Biomek i7ハイブリッドワークステーションによる加圧式固相抽出を用いたベンゾジアゼピン分析前処理の自動化
Heidi Fleischer, Anna Bach
Institute of Automation, University Rostock, Rostock, Germany
Kerstin Thurow
Center for Life Science Automation, University Rostock, Rostock, Germany
Bhagya Wijayawardena
Beckman Coulter Life Sciences, Indianapolis (IN), United States
要旨
ベンゾジアゼピンは、精神活性化合物で、向精神薬として多く使用されています。中枢神経系に作用しその機能を抑制することから、ベンゾジアゼピンの薬効薬理や生理学への研究が注目されています。本アプリケーションノートでは、Biomek i7ハイブリッドワークステーションを用いて、血液サンプル中のベンゾジアゼピン分析の前処理を自動化しました。本検証では、ベンゾジアゼピン系薬剤のアルプラゾラム、クロナゼパム、ジアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム、ノルダゼパム、オキサゼパム、テマゼパムを、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC/MS/MS)を用いて分析しました。
はじめに
ベンゾジアゼピンは、主にベンゼン環とジアゼピン環が縮合した二環式構造を持つ多環式有機化合物です(Figure 1)。ベンゾジアゼピンは中枢神経系に作用してその機能を抑制するため、向精神性化合物として分類されます。ベンゾジアゼピンには、抗不安、鎮痛、筋弛緩、催眠(睡眠促進~睡眠誘発)作用があります。さらに、抗けいれん作用を持つベンゾジアゼピンは、抗てんかん薬として使用されます1 。世界保健機関(WHO)は、ベンゾジアゼピン系薬剤のジアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラムを必須医薬品リストに収載しています2 。適応が類似するバルビツール系と比較すると、ベンゾジアゼピンは、治療効果のある用量と毒性が発現する用量の差がより大きいため、ベンゾジアゼピンの上市後は、臨床現場で、バルビツール系に代えて処方されることが増えています3。ベンゾジアゼピンは、依存や乱用の危険性が大きいことから、研究ではその薬効薬理、生理学、作用機序が注目されています4 。
Figure 1. 分析対象のベンゾジアゼピン系薬剤とその化学構造式
血清や血漿からのベンゾジアゼピンの分析には、作業量の多いサンプル前処理が必要です。このプロセスには除タンパクおよび抽出プロセスが含まれ、分析測定の前に、液体サンプルのエバポレーションによる濃縮プロセスが必要になることも珍しくありません。非クロマトグラフィー法やクロマトグラフィー法をはじめとする様々な分析測定手法が確立されていますが、クロマトグラフィー分析法では、多くの場合、シングルまたはタンデム質量分析法と組み合わせて使用します5。本アプリケーションノートでは、固相抽出(SPE)を用いたサンプル前処理の自動化を紹介します。ベンゾジアゼピンの分析には、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)を使用しました。
材料と方法
サンプル前処理
加圧式固相抽出を用いてSPE96ウェルプレートで血清サンプルをクリーンアップしました。ブタ血清に濃度80 ng/mLのベンゾジアゼピン標準液を添加し、メソッドの開発と検証に使用しました。それに対応する重水素化したベンゾジアゼピンを血清サンプル中で濃度100 ng/mLとし、内部標準液として使用しました。使用した化学物質および標準液の詳細はTable 5に示しています。
本アプリケーションで使用したBiomek i7ハイブリッドのデッキレイアウトは、Figure 2の通りです。サンプル前処理を自動化するために、必要なデバイスをインテグレーションして使用しました。デッキレイアウトは、一度に最大96サンプルを処理できるよう最適化しました。
Figure 2. ベンゾジアゼピン分析用デッキレイアウト – (1)チップボックス、(2)サンプルバイアルをセットしたアダプタ、(3)アルミニウム製溶出バイアル瓶 アダプタ、(4)96ディープウェル溶出プレート、(5)Strata XTM 96ウェルプレート、(6)Positive Pressure Unit(PPU)、 (7)Self-Refilling Quarter Reservoir、P1-P6, P22, P23, P26:空ポジション、TL1-TL7:空チップロードポジション、Pelt:冷却ポジション、Tilt:チルティングポジション、Wash:ニードル洗浄ステーション
前処理済みサンプルをLC/MS/MSオートサンプラーに移し、対応する標準ガラスバイアル(容量1.5 mL)へ自動分注しました。チューブおよびバイアルの取り付けと分注には、専用アダプタ(CELISCA, Rostock, DE)を使用しました(Figure 3参照)。SPEステップを自動化するため、Positive Pressure Unit(PPU V4, amplius GmbH, Rostock, DE)をBiomek i7ハイブリッドワークステーションの右側にインテグレートしました(Figure 2、Figure 3参照)。本メソッドは、充填剤のコンディショニングにメタノール86.4 mL、溶出ステップで使用するアセトニトリル96 mLなど大量の溶媒を必要とするため、溶媒を自動充填できるリザーバ(amplius GmbH, Rostock, DE)を組み込みました。
Figure 3. (A)サンプルバイアル用のストレージ、(B)LC/MS/MS オートサンプラーの24 本の分注バイアル用アダプタ(C)Positive pressure unit PPU V4(amplius, Rostock, DE)
ブタ血清サンプルは、Phenomenex(Aschaffenburg, DE)社製SPE 96ウェルプレートStrata-X(well vol. 1 mL, 30 mg)を用いてクリーンアップし、safe-lock tubes(1.5 mL, Eppendorf, Hamburg, DE)に分注しました。使用した消耗品の詳細は、Table 5の通りです。Positive Pressure Unit(PPU)の吸気圧は6.6 barに設定しました。SPE充填剤をメタノールでコンディショニングした後、水で平衡化しました。血清サンプルをロードし、充填剤をまず水で、次にメタノール水溶液で洗浄しました(MeOH/H2O=15/85, v/v)。10分間送風乾燥をした後、分析対象物質をアセトニトリルで二度溶出しました。
Table 1に前処理プロトコルと、Positive Pressure Unitに設定したパラメータを示します。

