マイクロバイオリアクターBioLector XTおよび 微生物径・体積分布測定装置Multisizer 4eによる異なる培養培地でのシアノバクテリアSynechocystisのモニタリング
はじめに
Light Array モジュール(光照射モジュール:LAM)を搭載したマイクロバイオリアクターBioLector XTは、光合成微生物をハイスループットで培養することのできる強力なツールです。BioLector XTは、オンライン測定技術を使用して培養物の状態に関する重要なデータをリアルタイムに提供します。微生物径・体積分布測定装置Multisizer 4eは幅広い用途に対応可能で、培養実験では正確な細胞濃度と粒度分布プロファイルの決定に用いられます。本アプリケーションノートでは、BioLector XTとMultisizer 4eによって生成されたデータを組み合わせて、複雑な培養ダイナミクスを理解する方法を示します。シアノバクテリア Synechocystesを様々な培地組成で 培養し、グルコースの量を変えることが細胞挙動へ与える影響を調べました。
方法
単細胞の淡水シアノバクテリア株Synechocystis sp. PCC 6803を、BG-11(Thermo Fisher)培地で培養しました。
混合栄養培養を行う培地にはグルコースを添加しました。主実験として、BioLector XTで光栄養のみの予備培養を行ったシアノバクテリアを植菌し、26°C、1% CO2ガス供給、12時間:12時間の昼夜サイクルでの光照射(全光子フラックス密度[PFD] 215 µmol/m2/s)を行いました(Figure 1)。初期細胞濃度はMultisizer 4eで測定しました。
LAMは昼夜リズム 12時間:12時間(図に示されたスペクトルと、ゼロ照明を12時間で切り替え)で設定
主培養は、同一の光照射条件で行いました(Figure 1)が、培地組成は3種類、すなわち、栄養添加無しのBG-11培地と2種類の混合栄養培地(最終グルコース濃度が2 g/Lおよび5g/Lの培地)を用いました。オプトードなしの48ウェルフラワー(マイクロタイター)プレート(MTP)で、培養容量800 µL、振とう速度800 rpmで培養しました。温度は26°Cで一定に保ち、24時間後に、それまでの通常大気の供給からCO2濃度を1%に上げました。30分ごとに、BioLector XTでバイオマス(730 nmの散乱光)およびクロロフィル蛍光(λex:450 nm、λex:675 nm)をオンライン測定しました。さらに1、2、3、8、9日目にはMultisizer 4eで細胞濃度と細胞径を測定し、培地環境分析装置Vi-CELL MetaFLEXでグルコース濃度を測定しました。Multisizer 4eによる細胞径は、50 µLまたは30 µLの培養液をMultisizer用電解液Isoton II 20mLで希釈し、30 µmアパチャーを用いて体積モード(50 µL)にて行いました。1日に2ウェルからサンプルを採取し、1ウェルにつきMultisizer用サンプルカップ(Accuvette)1個を用いて希釈調製しました。各サンプルはMultisizer 4eで3回連続して測定しました。パルスデータを保存し、後でサンプル結果のより広範な解析を行いました。
結果
BioLector XT で得たオンライン測定値について、各条件(n=16)の平均値を出したところ、増殖挙動は初期グルコース濃度によって明らかに異なっていました(Figure 2)。
全ての条件で、シアノバクテリアの挙動は昼‐夜の光照射サイクルへの依存が認められます。最初の2回の光照射期間中、グルコースを添加した培地での培養で、オンライン測定したバイオマス値がより急速に増加しています。それに続く暗期では、グルコース添加培地では増殖が鈍化し、光栄養のみの培養では増殖しませんでした。
Vi-CELL MetaFLEXでの測定結果(Table 1)から、2 g/L培地では約48時間で全てのグルコースが消費されてしまっていることが分かります。5 g/L培地のグルコース消費は2日目以降遅くなり、9日後にも利用可能なグルコースが一部残っていました。
クロロフィル蛍光のオンライン測定値(Figure 3)から、シアノバクテリアの挙動と培地組成に起因する違いに関して、さらなる考察が得られます。光照射がオンまたはオフになるたびに、クロロフィル蛍光は急速に増減しています。この急速な増加や減少はクロロフィル標準物質では観察されていないことから(別の実験、データ不掲載)、この増減は、光照射の変化に対する生物の応答の結果であることが示唆されます。
ここでも、光栄養培養はクロロフィル蛍光値が高く、培養の初期段階から他とは異なる挙動を示しますが、混合栄養培養のシアノバクテリアのクロロフィル蛍光値は、2回目の光照射期間中に急激に増加しました。これはバイオマスの急速な増加によるものと考えられます。
