Biomek i7ハイブリッド・加圧インテグレーションシステムによる唾液中のカンナビノイド分析前処理の自動化

Anna Bach, Heidi Fleischer, Kerstin Thurow
Center for Life Science Automation, University Rostock, Rostock, Germany

Bhagya Wijayawardena
Beckman Coulter Life Sciences, Indianapolis (IN), United States

 

概要

カンナビノイドの摂取は多岐に渡り深刻な影響を及ぼすため、現在、カンナビノイドの作用について広く研究が行われています。テトラヒドロカンナビノール[THC:(-)-Δ9-trans-tetrahydrocannabinol]をはじめとするカンナビノイドは、唾液からの検出が可能で、血液サンプルとは異なり、非侵襲的に検体が採取できます。この検出には、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)と呼ばれる検査法が最もよく使われますが、LC-MS検査のためのサンプル前処理は、とても時間がかかるという問題点があります。サンプル前処理を自動化すれば、再現性が向上するだけでなく、人的操作に伴うミスやマニュアル操作を減らすことも可能です。本アプリケーションノートでは、Biomek i7ハイブリッドワークステーションを用いた、唾液中のTHC分析用サンプル前処理の自動化を検証します。

 

はじめに

大麻製品の使用は広がっていますが、大麻は使用者に様々な影響を及ぼします。使用によりどのような作用あるいは副作用がどの程度出るかは、大麻の使用期間や使用量、慣化など様々な要因に左右されます。カンナビノイドが持つ急性の向精神作用により、記憶障害や、精神運動性機能および認知機能の低下、時間知覚障害が起こる可能性があります。大麻の使用は、メンタルパフォーマンスや集中力の低下につながります。大麻を長期間使用すると、耐性ができることが多く、これが精神的依存の原因となります。大麻の長期使用により、稀に統合失調症を発症するケースも見受けられます。このように、大麻は統合失調症や、その他精神病につながる可能性があります。女性ホルモン、男性ホルモンへの影響も報告されています1

こうした有害な作用が認められることから、大麻を短期あるいは長期で使用した場合の作用に関する研究が重要性を増しています。古くから用いられている大麻の検出方法は血液サンプルを用いるものですが、現在では唾液から検出することが可能です。唾液による検出には、非侵襲的にサンプルを採取できるという利点があります2,3,4 。このプロセスを自動化することで、サンプルスループットを飛躍的に向上させることが可能です。

 

方法

唾液中のΔ9-THC- D3, 11-OH-Δ9-THCおよび11-nor-9-Carboxy-Δ9-THCのサンプル前処理を自動化するため、固相抽出法を使用しました。抽出と予備濃縮にはStrata X-C マイクロエリューション96ウェルSPEプレート(Phenomenex, Torrance, USA)を使用しました。蒸発や再溶液調整のステップを追加する必要もなく、微量の溶出物から高い濃度の目的物質が得られました。メソッドの開発と評価には、人工唾液を使用しました。試験手順で使用した試薬類は、メーカーから購入し、ストック溶液を作製しました(Table 3:使用した試薬参照)。

固相抽出のステップを自動化するため、Positive Pressure Unit(amplius, GmbH, Rostock, DE)をBiomek i7ハイブリッドワークステーションの右側に組み込みました。デッキレイアウトは、Figure 1のように、一度に最大96サンプルを処理できるよう最適化しました。蒸発を抑え、溶液を節約するため、Self-Refilling Quarter Reservoir(amplius GmbH, Rostock, DE)をデッキに組み込み、必要量の溶液を都度供給できるようにしました。揮発性の非常に高い少量の内部標準液を蒸発から保護するため、標準液を特別に開発したアルミニウム製の蓋付クーリングアダプタ(amplius GmbH, Rostock, DE)に取り付け、冷却ポジション(INHECO Industrial Heating & Cooling GmbH, Martinsried, Germany, Figure 2)に設置しました。

 

Figure 1. THC分析のためのデッキレイアウト ー (1)チップボックス、(2)アルミニウム製アダプタに入れた内部標準液をセットしたスタティックペルチェALP、(3)Self-Refilling Quarter Reservoir、(4)追加の溶媒リザーバ、(5)内部標準液および希釈液用アルミニウム製バイアルアダプタ、(6)Eppendorfバイアルに入った血清サンプル、(7)溶出プレート、(8)Positive Pressure Processor、(9)Strata®X-C マイクロエリューションプレート(Phenomenex, Torrance, USA)。