Table 1. 加圧式固相抽出を用いたサンプルクリーンアップ用サンプル処理プロトコルとパラメータ
Figure 4. 対象ベンゾジアゼピン分析用のBiomek i7メソッド -SPEによるサンプルクリーンアップ
LC/MS/MSによる濃度測定
トリプル四重極LC/MS システム(Agilent Technologies, Waldbronn, DE Santa Clara(CA), US)を用いて、8種類のベンゾジアゼピンの濃度を測定しました。システムとデバイスの詳細をTable 6に示します。サンプル10 μLをトリプル四重極LC/MS システム(Agilent Technologies,Waldbronn, DE Santa Clara(CA), US)に注入しました。エレクトロスプレーイオン源は、極性モードはポジティブ、ガス温度350°C、流量10 L/min、ネブライザー圧50 psiにて分析しました。キャピラリ電圧は2,500 Vに設定しました。ダイナミック マルチプル リアクションモニタリング(dMRM)をTable 2に示すパラメータで実行しました。
Table 2. LC/MS/MS による分析に使用したダイナミックMRM(多重反応モニタリング)パラメータ
結果
8種類のベンゾジアゼピンのキャリブレーションデータをFigure 5に示します。サンプル前処理自動化のキャリブレーションは、スパイクしたブタ血清を使って行いました。ベンゾジアゼピンの濃度は80 ng/mLで、重水素化ベンゾジアゼピン(内部標準)の濃度は100 ng/mLでした。
再現性は、同じ日に前処理と分析を行った25サンプルで検討しました。変動係数(CV)は2.62% ~5.80%、回収率は89.25%~106.16%でした。ラボ間精度は、10サンプルでの前処理を4日連続で繰り返し測定して検証しました。日差再現性のCV値は2.01% ~5.89%の範囲でした。1サンプルを10回測定して得た測定精度のCV値は0.47%~3.06%でした。検出限界(LOD)、定量限界(LOQ)は、DIN 326456に準拠して、キャリブレーションデータ(Figure 5)から算出しました。各ベンゾジアゼピンの測定結果をTable 3に示します。

Table 3. スパイクしたブタ血清サンプル中のベンゾジアゼピン分析結果
Figure 5. トリプル四重極LC/MS システムによるベンゾジアゼピン8種のキャリブレーション
参考文献
- Sanabria, E.; Cuenca, R.E.; Esteso, M.Á.; Maldonado, M.: Benzodiazepines: Their use either as essential medicines or as toxics substances. Toxics 2021, 9(2), 1-18.
- World Health Organization: World Health Organization Model List of Essential Medicines.
WHO Reference Number: WHO/MVP/EMP/IAU/2019.06, 2019, online available:
https://www.who.int/publications/i/item/WHOMVPEMPIAU2019.06. - Wick, J.Y.: The history of benzodiazepines. Consultant Pharmacist 2013, 28(9), 538-548.
- O'Brien, C.P.: Benzodiazepine use, abuse, and dependence. Journal of Clinical Psychiatry 2005, 66(Suppl. 2), 28-33.
- Drummer, O. H.: Methods for the measurement of benzodiazepines in biological samples.
Journal of Chromatography B: Biomedical Applications 1998, 713 (1), 201-225. - Deutsches Institut für Normung e.V., " DIN 32645: Chemical analysis - Decision limit, detection limit and determination limit under repeatability conditions - Terms, methods, evaluation," Berlin: Beuth Verlag, 2008, pp.1-28
材料

Table 4. 使用した試薬および標準物質

Table 5. 96検体のサンプル前処理に使用した消耗品

Table 6. 使用した機器
Biomek i-Series自動化ワークステーションは、疾患等の診断での使用を意図しておらず、検証も行っておりません。
本プロトコルはデモンストレーションのみを目的としており、ベックマン・コールターによる検証は行っておりません。本プロトコルに関して、ベックマン・コールターは、明示または暗示を問わず、いかなる保証を行うものではありません。これには特定目的への適合性、または商品性、あるいはプロトコルの特許不権侵害の保証を含みますが、これに限定するものではなく、その他一切の保証を明示的に排除いたします。このメソッドの使用はお客様の責任のみにおいて行われるものとし、ベックマン・コールターは一切の責任を負いません。
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