デジタルフローサイトメーター新技術 弱点の克服
現状の不満点・問題点
従来のアナログ方式のフローサイトメーターは、3カラー以上の蛍光補正が困難で、不正確な設定になってしまいます。
また、ノイズが多く、さらに対数データの直線性が低く、正確なネガティブピークを描くことができません。
アナログ方式(図1. 上)は、シグナルパルスの処理をすべて完了した後、最後にA/Dコンバーター(アナログデジタル変換器)で数値化し、コンピュータに送ります。一方、デジタル方式(図1. 下)は、プリアンプでシグナルパルスの調整をした後、すぐに数値化し、その高分解能なリニアデータを用いて、DSP(デジタルシグナルプロセッサー)で蛍光補正とLog(対数)変換などを、算術的に処理します。
図1. アナログ方式とデジタル方式 概念図
デジタル方式のメリットは、高分解能なリニアデータを用いて、高精度な対数データが取得でき、またフルマトリックス蛍光補正が行える点です。
デジタル方式は、さらに2つに分かれます。
(1) ピークホールド型(ハイブリッド型)
(2) 時間サンプリング型(フルデジタル型)
時間サンプリング型は、新しい技術で、秒1万個以上の高速測定に対応できます。回路設計を巧妙に行えば、
1秒間に5万個以上の超高速測定や超高速ソーティングが実現でき、さらにS/N比の向上も可能です。
デジタル方式には、広い測定範囲をカバーする高分解能のA/Dコンバーターが必須です。抗体を用いる免疫蛍光測定では、強陽性と陰性の蛍光の強度範囲が広く、通常は1:10,000の4桁の範囲の対数データで表示します(図2)。
図2. フローサイトメトリーの測定範囲
最大1万倍の差がある各シグナルパルスの高さ(面積)を、デジタル方式は直接、数値化し、その高分解能なリニアデータを基にLog(対数)変換する必要があります。従来の14ビットデジタル方式は、元になるリニアデータの分解能が低いため、対数データの目盛の小さな値の範囲(一桁目)での量子化誤差が大きな問題でした(図3)。
図3. 14ビットデジタル方式の量子化誤差
そのため、陰性ピークの位置が高い位置(10から100の間)に出るように感度調整をしなければならず、強陽性のピークが10,000を越えてスケールアウトすることがありました。実質的には、3桁の対数データでした(図4)。
図4. 14ビットデジタル方式の陰性ピーク位置
デジタル方式のA/Dコンバーターの分解能(ビット数)と対数(1から10,000)の測定分解能の関係を下表に示します(ピークパルスの場合)。
表1. デジタル方式のビット数と対数の分解能
対数目盛 | 1 | 10 | 100 | 1000 | 10000 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1桁の分解能 | 分解能 | 分解能 | 分解能 | 分解能 | |||||
14ビットADC | 2 | 14 | 16 | 148 | 164 | 1,474 | 1,638 | 14,746 | 16,384 |
16ビットADC | 7 | 59 | 66 | 589 | 655 | 5,899 | 6,554 | 58,982 | 65,536 |
18ビットADC | 26 | 236 | 262 | 2,359 | 2,621 | 23,593 | 26,214 | 235,930 | 262,144 |
20ビットADC | 105 | 944 | 1,049 | 9,437 | 10,486 | 94,372 | 104,858 | 943,718 | 1,048,576 |
22ビットADC | 419 | 3,775 | 4,194 | 37,749 | 41,943 | 377,487 | 419,430 | 3,774,874 | 4,194,304 |
23ビットADC | 829 | 7,460 | 8,289 | 74,597 | 82,886 | 745,975 | 828,861 | 7,459,747 | 8,288,608 |
アナログ方式の場合、アナログ回路でシグナルパルスをログ変換した後、10ビットA/Dコンバーター、すなわち1024チャンネル(レベル)で数値化します。つまり、対数1桁の範囲の測定分解能は、256チャンネル(レベル)です。
デジタル方式の場合、14ビットA/Dコンバーターならば、対数一桁目の測定分解能はわずか14チャンネル(レベル)しかありません(表1)。これでは、正確な陰性ピークを描くことができません(図3参照)。これは14ビットデジタルフローサイトメーターの弱点で、推量補間とスムージング、積分処理(時間サンプリング型)などで、陰性ピークを取り繕うことがあります。そのため、高感度のフローサイトメーターとヒストグラムデータが異なることがあります。下図のように感度・分解能に影響をおよぼします。
デジタル方式フローサイトメーター 分解能・感度の比較データ
アナログ方式と同等以上(256チャンネル以上)の測定分解能を得るためには、19ビット以上のA/Dコンバーターが必要です。しかしながら、現在、時間サンプリング型デジタル方式に使用可能なA/Dコンバーターは、最高16ビットです。
Dual ADC技術
Dual ADC技術(弊社特許)を用いれば、20ビット以上の高分解能リニアデータを手に入れることができます。シグナルを2つに分け、増幅率の異なる2つのプリアンプを用いて、2つのA/Dコンバーターで同時に数値化します。2つの数値データを比較して、数学的に1つに合体させ、20ビット以上の高分解能リニアデータにします(図5)。
この独創的な技術により、正確な陰性ピークが得られます。また、20ビット以上あるので、高精度自動蛍光補正が行えます。Dual ADC技術はデジタルNRの効果も大幅に向上させ、蛍光感度や散乱光感度が向上します。さらに、22ビット以上あれば、1:100,000の5桁の対数範囲をカバーすることも可能です(図6)。アナログ方式では、5桁の対数データは不可能です。
図5. Dual ADC 23 概念図(23ビット)
図6. 5桁の対数データ
Dual ADC技術のメリット
- 正確な陰性ピークが得られます。
- 高精度自動蛍光補正が行えます。
- 蛍光感度や散乱光感度が向上します。
- 1:100,000の5桁の対数データが得られます。(22ビット以上)
- 測定表示範囲の変更(ズーム機能)が測定後に行なえます。
Dual ADC技術は、弊社デジタルフローサイトメーターCytomics FC500には20ビットハイブリッドタイプ、Galliosには20ビットフルデジタルタイプ、セルソーター MoFlo XDPとセルソーター MoFlo Astriosには23ビットフルデジタルタイプが搭載されています。
参考データ
機種名 | 形式 | サンプリング周波数 | デジタル変換分解能 |
---|---|---|---|
MoFlo Astrios EQ | フルデジタル型 | 100Mz | 23ビット |
MoFlo XDP | フルデジタル型 | 100Mz | 23ビット |
Gallios | フルデジタル型 | 40Mz | 20ビット |
FC500 | ハイブリッド型 | - | 20ビット |
XL | ハイブリッド型 | - | 20ビット |
他社アナライザーA | フルデジタル型 | 10Mz | 14ビット |
他社アナライザーB | フルデジタル型 | 10Mz | 14ビット |
他社セルソーター | フルデジタル型 | 10Mz | 14ビット |
機種名 | 形式 | サンプリング周波数 | デジタル変換分解能 |
---|---|---|---|
他社アナライザーC | アナログ | - | 10ビット |