T細胞はCD3陽性でもあるため、CD3を検出するチャンネルにおいてバックグラウンドの広がりをひき起こすことはありません。しかし反対に、親マーカーから子マーカーへのクロストークの場合は、親シグナルの蛍光の漏れ込みが子シグナルのバックグラウンドに影響を及ぼすため注意が必要です。


6.陽性の閾値

強発現の陽性細胞を同定する、あるいは、強発現と中程度/弱い発現を区別することが目的であれば、共発現する抗原への蛍光の漏れ込みは許容されます。一方、弱発現と陰性を区別することが目的である場合は、データや結論が不正確になり、偽陽性の結果をもたらす可能性があるため、蛍光の漏れ込みは許容されません。


7.蛍光の漏れ込みの複雑さ

複雑さを回避するためには、蛍光の漏れ込みのパターンをできるだけシンプルかつ単純なものとし、検出限界が表現型に依存しないようにします。ただし、ドットプロットに現れない蛍光の漏れ込みや蛍光スペクトルの広がりが存在することもあるため、「シンプルにすること」が非常に難しくなることもある点に注意が必要です。


以上の7つのヒントに留意して、次回のマルチカラーフローサイトメトリー解析を計画してみることで、シグナルの検出を最適化でき、複雑さが回避されて、より正確な結果を得ることができるでしょう。マルチカラーフローサイトメトリーの成功率をさらに向上するためには、規制当局の審査や製造規格に合格した、高品質で信頼性の高い試薬を使用してください。 

試薬の信頼性が高いほど、データの信頼性は高まります。

 

 

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