Figure 2. (A)サンプルバイアル用ストレージアダプタ(CELISCA, Rostock, DE)、(B)Positive Pressure Unit (amplius GmbH, Rostock, DE)、(C)アルミニウム製アダプタ(CELISCA, Rostock, DE)、(D)Self-Refilling Quarter Reservoir(amplius GmbH, Rostock, DE)。

 

サンプル前処理プロトコルの詳細はTable 1に示すとおりですが、簡単にまとめると、次のようになります。唾液サンプルを1.5 mL Eppendorf safe-lock tube(Eppendorf, Hamburg, DE)に入れました。StrataX-C マイクロエリューションプレート(Phenomenex, Torrance, USA)を使用し、組み込んだPositive Pressure Unit(amplius GmbH, Rostock, DE)で固相抽出を行いました。内部標準液は、固相抽出のサンプルロードの段階で添加し、ピペッティングによるミックスにより唾液サンプルと混合しました。溶出、希釈、そして標準1.5 mLバイアル中の最終サンプルを処理するためにラボウェア交換を行った後、サンプル10 μLをLC/Q-TOF-MS(Agilent Technologies, Santa Clara, USA)に注入し、流速0.4 mL/minで分析しました。システムは内部標準法に従い、0.2 ~330 ng/mLの範囲でキャリブレーションを実施しました。全ての分注工程を、Biomek i7に搭載しているSpan8分注ヘッドを用いて行いました。

マルチチャネルヘッドを使用して分注工程を並行して実施すれば、スループットをさらに向上させることができます。Span 8の代わりにマルチチャネルヘッドを使うことで、96ウェルのStrataX-C マイクロエリューションプレートへの同時分注が可能です。その場合は、溶媒リザーバの追加はせず、フルサイズのマルチチャンネル用リザーバを設置し、マルチチャネルヘッドによる液体分注を行います。96サンプルを同時処理した場合、所要時間が10分短縮されます。Figure 3に変更デッキレイアウトを示します。

Figure 3. Biomek i7 Hybrid(Span-8およびMC)を使用したTHC分析用変更デッキレイアウト –唾液サンプルからカンナビノイドを分析するためのBiomek i7ハイブリッドワークステーションの(1)フルサイズのマルチチャンネル用リザーバ、(2)Span-8、(3)マルチチャネルヘッド

 

Table 1. 加圧式固相抽出を用いたTHC分析のためのサンプル処理プロトコル

 

Figure 4. THC分析用のBiomek i7メソッド(Span-8)ー SPEによるサンプルクリーンアップ

 

結果

Figure 5は、Δ9-THC- D3, 11-Hydroxy-Δ9-THCおよび11-nor-9-Carboxy-Δ9-THCのキャリブレーション曲線です。本自動化メソッドでの回収率は、89.62% ~108.34%となりました。再現性は10サンプルで測定されたデータから算出して検討しました。その結果、最大変動係数(CV)は、0.78%でした。ラボ内再現性は、10サンプルでのサンプル前処理を5日間繰り返して測定を行い検証しました。その結果、CVは1.32% ~3.97%でした。検出限界(メソッド)は、Δ9-THC-D3で0.037 ng/mL、11-nor-9-Carboxy-Δ9-THCで 0.942 ng/mLでした。11-Hydroxy-Δ9-THCの検出限界は0.328 ng/mLでした。定量限界(メソッド)は、Δ9-THC- D3で0.082 ng/mL、11-nor-9-Carboxy-Δ9-THCで2.247 ng/mL、11-Hydroxy-Δ9-THCで0.773 ng/mLでした。

唾液によるマリファナ成分検出に最も使用されるカンナミノイドはTHCです。文献によると検出限界は低く、0.05~ 1.1 ng/mLの範囲です5,6 。米国薬物乱用精神保健管理局(SAMHSA:Substance Abuse and Mental Health Service Administration)あるいは薬物・アルコール・医薬品が車の運転に与える影響を調べる研究プロジェクト(DRUID:Driving under the influence of Drugs, Alcohol and Medicines)が定義するカットオフ値は、THCで2 ng/mL、THC-OHで1 ng/mLです2 。(カンナビノイドの検出に)THC-COOHがほとんど使用されていない理由は、唾液中にわずかpg/mLレベルでしか存在していないためです。このレンジ(2~ 8 pg/mL)を検出できるメソッドは存在しますが、シグナルの強度を高めるため、蒸発濃縮7、誘導体化8、2Dクロマトグラフィー技術9を含むより広範なサンプル前処理、あるいはネガティブモードのイオン化7,10のステップを追加しなければなりません。

Figure 5. (A)Δ9-THC-D3、(B)11-Hydroxy-Δ9-THC、(C)11-nor-9-Carboxy-Δ9-THCのキャリブレーション曲線

