FDA 21CFR Part11 データインテグリティガイダンスに基づくクリーンルームの日常的な環境モニタリング

概要

最近の報告によると、FDA(米国食品医薬局)がバイオ医薬品業界に発行した483通のワーニングレターのうち、約79%がデータインテグリティ(データの完全性)に関するものであることを指摘しています1。FDAからガイダンスが出ているにもかかわらず、クリーンルームの日常的な環境モニタリングは、依然として非常に手作業が多く、ヒューマンエラーによってデータにギャップやエラーが生じる可能性が多くあります。FDAは、21CFR Part11ガイダンスにおいて、優れたデータインテグリティとはどのようなものかを推奨事項を示しています。本稿では、現在のクリーンルームの環境モニタリングに関するアドバイスを説明し、データインテグリティを向上するためにFDAガイダンスをどのように適用できるか紹介します。

 

クリーンルームの日常的な環境モニタリング

バイオ・医薬品の製造には、FDAがクリーンルームでの空気環境
条件を義務付けています。実は、本当に危険なのは人体に付着して
いる微生物です。人間は1時間に約30,000個の皮膚細胞を排出
しており2、そのすべてが微生物のキャリアとなる可能性がある
のです。残念ながら、空気中の微生物をリアルタイムで検出する
技術は今のところありませんので、気中パーティクルカウンター
が代用品として使われています。

筆者と世界中の施設の環境モニタリング担当マネージャーとの議論では、環境モニタリングの実施という作業自体が、以下の2つの理由から品質管理部門の微生物チームから製造部門のスタッフに移行しつつある傾向が明らかになりました。


図1. 人間の皮膚と微生物

a) このような日常業務を行なうために、品質管理部門の微生物の知識を保有したスタッフが担当するのはコストが掛かる。

b) クリーンルーム内の人員を減らすことで製品の汚染リスクの可能性を減少させることができる。

しかし、製造部門では日常的な環境モニタリングについて品質管理部門と同レベルの知識を持っておらず、それ自体も問題であると認識されています。


図2. 環境モニタリングのデータインテグリティに関するリスク

 

大規模なバイオ医薬品製造工場では、毎月数千ポイントもの日常的な環境モニタリングの評価を行なうために10人以上の技術者がチームを組んで測定していることがあります。それぞれ定められたポイントに行くと、まず彼らはサンプリングを開始する前に、文書化されたSOPに従いパーティクルカウンターに場所名を手動で入力することから始まります。更に、パーティクルカウンターに付属しているプリンターは感熱紙が用いられているのが一般的であり、印字されたデータが経時劣化で薄くなってしまうため、毎日の作業の終わりには各測定ポイントで取得した印字された感熱紙データをコピーする必要があります。その後、すべてのポイントの結果を1つずつ電子フォーマットに手動で転送する必要があります。

環境モニタリングデータにエラーが生じると、典型的な対応はチームに対する再トレーニングの義務付けです。しかし、業界とFDAは、これでは問題を解決できず、再びヒューマンエラーが忍び寄るまでのしばらくの間、症状を一時的に治療するだけであるという結論に徐々に達しました。本来の正しい方法は、ヒューマンエラーを減らすためにSOPにおける手動ステップを減らすことが重要であり、そうすることでプロセス全体をより堅牢にすることができると考えるようになってきています。

 

データインテグリティに関するFDAガイダンス

FDAは、21CFR Part11データインテグリティ規則3の実施に関するガイダンスの中で、ALCOAという頭字語を用いて、優れたデータインテグリティの実践とは、試験を実施する技術者に帰属する記録、判読可能で、同時に作成され、オリジナルかつ正確な記録を生成することであると定義しています。

この場合、 Attributable(帰属性)” とは、テストを行った技術者に何らかの形で追跡可能な記録であることを意味します。また、サンプルを採取したポイントと採取した日時を記載したラベルを添付する必要があります。

もちろん、記録は Legible(判読可能)” でなければならず、手書きの記録は認められないことを意味し、更にFDAは、電子記録は将来にわたってアクセス可能で判読可能なように、オープンで多くのコンピュータフォーマットで読むことができるフォーマットで保存されるべきだと提案しており、FDAは、PDF/XML/SGML3などの代表的なフォーマットを推奨しています。