3回目の光照射期間(2 g/L培養でグルコースが全て消費される)以降、0 g/L培養と2 g/L培養のクロロフィル蛍光パターンは非常に似ていますが、常に0 g/L培養の方が高い値を示しました。5 g/L培養のクロロフィル蛍光は、光照射期に減少し、暗期にわずかに増加するという、逆の反応を示しました。同時に、バイオマス測定値は安定しており、培養の後半にかけて減少しています。グルコースと光のどちらもまだ利用できる状態であるにもかかわらず、増殖は停止したと思われます。実験終了後にMTPを目視検査したところ、3種類の初期培地条件によって、培養液の色が異なっていました(Figure 4)。
Multisizer 4e での測定結果から、シアノバクテリアの挙動について、さらなる発見が得られました。培養開始時点で存在するシアノバクテリアの数は約1.1*108 cells/mL、平均直径が2.4 µmでした。BioLectorXTで丸1日培養した後、全ての条件で細胞密度が増加し、細胞サイズの変化が見られました(Figure 5)。シアノバクテリアは光栄養培養に比べてグルコース存在下で大きく成長し、平均直径は光栄養培養で2.6 µm、グルコース存在下で3.0 µmでした。一方、細胞密度はグルコースを含まない培養(1.6*108 cells/mL)よりも、グルコース存在下で低い(1.4*108 cells/mL)結果となりました。
2日目も、グルコース存在下での細胞直径は光栄養培養よりも大きく(3.0 vs. 2.6 µm)、細胞密度は低い(2.6*108 vs. 3.1*108cells/mL)という、1日目と同様の傾向が見られました(データ不掲載)。2日経過後、2 g/L培養のグルコースが枯渇し(Table 1)、細胞のサイズ分布にばらつきが生じました(Figure 6)。
依然として0 g/L培養の平均直径は最も小さく(2.5 µm)、細胞密度は最も高い(4.9*108 cells/mL)結果となりました。注目すべきことに、グルコースが枯渇した2 g/L培養と5 g/L培養を比較すると、細胞濃度はともに2.8*108 cells/mLでしたが、細胞直径はグルコースが枯渇した2 g/L培養のほうが5 g/L培養よりもわずかに大きくなりました (3.04 µm vs. 2.95 µ m)。0 g/Lと2 g/Lのサンプル分布のどちらにも、2.9 µm付近に、サブポピュレーションの存在をうかがわせるショルダーが認められます。
Figure 7 のデータでも、0 g/Lと2 g/Lのサンプルに、以前に観察された2.9 µm付近のショルダーが認められます。2 g/L のサンプルの場合、培養物は濃度がほぼ同じである2つのポピュレーションから構成されていると考えられます。総細胞濃度はそれぞれ6.4*108cells/mLおよび4.1*108 cells/mLに増加しています。5 g/L培養の濃度は3日目とほぼ同じ(3.0*108 cells/mL)で、オンライン測定したバイオマスシグナルと一致します。さらに、サブミクロン領域で測定される粒子数の急激な増加は、細胞の断片化を示唆している可能性があります。
考察
本アプリケーションノートに示した実験から、LAMを搭載したBioLector XTを用いてシアノバクテリアを様々な培養条件下で培養できることが分かります。昼夜サイクルに対するシアノバクテリアの応答はオンラインシグナルで明確に観察す ることができ、2日目以降の2g/L培養物ではグルコース枯渇の影響も確認されました。
マイクロバイオリアクターBioLector XT、培地環境分析装置Vi-CELL MetaFLEX、微生物径・体積分布測定装置Multisizer 4e を組み合わせて用いることで、培養物の挙動と応答について、より深い洞察を得ることができました。 オンラインのバイオマスシグナルは有用な情報ですが、そこに細胞数と細胞径のデータを追加することでより深い解析が可能になりました。例えばグルコースを添加した培養では、光栄養培養に比べて散乱光の増加が速いことが示されましたが、細胞濃度については、培養期間中ずっと、光栄養培養の方がグルコースを添加した培養より高値でした。オンラインバイオマスシグナルが低いのは、平均直径が小さいことが原因であると考えられます。また、Multisizer 4eで得られた細胞径分布グラフには、培養イベント中の細胞サイズの変化とサブポピュレーションの形成が反映されました。
全体として、初期グルコース濃度が高い培地では、初期の増殖プロファイルに阻害効果が認められなかったにも係わらず、最終的な増殖に悪影響を生じさせたことは注目に値するものです。グルコース以外の炭素源や異なる光照射戦略、またはフェドバッチモードを用いた実験により、この効果についてさらなる理解が得られる可能性があります。
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