 

参考文献

  1. Kintz, P.; Cirimele, V.; Ludes, B.: Detection of Cannabis in Oral Fluid (Saliva) and Forehead Wipes (Sweat) from Impaired Drivers. Journal of Analytical Toxicology 24(7), 557-561 (2000)
  2. Lee, D.; Huestis, M.A.: Current Knowledge on Cannabis in Oral Fluid. Drug Test Anal. 6(0), 88-111 (2014).
  3. Walsh, M.; Crouch, D.J.; Danaceau, J.P.; Cangianelli, L.; Liddicoat, L.; Adkins, R.: Evaluation of Ten Oral Fluid Point-of-Collection Drug-Testing Devices. Journal of Analytical Toxicology 31, 44-54 (2007).
  4. Cirimela, V.; Villain, M.; Mura, P.; Bernard, M.; Kintz, P.: Oral fluid testing for cannabis: On-site OraLine® IV s.a.t. device versus GC/MS. Forensic Science International 161(2-3), 180-184 (2006).
  5. Quintela, O.; Andrenyak, D. M.; Hoggan, A. M.; Crouch, D. J.: A validated method for the detection of Delta 9-tetrahydrocannabinol and 11-nor-9-carboxy- Delta 9-tetrahydrocannabinol in oral fluid samples by liquid chromatography coupled with quadrupole-time-of-flight mass spectrometry. Journal of Analytical Toxicology 31, 157-164 (2007).
  6. Sergi, M.; Bafile, E.; Compagnone, D.; Curini, R.; D’Ascenzo, G.; Romolo, F. S.: Multiclass analysis of illicit drugs in plasma and oral fluids by LC-MS/MS. Analytical and Bioanalytical Chemistry 393, 709-718 (2009).
  7. Lee, P. D.; Chang, Y. J.; Lin, K. L.; Chang, Y. Z.: Simultaneous determination of Δ9-tetrahydrocannabinol and 11-nor-9-carboxy-Δ9-tetrahydrocannabinol in oral fluid using isotope dilution liquid chromatography tandem mass spectrometry. Analytical and Bioanalytical Chemistry 402, 851-859 (2012).
  8. Coulter, C.; Garnier, M.; Moore, C.: Analysis of Tetrahydrocannabinol and its Metabolite, 11-Nor- 9-Tetrahydrocannabinol-9-Carboxylic Acid, in Oral Fluid using Liquid Chromatography with Tandem Mass Spectrometry. Journal of Analytical Toxicology 36, 413-417 (2012).
  9. Milman, G.; Barnes, A.J.; Schwope, D.M.; Schwilke, E.W.; Goodwin, R.S.; Kelly, D.L.; Gorelick, D.A.; Huestis, M.A.: Cannabinoids and metabolites in expectorated oral fluid after 8 days of controlled around-the-clock oral THC administration. Analytical and Bioanalytical Chemistry 401, 599-607 (2011).
  10. Sergi, M.; Montesano, C.; Odoardi, S.; Mainero Rocca, L.; Fabrizi, G.; Compagnone, D.; Curini, R.: Micro extraction by packed sorbent coupled to liquid chromatography tandem mass spectrometry for the rapid and sensitive determination of cannabinoids in oral fluids. Journal of Chromatography A 1301, 139-146 (2013).

 

使用した機器・試薬・消耗品など

使用した機器

Table 2. 使用した機器

 

使用した試薬

Table 3. 使用した試薬

 

使用した消耗品

Table 4. 使用した消耗品

 

再利用可能な消耗品およびアダプタ

Table 5. 再利用可能な消耗品およびアダプタ

 

 

Biomek i-Series自動化ワークステーションは、疾患等の診断での使用を意図しておらず、検証も行っておりません。

本プロトコルはデモンストレーションのみを目的としており、ベックマン・コールターによる検証は行っておりません。本プロトコルに関して、ベックマン・コールターは、明示または暗示を問わず、いかなる保証を行うものではありません。これには特定目的への適合性、または商品性、あるいはプロトコルの特許不権侵害の保証を含みますが、これに限定するものではなく、その他一切の保証を明示的に排除いたします。このメソッドの使用はお客様の責任のみにおいて行われるものとし、ベックマン・コールターは一切の責任を負いません。

 

Beckman Coulter、Beckman Coulter ロゴは、Beckman Coulter, Inc. の登録商標です。

  

自動分注機
Biomek i7

  • ハイスループット
  • 最大デッキ数:45ポジション
  • 分注レンジ:0.5~5,000 µL
  • シングル/デュアルヘッド

詳しくはこちら

お問い合わせ