蛍光標識試薬

種々の官能基と反応する活性基を有する蛍光試薬である。
用途により、HPLC用誘導化試薬と、タンパク質標識試薬に大別することができる。

 

3-1. HPLC用誘導化試薬

表1. HPLC用誘導化試薬の特性

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は物質の分離分析法の重要な手段の1つである。特に、生体成分のような複雑なマトリックス中の不揮発性の微量成分が対象の場合には効果的である。HPLC用誘導化試薬は微量成分を高感度に検出するために用いられ、アミノ基、SH 基、アルデヒド基、カルボキシル基、水酸基などに化学結合させることができるものが市販されている(表1)。タンパク質標識試薬に比べ、より低分子で励起波長の短いものが多用されている。
アミノ基の蛍光ラベル化剤、NBD-CI や NBD-F はニトロアリールハライド反応活性基である。自身は蛍光を持たず、アミノ基と反応して蛍光性の生成物を与える。

SH基標識には、SHと特異的に反応するマレイミド基を持つNAM、DBPM やアリールハライド基を持つABD-F、SBD-Fが用いられる。NAMのアクリジン基の蛍光は直結したマレイミド基によって消光されているが、SHと反応すると蛍光を発するようになる。
芳香族アルデヒドの標識には、DDB等の芳香族ジアミンが用いられる。DDBはアルデヒドと反応して、強い蛍光性のイミダゾール構造を形成する。また、ジアミン誘導体はα-ケト酸と反応して、蛍光性のキノキサリン誘導体を与える。
カルボキシル基の蛍光ラベル化にはブロモメチル基を反応活性基とする Br-Mmcや Br-DMEQ などが用いられる。アルコール性水酸基のラベル化にはDMEQ-COCl のような酸クロリドが利用される。

 

3-2. タンパク質標識試薬

タンパク質の蛍光標識は、免疫染色やフローサイトメトリーによる細胞の情報解析等に汎用されている。標識に用いられる蛍光色素は、fluorescein 、rhodamine 、Cy dye、、AlexaR FluorおよびHiLyteTM Fluor のような化学合成物質と、phycoerythrin (PE)やallophycocyanin (APC)のような蛍光タンパク質に大別される。前者は化学合成品でありかつ低分子化合物であることから、比較的安価に入手できかつ標識後の精製が比較的容易である。一方後者は、蛍光強度が化学合成物質より数十倍高いため、抗原量の少ない場合に有効である。
タンパク質へと反応する官能基としては、NHSエステル(アミン反応性)、イソシアナート(アミン反応性)、マレイミド(SH反応性)、ヒドラジド(アルデヒド反応性)などが利用でき、それらの官能基を有する多くの低分子蛍光色素が市販されている。PEやAPCなどの蛍光タンパク質は通常縮合剤を利用して標識する必要があるが、弊社では、PEやAPCのカルボキシル基を活性化し安定に取り出すことにより、混合するだけで標識可能な蛍光タンパク質ラベル化キットを販売している。
以下、代表的な低分子蛍光標識試薬の特性について紹介する。

3-2-1. fluorescein誘導体

fluoresceinは最も古くから利用されている蛍光基の1つである。495nm付近で励起され、520nm付近に蛍光を発する。アミノ基反応性のisocyanate基を持つFITCは安価であることもありよく用いられている。
fluoresceinのpKaは6.4であり、中性付近ではその蛍光強度にはpH依存性がある。ClやFを導入することにより、pKaを上げ、中性領域のpH依存性を低下させた誘導体も利用されている。

 

3-2-2. rhodamine誘導体

rhodamineはfluoresceinの水酸基がアミノ基に置き換わった色素である。fluoresceinのようなpH依存性が無く、且つfluoresceinよりも光安定性が高いという特長を有している。アミノ基の置換基によって蛍光特性が変わり、様々な励起・蛍光波長を示す誘導体が市販されている。

 

3-2-3. Cy色素

Cy色素はカーネギーメロン大学のA. S. Waggonerらが開発したシアニン型の蛍光標識試薬である。その特徴は色素の芳香環に直結したスルホン酸基を有することである。高水溶性基が色素を形成する環上にあることにより、標識後の色素間の相互作用による蛍光消光が抑制され、且つ標識体の水溶性も大きく向上している。
メチン鎖長の違いなどにより、種々の波長の色素を合成することが可能であり、特にメチン鎖が3と5のCy3とCy5は、タンパク標識のみならず、DNAチップなどにも広く用いられている。

 

3-2-4. AlexaR Fluor

Alexa® Fluorは米Molcular Probes社によって開発された蛍光標識試薬である。Cy色素と同様に蛍光基に直結したスルホン酸基を有することが特徴で、特にローダミンの誘導体はCyの優位性にプラスして明るく、光安定性が高いという利点を持っている。

 

3-2-5. 新しい蛍光標識試薬

近年、種々の特性を持った新しいの蛍光標識試薬が相次いで発売されている。独DIOMICS社のMegaStokes™ Dyeはストークスシフトが大きく、1つの波長の光で複数の蛍光波長の色素を励起できる。独Denovo biolabels社のOyster™や米PIERCE社のDyLight™はCy色素の代替として利用可能なシアニン色素である。
米Anaspec社のHiLyte™ Fluorは構造的な特徴は開示されていないが、Cy色素やAlexa® Fluorよりも明るく、Alexa® Fluor同等に光安定性が高いタンパク質標識に適した蛍光標識試薬である。