「運用の自由度」と「業務効率」を両立するカクテル抗体試薬活用の実際
―東京大学医学部附属病院におけるマルチカラーフローサイトメトリー検査―
東京大学医学部附属病院は、「臨床医学の発展と医療人の育成に努め、個々の患者に最適な医療を提供する」という理念のもと、高度な医療を提供する特定機能病院です。
国内でフローサイトメトリー検査のマルチカラー化が進む中、同院では業務効率と解析精度の両立を目指した独自の工夫を取り入れてきました。
今回は、東京大学医学部附属病院におけるマルチカラーフローサイトメトリー検査の実際について同院・検査部の寺島道子先生にお話を伺いました。
年間2,000件超を支えるフローサイトメトリー検査体制
東京大学医学部附属病院では、年間2,000件を超えるフローサイトメトリー検査を実施しています。
2025年には表面マーカー関連検査だけで2,122件に達し、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫 をはじめとする血液腫瘍領域を中心に、検体数は増加傾向にあります。
こうした高い検査業務負荷の中で、解析精度を維持・向上しながら、日常業務をいかに効率化するかが大きな課題となっていました。
マルチカラー化による「測定本数削減」と作業効率の向上
フローサイトメトリー検査のマルチカラー化を進めた理由として最も大きかったのは、階層化ゲーティングによる解析のしやすさと、チューブ本数の削減でした。
3カラー運用時代には1検体あたり最大14本のチューブを使用していましたが、現在では多くても7本、平均では4本にまで削減できています。
その結果、
- 分注・測定・洗浄の作業量が大幅に低減
- 検体測定待ちの解消
- 測定時間の短縮
といった、「明確な業務の効率化の効果を実感しています。」
また、少量の骨髄検体においても、1チューブあたりの細胞数を十分に確保できるようになったことで、フローサイトメトリー検査データの精度向上にもつながっています。
課題だったのは「マルチカラー=複雑」という先入観とマルチカラー解析導入時に直面した「分注ストレス」
マルチカラーフローサイトメトリーの初期検討段階では、いくつかの課題も見えてきました。
マルチカラー用抗体試薬をカクテル化せず、必要な抗体を1本ずつ手作業で分注する運用では、
- 抗体試薬入れ忘れのリスク
- 陰性結果が「真の陰性」なのか、「抗体試薬未添加」による ものなのか判断が難しい
- 分注操作そのものにかかる精神的負荷
といった点が大きな問題となり、「ルーチン業務として全員で運用するのは難しいのではないか」という懸念がありました。
フローサイトメトリー検査には11名のスタッフが関わっており、特定の人だけができる運用ではなく、誰が担当しても同じ品質で検査できることが重要でした。そのため、「操作が複雑になり過ぎない、現場で無理なく運用できる設計が不可欠だと感じていました。」
「すべてをカクテルにしない」選択が生んだ運用の柔軟性
そこで採用したのが、CDS(Custom Design Service)を用いたカクテル抗体試薬の運用です。
ただし、すべてをカクテル抗体試薬に統一するのではなく、「FITC」「PE」の2抗体は個別抗体試薬として残す構成としました。
この設計により、
- 医師ごとの「この抗体を追加したい」という要望に対応可能
- 疾患別・目的別に柔軟な組み替えが可能
- マルチカラー解析でありながら運用の自由度を確保
といったメリットが生まれています。
「自由度を残したことで、先生方の要望に無理なく対応できています。」
カクテル抗体試薬の選択により、操作数を増やさず、全員が同じレベルで運用可能に
運用面では、分注操作数が変わらなかった点も大きなポイントでした。
3カラー運用時代は1チューブあたり3種類の抗体試薬を添加していましたが、マルチカラー化へ移行後も、FITC・PE・カクテル抗体試薬の同じ3回の分注操作で運用できています。
分注操作数が増えなかったことで、マルチカラー解析を他のスタッフへ展開する際の心理的な障壁が大きく下がりました。
具体的には、
- 操作が複雑にならない
- 手順が明確
- 苦手意識なく取り組める
といった点が評価され、短期間で全員が安定して実施できる体制を構築することができました。
「カクテル抗体試薬なしでのマルチカラー解析の運用は、この人数では難しかったと思います。」と振り返ります。
B NHL(成熟B細胞性リンパ腫)をはじめとした疾患別運用への適応力
現在は主に7カラーで運用していますが、一部の検査では10カラーも導入しています
特にB NHLでは、10カラー1チューブ運用が非常に有用だと感じています。
従来は、細胞数が少ない検体に対して「Kappa / Lambdaのみの検査でよい」とされるオーダーであっても、実際には「CD3 / CD19」や「CD5 / CD20」などの追加評価が必要となり、結果的に複数チューブを使用していました。そのため、 細胞数不足を理由に検査をお断りしていたケースもありました。
現在では、10カラーを1チューブにまとめることで、こうした検査を1チューブで完結できるようになり、
- 以前は対応できなかった少量検体にも対応可能
- FITC・PEを入れ替えることでAML・ALLにも転用可能
といった、マルチカラー解析でありながら高い自由度を持った運用が実現しており、FITC・PEを入れ替えることでAML・ALLにも転用可能な点も大きな特長です。
また、操作性にも優れており、日常業務において非常に扱いやすい構成となっています
「マルチカラーでありながら、非常に使いやすい構成です。」
トータル検査時間の短縮と働き方改革
フローサイトメトリー検査のワークフロー全体を見ると、
- サンプル処理時間:チューブ本数の減少により短縮
- 測定時間:大幅に短縮
- 解析時間:若干増加したものの、全体としては増えていない
といった変化があり、結果としてフローサイトメトリー検査にかかる総時間は減少しました。
以前は18時半頃までかかっていた検査も、現在では17時過ぎには終了しています。残業時間が減り、短時間勤務や子育て中のスタッフでも無理なく対応できる体制が整いました。
「フローサイトメトリー検査は明らかに早く終わるようになりました。」
マルチカラー化がもたらした「学び」
マルチカラー化によって、これまで十分に評価できていなかった抗体試薬の発現パターンを把握できるようになった点も重要だと感じています。
例えばCD123では、これまで「CD123=BPDCN(芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍)」というイメージが強くありましたが、マルチカラー解析を行うことで、特定疾患に限らず、幼若細胞を含む多様な細胞での発現を理解できるようになりました。
こうした気づきは、「日常検査の質向上だけでなく、技術的・学術的な知見の蓄積にもつながっていると感じています。」
マルチカラーで「運用の自由度」と「業務の効率化」を両立する現実解
- カクテル抗体試薬を活用しながら、FITC・PEを個別抗体試薬として残す設計により、運用の自由度を確保
- 分注操作数を増やすことなく、チューブ本数を削減
- 多人数・高検体数でも無理なく回せる、破綻しない運用を実現
これらの工夫により、「マルチカラー解析は難しい」という先入観を覆す運用が実現しました。
マルチカラー化は、「難しい」ではなく、「楽になる」業務の効率化ための強力な選択肢だと感じています。
「フローサイトメトリー検査は楽になります。カクテル抗体試薬を使用することで今の簡単さのまま、マルチカラー解析へ移行できます。ぜひおすすめしたいです。」