Contemporaneous(同時性)” という言葉は、データの生成と記録が測定と同時であるべきことを意味し、同様に Original(原本性)” であることが必要であり、紙の記録を手作業で転写することは良い習慣ではなく、同様に紙の記録を照合し、後日手作業で電子フォーマットに転写することは良い習慣ではないことを意味しています。

当然ながら、電子記録は Accurate(正確性)” でなければならない。つまり、人為的なミスが起こりやすい手計算や手入力は避けるべきということです。

それでは、FDAのALCOAガイダンスを照合して、現在の環境モニタリング業務について見てみましょう。典型的なプロセスには多くの手動ステップがあり、通常は紙の記録には電子署名が含まれていないため、技術者に帰属させることはできません。測定サンプルのポイントごとに手動で入力されるため、ヒューマンエラーや入力ミスを招き、測定データがサンプル測定の位置に容易に帰属することができません。更に通常は最終的な電子記録は判読可能であるが、同時作成されたものではなく、紙の原本は感熱紙をタイプのプリンターで作成され、時間の経過とともに色褪せるため、最終記録は原本ではなく、手作業で作成されたものであるため、最終記録の正確性が保証されません。


METONE 3400+
それらのガイダンスに、より準拠したソリューションが幸いにも存在します。ベックマン・コールター社の気中パーティクルカウンター METONE 3400+は、SOP画面で測定のサンプリングポイントを事前にプログラムし自動化することで、手動でのサンプリングポイントの入力とパーティクルカウンターの設定ステップをなくすことが可能です。また、測定後に手作業で転記しなければならない紙ベースの記録を作成する代わりに、パーティクルカウンターはユーザーの電子署名とサンプリングポイント名を含む電子記録を即座に作成します。この電子記録はFDAが推奨するフォーマットの1つであるPDFファイル形式で、有線または無線のEthernetを介して、ユーザーが最終記録を保管する安全なサーバーに送信することができます。これにより手動による測定手順の設定、手動によるポイント名の入力、手動によるデータの転記がすべてなくなり、ヒューマンエラーの機会を減らし、データの完全性を向上させることができます。


図4. Beckman Coulter社のMETONE 環境モニタリングのSOPはデータインテグリティをサポートします。

 

結論

クリーンルームの日常的な環境モニタリングプログラムの多くは、SOPが手動で実施され、何千という数のデータ記録が電子フォーマットに手動で転記されるため、依然として高いヒューマンエラーのリスクを抱えています。どんなにスタッフが頻繁にトレーニングを受けても、このようなプログラムではエラーが発生する可能性は常に高く、データの完全性にも影響を及ぼします。この問題を軽減し、これらのプログラムをより強固なものにする技術は存在し市販されています。データ完全性への影響を軽減するともに、クリーンルームの製造部門スタッフによる環境モニタリングへ移行する業界の動きをサポートします。

 

参考文献

  1. Pharmaceutical Online, An Analysis Of FDA FY2016 Drug GMP Warning Letters By Barbara Unger, Unger Consulting Inc. https://www.pharmaceuticalonline.com/doc/an-analysis-of-fda-fy-drug-gmp-warning-letters-0001, published January 16, 2017.
  2. Health How Stuff Works, How many skin cells do you shed every day? by Ed Grabianowski. http://health.howstuffworks.com/skin-care/information/anatomy/shed-skin-cells.htm, published July 6, 2010
  3. U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Guidance for Industry, Part 11, Electronic Records; Electronic Signatures — Scope and Application, August 2003 U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research (CDER) Center for Biologics Evaluation and Research (CBER) Office of Regulatory affairs (ORA) Division of Drug Information, HFD-240 Center for Drug Evaluation and Research Food and Drug Administration 5600 Fishers Lane Rockville, MD 20857 USA

 

著者経歴

Tony Harrison held the Convenorship of the ISO Working Group revising ISO 14698-1 & -2 for microbial control in cleanrooms and was the UK subject matter expert to the ISO Working Group who revised ISO 14644-1 & -2 for cleanroom classification and monitoring at the heart of the aseptic manufacturing chapters of both the European GMP and the USA CGMP documents.