【白血病タイピング検査概論】2. スクリーニングから治療まで
スクリーニングから治療までの流れを紹介する。
【症例提示】
生来健康だった50歳代の女性が、背部痛を主訴に医療機関を受診。スクリーニング検査から確定診断、治療に至るまでの過程を症例提示する(表4)。
現病歴は、1カ月前ごろより易疲労感と下肢の紫斑を認めていたところ、発熱とともに背部痛が出現したため、救急車で救急病院に運ばれた。
緊急検査にて白血球増多と血小板減少を指摘され、末梢血に異常細胞の出現を認めたため、「造血器腫瘍」が疑われ、血液内科のある病院に入院となった。
入院時成績(表5)は、WBC 47,100/μL、Hb 11.6g/dL、MCV 80fL、Platelet 31×103/μL、と白血球増多と血小板減少を認めた。
末梢血塗抹標本では、blastとカウントされる幼若な細胞が80%を占めていた。生化学検査では、LDHの高値と肝機能障害とCRPの高値を認めた。
直ちに骨髄生検と骨髄穿刺検査(表6)が行われ、形態学的診断と、細胞表面マーカー検査による免疫表現型病型診断(immunophenotyping)及び、染色体/遺伝子検査による核型診断/遺伝子診断(karyotyping/genotyping)がなされた。
形態学的特徴(写真1)、細胞表面マーカー(図1)、核型診断と遺伝子解析(表7)を示した。
本症例は中型で核網繊細なPOX陰性のblastのモノクローナルな増加が認められ、形態学的にはFAB分類でALL:L2の疑いと診断され、細胞表面マーカー検査が必須の症例であった。
免疫表現型は、CD10+/CD19+/CD22+のBリンパ系幹細胞マーカーが陽性で、CD13+/CD33+の骨髄系の2系統が発現し、CD34+/HLA-DR+/CD38+の幹細胞マーカーも発現していた。
この時点で、2系統の細胞表面マーカーを発現した急性白血病は、「フィラデルフィア陽性の白血病で予後不良の可能性が高い」と推測した。
実際、染色体検査では46、XX、-9、t(9;22)(q34;q11)、der(22)t(9;22)、incの異常を呈し、フィラデルフィア染色体が陽性の複雑核型であった。
染色体検査の結果が判明する前にbcr/abl融合遺伝子の存在を疑って、major bcr/ablとminor bcr/ablの遺伝子検査をRT-PCR法で施行した。
結果、minor bcr/ablの遺伝子異常が認められた。
こうして、古典的にはペルオキシダーゼ陰性の急性白血病で、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病と云えるが、FAB分類では{ALL:L2, Biphenotypic acute leukemia}、WHO分類では{AML: Acute leukemias of ambiguous lineage}と分類される。
表4 急性白血病診断(症例提示)
表5 入院時検査成績
図1 細胞表面マーカー解析スキャッタグラムと報告書
写真1 骨髄塗抹標本における白血病細胞
表6 骨髄穿刺所見
表7 染色体分析による核型診断と遺伝子解析
本症例は急性白血病の診断分類において大変示唆に富む症例であったが、診断分類に向けての診断の進め方の理解を深めるに役立つと思われた。
診断後直ちに多剤併用療法の化学療法が開始され、blastは速やかに著減した。
治療開始2カ月後にleukemic blastは残存し再び増加傾向を認めたため、グリベック(STI571、イマチニブ)の投与を開始した。
投与3週目に激しい吐き気と浮腫の出現により投与を中止せざるをえなかった。
その後Leukemic blastは消失することなく、造血幹細胞移植の適応と判断され、診断から5カ月目に同種骨髄移植を施行した。同種骨髄移植後移植骨髄は、生着し経過は順調であったが、移植3カ月目に再び、Leukemic blastが出現し、移植後5カ月目に逝去された。
この間のLeukemic blastの残存の診断・モニタリングは、塗抹標本による形態学的診断と主として細胞表面マーカー検査で行った。
残存腫瘍のモニタリングは CD13+/CD19+の組み合わせを用いて、総合的に判定した。
微小残存腫瘍の細胞表面マーカーによる診断(MRD: Minimum residual disease)は、1%の腫瘍細胞の存在まで診断可能といわれている。