第7回 超遠心分析によるナノ粒子解析

野田 勝紀 1,2, クラユヒナ エレナ 1,2, 内山 進 1

1大阪大学大学院 工学研究科
2株式会社ユー・メディコ

 

はじめに

第4回までに、超遠心分析の基本測定原理、沈降速度法(SV-AUC)と沈降平衡法(SE-AUC)の解析方法を紹介しました。第5回では、超遠心分析によるバイオ医薬品の凝集体評価をご紹介し、第6回では、相互作用を伴った超遠心分析についてご紹介しました。第6回までは主に生体分子の超遠心分析をご紹介しましたが、今回はナノ粒子の超遠心分析についてご紹介します。最近の化学合成や加工技術の向上により粒径が100 nm以下の極微小のナノ粒子(100 nm以下である粒子)の作製が可能となり、半導体材料、触媒や化粧品材料などに使用されています。このようなナノ粒子は、金属や高分子などから構成され、しばしば溶媒に分散させた状態で利用されます。ナノ粒子は組成だけではなく、粒子径分布により異なった特性を持ちますが、この粒子径分布は、溶媒条件などによって変化するため、分散状態を正確に見積もることがナノ粒子の品質を管理する上で必要とされています。ナノ粒子の粒子径分布の評価には、これまで電子顕微鏡、動的光散乱が主に利用されてきました。電子顕微鏡は、高い分解能からナノ粒子の粒子径計測に利用されてきましたが、より高濃度の試料ではそのままの計測が難しく、また、希釈や乾燥などの試料調製の段階で分散状態が大きく変化する可能性があります。また、動的光散乱法は測定が簡便ですが、散乱強度が粒子径に大きく依存するため粒子径分布の定量的評価は容易ではありません。そこで、最近では超遠心分析、特に超遠心沈降速度法を用いたナノ粒子の粒径分布解析が行われています1,2。超遠心分析は、Svedberg博士により開発された手法で、1926年にSvedberg博士はコロイド粒子の分散についての研究でノーベル化学賞を受賞しています。超遠心分析はナノ粒子の粒度分布解析に最適な方法の1つとして認識されています。

次に、超遠心沈降法から得られる沈降係数の分布をストークス径の分布に変換するための計算方法についてご説明します。

 

沈降係数分布からストークス径分布への変換方法

ストークス径の分布を得るためには、まず沈降係数分布を得る必要があります。第3回でご紹介したc(s)解析により、溶液に含まれる沈降係数の分布関数c(s)が得られます。

この分布関数c(s)は、以下の式を用いることで、ストークス半径Rsに関する分布関数c(Rs)に変換可能です。

沈降係数の分布関数c(s)とストークス半径の分布関数c(Rs)の間には (1) 式の関係が成り立ちます。

 

こちらの式から(2)式が導かれます。

 

また、ストークス径は、ストークス・アインシュタインの式より、拡散係数Dを含む式として表せられます。ηは溶媒の粘度、kはボルツマン定数、Tは温度になります。

 

また、拡散係数Dと沈降係数sの間には(4)式が成り立ちます(第1回参照)。Mは分子量、Rは気体定数、vは偏比容、ρは溶媒密度になります。

 

また、R=kNkはボルツマン定数)となるため、(4)式は以下のように表されます。

 

また、第1回でご紹介した拡散係数、沈降係数に関する式(6)、(7)より(8)式が成り立ちます。

 

fは摩擦係数であり、以下の(9)式が成り立ちます。

 

ここで、f⁄f0は、摩擦係数比と呼ばれ、完全球との形状の差を表すパラメータとなります。c(s)解析によりs値の分布とともに得ることが出来る数値となっています。

Rsについては、球の体積の式を用いて以下のように表されます。

 

(8)、(9)、(10)式より(11)式が導かれます。

 

この(11)式を、(5)式に用いることで、拡散係数Dは、沈降係数、f⁄f0で表されます。

 

最後に(12)式を(3)式に代入し、(11)式を用いることで、分布関数c(s)をストークス半径に関する分布関数c(Rs)に変換します。

 

この式を用いて、c(s)解析からストークス径に分布を得ることが可能です。ただし、式(13)からも明らかなように、粒径の計算には偏比容値が不可欠ですが、タンパク質などの生体高分子と異なり、ナノ粒子はそれぞれの粒子の組成や形状により大きく偏比容値が異なる場合があります。そのため、正確な粒径を得るためには粒子の偏比容を実験的に求める必要があります。

 

超遠心沈降速度法によるナノ粒子の測定例

1.ラテックスビーズ

ラテックスビーズの超遠心沈降速度法による粒子径計測の例を示します。ベックマンコールター社から販売されている標準ラテックスビーズ(半径10、25、50 nm)を使用しました。回転数はそれぞれの径により、異なる回転数を設定(10,000-42,000 rpm)しました。金コロイドと異なり、測定に使用可能な吸収波長が存在しなかったため、Rayleigh干渉光学系で測定を行いました。図1が、それぞれの粒径のラテックスビーズの沈降挙動となります。この沈降挙動から、c(s)解析を行い、(13)式を用いて、ストークス半径の分布に変換した結果を図2に示します。その結果、半径10 nmのラテックスビーズの重量平均ストークス半径は12 nm、半径25 nmのラテックスビーズの重量平均ストークス半径は23 nm、半径50 nmのラテックスビーズの重量平均ストークス半径は53 nmとなり、製品情報と非常に良い一致を示しました。

図1.各径のラテックスビーズの沈降挙動
(A)半径10 nmのラテックスビーズの沈降挙動
(B)半径25 nmのラテックスビーズの沈降挙動
(C)半径50 nmのラテックスビーズの沈降挙動

 

図2.ラテックスビーズのストークス半径Rsについての分布
(A)半径10 nmのラテックスビーズのc(Rs)分布
(B)半径25 nmのラテックスビーズのc(Rs)分布
(C)半径50 nmのラテックスビーズのc(Rs)分布

 

2.金コロイド粒子

次に、金コロイド粒子の超遠心沈降速度法の例を示します。金コロイド粒子として、SIGMA ALDRICH Gold nanoparticles 10 nm diameterを使用し、回転数は5,000 rpm、測定波長527 nmで測定を行いました。その際の沈降挙動パターンを図3(A)に示します。こちらの測定結果を用いて、c(s)解析を行い、ラテックスビーズでの測定と同様に、ストークス半径に対する分布に変換した結果が、図2の(B)となります。この結果より、ストークス半径5-6 nmの粒子が主成分であり、ストークス半径の分布より算出した重量平均ストークス半径は5.7 nmとなりました。製品情報によれば、半径は5 nmであり非常に良い一致を示しました。さらに超遠心分析により、溶液状態では粒径が異なる2成分の混合物であることが明らかになりました。

図3.金コロイド粒子の超遠心沈降速度法による粒子径計測
(A)5,000 rpm での沈降挙動
(B)ストークス半径に対する分布

 

3.導電性ポリマー(PEDOT:PSS)

最後に、導電性ポリマーの超遠心沈降速度法による粒子径計測の例を示します。導電性ポリマーとは、電気伝導性を持つ高分子化合物であり、ATMなどのタッチパネルや、リチウム電池などの蓄電池、太陽光発電用のパネルなどにも使用されています。今回は、SIGMA ALDRICH Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate)(PEDOT:PSS)を使用して測定を行いました。測定条件は、回転数42,000 rpm、測定波長425 nmとなります。図4(A)に、沈降挙動を示します。ポリスチレンや金コロイドの解析で用いた行った手法と同様の手法で、ストークス半径に対する分布を算出しました(図4(B))。この結果より、ストークス半径5-8 nmの粒子が主成分であり、ストークス半径に対する分布より算出される重量平均ストークス半径は7.2 nmとなりました。

図4.PEDOT:PSSの超遠心沈降速度法による粒子径計測
(A)42,000 rpm での沈降挙動
(B)ストークス半径に対する分布

 

おわりに

今回は、電子機器の材料などの分野で幅広く使用されているナノ粒子の超遠心沈降速度法による粒度分布解析についてご紹介しました。従来ナノ粒子の粒径分布解析には、電子顕微鏡や動的光散乱が良く使用されてきましたが、超遠心分析では、濃度などの制限なく、溶液状態での情報が定量的に直接得られることから、ナノ粒子の種類の増加に伴い、沈降速度法によるナノ粒子の粒径分布解析も盛んになっていくと考えられます。

第8回では、超遠心分析による遺伝子治療ベクターの解析をご紹介します。

 

参考文献

1. Danjo H, Hirata K, Noda M, Uchiyama S, Fukui K, Kawahata M, Azumaya I, Yamaguchi K, Miyazawa T.Assembly modulation by adjusting countercharges of heterobimetallic supramolecular polymers composed of tris(spiroborate) twin bowls. J. Am. Chem. Soc. 2010;132(44):15556-8.

2. Fujita D, Suzuki K, Sato S, Yagi-Utsumi M, Yamaguchi Y, Mizuno N, Kumasaka T, Takata M, Noda M, Uchiyama S, Kato K, Fujita M.Protein encapsulation within synthetic molecular hosts. Nature Commun. 2012;3:1093.

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